子どもたちの憧れの職業について、その道のプロからお話を伺い、子どもたちの夢の育みをサポートする『子どもの夢応援企画』。今回は「イルカの飼育員(イルカの調教師、ドルフィントレーナー)」。下田海中水族館で入社以来9年にわたってイルカの飼育員を担当し、毎日海上ステージのイルカショーに出演中の、米良由希さんにお話を伺いました。

水族館大好き!小学生の頃から夢は「水族館で働くこと」
小学生の頃から生き物が好きで、家族で水族館や牧場、動物園を訪れるのが何より楽しみだったという米良さん。中でも、自宅近くの鴨川シーワールドには、何度も家族で訪れたそう。しかし、イルカが好きでたまらない!というわけではなかったのだとか。
「イルカなど特定の生き物が好きというよりも、水族館に行くこと自体が楽しみで、将来の夢は『水族館に勤務すること』でした。」
その後、理数系の強い高校に入学後、水族館で働きたいという想いは年を重ねるごとに強くなり、たくさんの水族館を見るためにアルバイトを始めたそう。そして、高校卒業後は水族館スタッフを目指せる専門学校へと進みます。
水族館への道は狭き門。1度は就職浪人も覚悟
水族館への就職は欠員募集が基本なので、専門学校を卒業しても、水族館で働ける保証はありません。例年就職率も5%〜30%と、水族館への就職はとても狭き門です。米良さんいわく「専門学校時代にどれだけ自発的にアプローチするかで、水族館に就職できるかどうかが決まる」そう。
「どんなに学校の成績が優秀でも、水族館の方から声をかけてもらえなければ飼育員にはなれません。専門学校では、実際に水族館で働きながら生き物の知識や仕事内容を学ぶ、実習や研修があります。そのときに、自分の熱意をどれだけアピールできるかが鍵。受け入れ先の水族館でいざ欠員が出たときに『あの人にお願いしよう』と思ってもらえることが重要なんです。」
米良さんも第1希望だった水族館は募集が1名しかなく、残念ながら採用を勝ち取ることはできませんでした。就職浪人も覚悟した中、現在の職場である下田海中水族館で働く先輩から「下田海中水族館で募集がでそうだが、よければ来ないか」と声をかけてもらえたそう。
こうして無事、「水族館で働きたい」という小学生の頃からの夢が叶ったのです。
決まった動物だけ好きはNG!水族館で働けるだけで幸せ

水族館に入ると、まず自分が担当する生き物が言い渡されますが、1度担当の生き物が決まると、基本的にずっと固定で、別の生き物に変わることはあまりないのだとか。
「水族館ではさまざまな生き物を飼育しているので、必ずしも自分が好きな動物を飼育できるとは限りません。そのため『どうしてもイルカの飼育員になりたいです!』という人は違う生き物を担当することになったときに、仕事のモチベーションを保てないので、特定の動物よりはどの動物も好き、水族館で働ければそれがベスト、と思えることが大切です。」
米良さんも、専門学校時代はアシカやアザラシを担当していたのですが、入社するとイルカを担当するように言われます。しかも、前任者が急な退職だったため、入社初日から急きょショーに出演することに…!
「通常だとエサの魚を切ったり、バケツを洗ったりという雑務や掃除からスタートして、入社してしばらくは新人がショーに出ることはありません。でも、私が入社したときは本当にバタバタで、入った初日からショーに出て、1週間でサインを覚えて…気づけば1人で6頭のイルカの飼育を担当していました。目の前の仕事をこなしていく多忙な日々で、正直当時のことはあまり覚えてないんです。ただただ必死でした。」
生き物を相手にする苦労とそれを乗り越えたときの感動

