子どもたちの憧れの職業について、その道のプロからお話を伺い、夢の育みをサポートする『子どもの夢応援企画』。今回はその歌声で多くの人を魅了する「歌手」。『となりのトトロ』などのジブリ作品で数々の楽曲を歌ってきた井上あずみさん(52)と、その娘で同じく歌手のゆーゆさん(12)にお話を伺いました。
歌手は3歳からの夢! とにかく歌が大好きだった
『天空の城ラピュタ』の「君をのせて」や『となりのトトロ』の「さんぽ」など、ジブリ作品には欠かせない名曲の数々を歌う歌手の井上あずみさん。3歳頃にはすでに歌手を目指していたそう。
「歌がとにかく好きだったんですけど、実は音楽の成績はよくなかったんです(笑)。声は当時から大きかったんですけど、音を取るのが苦手でした。それでも何とか上手くなりたかったので、地元の児童合唱団に入ったんです。そこで練習するうちに、ちゃんと音が取れるようになりました」
小学生時代から各地で開催される「のど自慢大会」に出場していたという井上さん。出場した大会で、地元で活動されていた歌手で作曲家の乙田修三さんに声をかけてもらったことをきっかけに、本格的に歌のレッスンを開始。新人歌手発掘を目的としたオーディション番組にも挑戦するようになります。
「ある番組ですごくいいところまで行ったんですが、最終選考で残念ながら落ちてしまって…。そのときに言われたのが『歌だけが上手いだけじゃダメ』ってことでした。その頃の私はお化粧も上手にできなかったし、おしゃべりも得意じゃなかった。それからは歌以外のことも頑張るようになりました」
多くのオーディションを経て念願の歌手デビュー
努力に努力を重ねた井上さんがデビューのチャンスを掴んだのは18歳の時。アイドル歌手としてのデビューでしたが、ヒット曲に恵まれずつらい時期が続いたと言います。
「私がデビューしたのが1983年。当時は一足先にデビューして『花の82年組』といわれた中森明菜さんや小泉今日子さんたちの人気が絶頂の時期。新人はなかなかテレビで歌う機会をもらえず、仕事といったらテレビのレポーターや2時間ドラマのちょい役みたいな感じで…。それだけでは生活できなかったのでアルバイトもしていました」
「そんな時期に『アニメ映画のオーディションがあるよ』って声をかけてもらったんです。これが私とジブリ作品との出合いでした」
人生の転機 不遇の時代に出合ったスタジオジブリの楽曲
井上さんが最初に担当した曲は『天空の城ラピュタ』の挿入歌「君をのせて」。そのレコーディングは劇場公開の1カ月前というギリギリのタイミングだったといいます。
「この曲は低音から高音まで音域の広い曲だったので難しかったですね。当時も昼は喫茶店でアルバイトをして、夜レコーディングするような生活だったので、時代を超えてこれほど多くの方に自分の歌を聞いてもらえるなんて夢にも思っていませんでした」
「続く『となりのトトロ』で主題歌の『となりのトトロ』と『さんぽ』を担当させていただいたんですけど、実は『さんぽ』に入っている私の声は仮歌で本番用に時間をかけて録音したものではないんです(笑)。もともと児童合唱団の子たちが歌う予定だったんですが、私の声も入っていた方がいいという話になって、急きょ仮歌が採用されたんです。そういうことがあるから、娘のゆーゆにも仮歌から全力で歌いなさいって言っています(笑)」
天職ともいえるファミリーコンサートをスタート
こうして老若男女に好かれる数々の名曲に出合えた井上さんが、もっとたくさんの人に歌を届けたいと思って始めたのが、ファミリーコンサート。
「最初は子ども向けに歌うのには少し抵抗があったんです。でもそういうのってちゃんと子どもに伝わるんですね。すぐに飽きて全然歌を聞いてもらえなかったです。それからは全力で子どもと向き合おうと気持ちを切り替えました。あいさつから明るく元気に、そして子どもたちと視線を合わせて話すようにしました。そうするうちに子どもたちの笑顔が増えて、各地からオファーをいただけるようになったんです」
「それから20年以上続けてきたファミリーコンサートですが、最近は子どもの頃に聞いたという人がお父さん、お母さんになって今度は自分の子どもを連れて聞きに来てくれるということが増えてきました。そういうお話を聞くと、『ずっと歌い続けてきてよかったな』と思いますね。こうやって2世代、3世代で楽しんでいただける曲に出合えたのはラッキーだったし、本当に幸せなことだなと思います」
子どもたちの素朴な疑問に井上さんがお答え!
