2人目の赤ちゃんが生まれ、おむつ替えにミルクとお世話に大わらわ。そんなママのところに、「僕もおむつがいい!」、「私もおっぱい飲む〜」と、上の子が急にダダっ子化して…。これが世にいう赤ちゃん返りです。「どうしたらいいの?」というママの『SOS』に専門家が答えます。
上の子の「赤ちゃん返り」…その下に隠れた気持ちは?

下の子が産まれたら、上の子まで赤ちゃんみたいになる赤ちゃん返り。なぜ起こるのでしょうか? 発達心理学の専門家である秦野悦子さんは、次のように説明します。
「自分とママ、パパ、という家族構成。赤ちゃんの登場によって、その安定が崩されたと上の子は感じます。今まで100%自分に注がれていた周囲の注目が、赤ちゃんに奪われてしまったと実感するんですね。」
いわば、家族の中で主役の座を明け渡すことになります。これは、子どもにとってはとても衝撃的なこと。なんとかして大人たちの関心を取り戻そうという必死な気持ちの現れが「赤ちゃん返り」だと言います
「つまり、親の愛情を奪われたという、ある種の喪失体験をしているわけです。気持ちが不安定になり、『僕はここにいるよ!』『もっと私にも注目して!』と訴えようとするのも、ごく自然なことだと言えます。」
秦野さんは、赤ちゃん返りを「発達的にはきわめて正常な反応だ」と言います。
見逃しに要注意。「隠れ赤ちゃん返り」はありませんか?

赤ちゃん返りは、言葉通り“赤ちゃん化”して親の関心を引くことだと思ってしまいますが、「親の関心を得る方法は、普通の赤ちゃん返りだけではありません。『赤ちゃん返りしない』という『赤ちゃん返り』もあります」と、秦野さんは話します。
赤ちゃん返りしない赤ちゃん返りとは、どういうことでしょうか。
「たとえば、まるで小さいママのように赤ちゃんの世話を焼く子がいます。これは、『いい子ね』といわれる自分になることで、親の評価を買おうとしている状態。要するに、とても頑張って、過剰なほど状況に適応しているのです。」
もともと聞き分けのよい子だったりすると、これは見逃してしまうかもしれません。なお、赤ちゃん返りに「年齢は関係ない」のだそうです。
「大きくなったお子さんは、自分に何が期待されているかが分かります。そのため、特に過剰適応という形をとる場合が多くなるでしょう。でも、どこかで満たされない思いを埋めようとしていると思います。」
秦野さんによると、家ではききわけのいい子にしか見えない上の子が、幼稚園や保育園では先生にくっついて離れない、あるいは満たされない思いをぶちまけるかのように乱暴な言動をするといったことが多いそう。
「上の子にかかわるいろいろな人に様子を聞くなどして、赤ちゃん化のサインを拾ってください。そして、もし無理をしていると感じるようなエピソードがあったら、甘えられる時間や場所を、ちゃんと作ってあげてほしいと思います。」
秦野さんはそのように話します。
赤ちゃん返りに困ったら?心がけの基本は「上の子優先」

「赤ちゃん返りが出てきたな」と思ったら、親はどんな対応をすればいいのでしょうか?
「良く言われるのは、下の子より上の子を優先してあげるということ。これはまさにその通りだと、私も思います」と秦野さん。
「たとえば上の子はジュースをこぼし、下の子はおむつが汚れて同時に泣いたとしたら、なるべく上の子から対応する。これは、ママに気にかけてもらいたいという上の子の気持ちに応える、ひとつの手だてになります。」
また、年齢によって、対応のコツもちょっと変わってくるとか。
「1歳〜2歳くらいの場合、上の子もまだまだ赤ちゃんに近いです。この場合、親は上の子を上の子扱いせず、ふたりとも赤ちゃんとして世話するくらいでちょうどいいかもしれません。」
また、重要なのは3歳頃で、「対処がいちばん大変な年齢」だと秦野さんは話します。
「3歳は幼児と赤ちゃんの真ん中。知的な面でも感情の面でも、状況が理解できているようで理解できていません。また、ほどほどにお話はできますが、だからといって自分の気持ちを適切に語れるわけでもない。そのため、ワーッと激しい赤ちゃん返りを起こすことがありえます。」
その場合は、どんな対策をすればいいのでしょうか?
「『できるでしょ』と突き放さないこと、また、親はいつでも上の子の感情を受け止めるという心構えでいること。膝に下の子をのっけたとしたら、反対側の膝を、いつも上の子のためにあけておく…そんなつもりでいてあげるのがいいでしょう。巣から飛び出したヒナが親の元へ戻ってきたようなものです。」
一方、4歳〜5歳からは、『ママの同志』の位置につけると意外にうまくいくそう。
「『赤ちゃんのお世話、大変なの』と軽く愚痴めいたことを言ってみたりして、ママと横並びの位置に居場所を作り、一緒に赤ちゃんに対応するのです。そうすると、子どもはママと状況や気持ちを共有していると感じ、安心してくれるでしょう。」
大丈夫!いつまでも「赤ちゃん」ではありません
いろいろと対処しても赤ちゃん返りがおさまらず、ママのほうも、どうしてもため息が…そんなこともあるでしょう。一般的に、赤ちゃん返りはどれくらい続くものなのでしょうか。
「一概には言えませんが、子どもは赤ちゃん返りからちゃんと卒業していくことに間違いありません。」
では、どうなれば卒業に向かっていけるのでしょうか。
「自分が愛されているのだと理解できれば、卒業に向かって進み出すことができます。子どもは、安心と安全が確認できれば外へ向かって歩き出していくもの。自分の立場がなくなる不安や恐怖が和らげば、自然と親にしがみつくのをやめるでしょうね。」
なるほど。あなたの居場所はここにあるよ、ちゃんと見ているよ、という気持ちが伝わるように、子どもをサポートしていけばいいのですね。
「そのとおりです。赤ちゃん返りは、言い表せば階段の踊り場。次の成長のためのショートストップの時期なので、大らかにつきあってあげてください。」
ただ、やりたい放題、言いたい放題にさせるのとは別。「子どもの召使にならないこと、本人の感情に巻き込まれないように注意してくださいね」と秦野さんはアドバイスします。
どんなときも子どもの気持ちを支え、受け止めながら、ゆっくりと成長を見守りたいですね。