中でも新人の米良さんを苦しめたのが、イルカとのコミュニケーション。
「生き物を相手にしているので、イルカの体調や気分次第でこちらの思うような動きをしてくれないときは本当に大変です。イルカはとても賢いので、新人とベテランを見分ける子もいるんです。新人の私が担当になった途端、水に入ってサインを出してもイルカがまったく動いてくれず、近寄ってみても手を噛まれたり…。」
ショーのクオリティが下がってしまうため、お客さんにも申し訳なく思い、当時は出社するのが苦痛だったという米良さん。しかし、そんな米良さんを支えたのはベテラントレーナーの一言でした。
「あまりに上手くいかず、1度会社で泣いてしまったことがあるんです。そのときに『俺にも同じようなことがあった。相手は動物なので、噛むこともある』と先輩に声をかけてもらいました。『やるしかないよ』と。短いですけど、とても重みのある言葉でした。」
その後、イルカが米良さんをトレーナーとして認め、ショーで種目ができたときは「やっと許してくれた!」と、イルカと心が通ったことに大きな喜びを覚えたそう。
「私たちの仕事では、常に動物を相手にしていることを忘れてはいけません。イルカのコンディションは毎日変わります。でも、お客さんにとっては見に来てくれたその1回のショーがすべてなので、見せるクオリティはいつも一緒じゃないといけない。苦労も多いですが、サインとタイミングがぴったり合ってイルカと心が通じたように感じる瞬間や、ショーでお客さんの歓声や拍手が聞こえた瞬間の、やりがいや達成感は本当にもう…! 言葉に表せないほど素晴らしいものですよ!」
子どもたちの素朴な疑問に米良さんがお答え!
ここで米良さんに、子どもたちから寄せられた3つの質問に答えてもらいました。
どうしたらイルカと仲良くなれますか?

イルカは人間と違って言葉がわからないので、「仲良くなりたい」という気持ちを態度で示すことが大切です。練習以外でも頻繁に顔を見せに行ったり、スキンシップをとったり。また、コンディションが悪いときに、無理に技を練習させるなど、イルカの嫌がることは強要しないように心がけています。
海にいるイルカも人間といっしょに遊んでくれますか?

水族館のイルカは訓練されているので人間が危害を与えないことを知っていますが、野生のイルカは人間がいきなり触ろうとすると、敵とみなして攻撃することもあるので危険です。無理に近寄ったり後を追いかけるのではなく、イルカの方から近づいてくるのを待てば、ひょっとしたら遊んでくれるかもしれません。
イルカは何を食べているの?

水族館のイルカは、冷凍の魚を食べています。サバやアジなど、1年中日本で手に入るもので栄養があり、なおかつ安いものが基本です。イルカには歯があって、口の中まで手を入れるとエサと一緒にガブリと噛まれてしまうので、魚の頭をイルカの方に向けて、口の中にぽんっと優しく投げ入れるようにしてあげています。
将来イルカの飼育員を目指す子どもたちへ
最後にイルカの飼育員を目指す子どもたちにメッセージをいただきました!
「まずは、生き物が好きだという気持ちを大切にしましょう。イルカの飼育員は、8時間勤務のうち座っている時間はせいぜい30分くらいで、体力的にも大変な仕事です。真冬にも毎日欠かさずショーやトレーニングはあり、水温12度〜13度の水の中に飛び込まなければなりません。そんなときに心の支えとなるのが、『動物が好き』という気持ちです。」
「スキルでいえば、お客さまと接することが多い職場なので、コミュニケーション能力は必要ですね。ショーでお客さんを喜ばせるだけでなく、お客さんたちに動物たちのことを教えるというのも大切な仕事です。また、イルカのコンディション次第でショーの途中で急きょ種目を変更することもあるので、緊急時にもメインのトレーナーを周りのスタッフでバックアップできるよう、日頃からチームワークを大切にすることが求められます。子どもの頃から、周りの友達と積極的に会話をするように心がけましょう。」
下田海中水族館では、将来イルカの飼育員になりたい子どものために、職業体験プログラム・こども飼育員「わくワーク」を実施中です。遊ぶことが目的の「イルカとのふれあい」とは一線を画すプログラムで、水族館の飼育員が、実際にどのような仕事をしているのか、間近で観察・体験することができます。「水族館で働きたい」「イルカの飼育員になりたい」という夢を持つお子様にピッタリの職業体験ですので、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。
取材協力:下田海中水族館

「イルカと遊べる!イルカと泳げる!」をキーワードに、イルカとのふれあいが楽しめる水族館。自然の入り江をそのまま利用した「ふれあいの海」は、東京ドーム約1個分の広さがあり、ウェットスーツ・マリンブーツ・ライフジャケットを着用し、イルカの観察・ふれあいが楽しめる「うきうきドルフィン」など体験プログラムを多数開催。2016年3月からは、イルカの飼育員の職業体験プログラム・こども飼育員「わくワーク」もスタート。
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