ここで井上さんに、子どもたちから寄せられた3つの質問にも答えてもらいました。
上手に歌うにはどんな練習をしたらいいですか?
「大きな声を出すこと、大きな口を開けて歌うことが、上手くなるための第一歩です。あとは自信をもって、笑顔で楽しく歌うこと! 最初はあまり音程を気にしないでも大丈夫。 ピアノの伴奏にあわせて歌うようにすると、自然と音が取れるようになりますよ」
歌っていて歌詞を間違えたことはありますか?
「すごくたくさんあります(笑)。実は、子どもの時にのど自慢大会で歌詞が飛んで母親に怒られたことがあって、しばらくはそれがトラウマで上手く歌えなくなってしまいました。間違えないように神経質になりすぎるのもよくないので、今は『間違えることもある!』くらいの気持ちで歌うようにしています」
子どもの頃から歌うことは好きでしたか?
「はい、すごく好きでした! 当時は岩崎宏美さんの大ファンで、よくマネして歌っていましたね。歌が本当に好きだから、練習も頑張れたんだと思います。好きだと思ったら下手でも一生懸命やることが大事。努力すれば必ず結果になって表れるはずです」
娘・ゆーゆさんが6歳で歌手デビュー!
ファミリーコンサート以外にも海外でのイベントなど活動の場を広げる井上さんですが、2012年には当時6歳だった娘・ゆーゆさんが歌手デビューを果たします。歌手として2人でステージに立つと同時に、ゆーゆさんを見守る母としての顔も。
「娘が歌手になりたいと言ってくれたのはすごくうれしかったです。小さい頃から私の仕事を見ていてそう思ってくれたのかなと。歌以外にも子どもが興味を持ったことはできるだけやらせてあげたいと思っています。今、ゆーゆはお芝居にも挑戦しているんですが、歌の時と違って、私は具体的なアドバイスをしてあげられない。でも、歌でもお芝居でも、どこにいっても変わらずみんなに好かれてかわいがられる、そんな女性になってほしいと思っています」
親子での今後の目標は?
「来年でデビュー35周年を迎えますが、ここまで頑張ってやってきたので、できるだけ長く歌い続けたいと思います。最近は海外のイベントに声をかけていただくことも多いので、私たちの歌声をもっと世界中に届けられたらうれしいです。35周年のコンサートでは、ゆーゆと2人で寸劇みたいなこともやってみたいですね(笑)」(井上さん)
「このまま歌もお芝居も頑張っていきたいです。お芝居は自分では絶対に体験できないことが舞台の上では体験できるので、それがとてもおもしろいです。憧れは歌手でミュージカルでも活躍している新妻聖子さん。いろいろなジャンルで幅広く活躍できる人はすごいなと思うので、私もそういう人になれるように頑張りたいです」(ゆーゆさん)
興味を持ったら即行動! 周りの人への感謝も忘れずに
最後に、井上さんとゆーゆさんから歌手を目指す子どもたちにメッセージをいただきました!
「どんな夢でもそうですが、夢を持ち続けることが大事! その上でそれをどうやって実現するのかを考えて、行動していってほしいなと思います。それにはお父さんやお母さんの協力も必要です。ご飯を食べる時間など、できるだけ団らんの時間を作って、いろいろな話をしてください。親子でよくコミュニケーションを取って、子どもの夢を家族みんなの夢として応援してあげてくださいね」(井上さん)
「私が自分の夢を叶えたように、みんなにも夢を夢で終わらせないでほしいなと思います。そのためには、自分の夢や目標に近づくために役に立つと思うことは、集中して頑張ることが大事。学校では苦手なことややりたくないなと思うこともあるかもしれませんが、やらないで諦めず、一度はチャレンジしてみましょう。そこに新しい発見や、いつか夢の実現に役立つことがあるかもしれません」(ゆーゆさん)
井上あずみさん、ゆーゆさん、貴重なお話をありがとうございました。『子どもの夢応援企画』第24回は「デザイナー」です。お楽しみに!
ゆーゆさんが出演するイベントにも注目!
■見て、歌って! 家族みんなで楽しめるコンサート
ゆーゆさんが出演するコンサート「芸大とあそうぼうin北とぴあ 動物たちの運動会」が11月11日に開催されます。東京芸術大学の学生、卒業生によるオーケストラの生演奏に歌やダンス、みんなで歌って楽しめるコーナーなど、盛りだくさんのクラシックコンサート。ゆーゆさんはネズミのチュー助役でゲスト出演予定です。「大人も子どもも、家族が一緒に楽しめるステージになっていますので、ぜひ遊びにきてくださいね!」(ゆーゆさん)