本人はいたって真面目に、一生懸命に歌っているつもりでも、音程を無視した大きな声を張り上げてしまう子どもたち。どうして子どもはこのように「大声音痴」なのでしょうか。歌が上手な子に育てる方法を、音痴矯正のプロ・高牧康さんにうかがいました。
「元気に歌おう!」が音痴の要因
「子どもが音程度外視で大きな声を張り上げて歌うのは、教育現場でそのように指導されているということが大きな要因です。ほとんどの公立の学校の音楽の授業が、音楽的なレベルを上げるものではなく、“明るく、楽しく、元気よく”という方針で行われているんですね。」と高牧さん。
子どもらしく、大きな声で歌うことが美徳とされ、美しく歌うということが重視されていないのが、現状だそうです。
また、ピアノを上手に弾けない教師が増え、伴奏を子どもに合ったキーですることができず、音域が広くない子どもが大人のキーで歌うことを強要させられるというケースも多いとのこと。
高牧さんは「“明るく、楽しく、元気よく”ではなく、“清く、正しく、美しく”がキレイな歌声を作る音楽のあるべき指導方針」だと語ります。
生まれつき音痴の子どもはいない
高牧さんは「生まれつき音痴の子どもはいません。周りの大人が子どもにどんなふうに接するか、どんな音楽に親しませるか、どんな歌唱経験を与えるかで、叫ぶように歌う子や正しい音程で歌えない子を減らすことができます。」と話します。
例えば父親が幼児に話しかけるときは、なるべく高い声(裏声)を使い、歌うような抑揚にするとよいそうです。
「関西弁の親に育てられた子どものイントネーションが、関西弁になってしまうのと同様に、低い声、ガラガラした声で話しかけ続けると、子どもが大きくなったときに、同じような声になる確率が高いのです。」
親が音痴な歌を歌って聞かせると、遺伝のように子どもも音痴になってしまいますから、子どもに聞かせる歌には気をつけなければいけませんね。
また、子どもはお腹の中にいた時から母親の声を最も多く聞いているので、高い声を聞くと自然と安心感を覚えます。高い声は小さな生き物が出す声でもあるので、自分よりも弱いものが出す声だと感じ、警戒心がなくなるのだそう。
子どもにとっては高い声で接することは将来の声を左右するものでもあり、心地よくいられるものでもあるのです。
子守り歌から「音育」を始めよう
子どもに良い声、良い音を聞かせることが重要ということがわかりましたが、具体的にはどんなことをするとよいのでしょうか。
「最初は、母親が子守歌を聞かせること」と高牧さん。それだけでいいの?と思われそうですが、伴奏なしのアカペラの歌が赤ちゃんには何よりのものだそう。
「食べ物も、最初は味の濃いものは与えませんよね。子どもの頃から濃いものを与え続けると味音痴になってしまいます。それと同じで、単純な音から聞かせていくのが一番です。食育同様、親には子どもの音育を考えてあげてほしいですね。」
ロックのようにあまりにもにぎやかで、さまざまな楽器が奏でる音楽や、ラップのように音程を取る音楽ではないものなどは、子どもにとって負担になります。このような音楽は子どもが大きくなって自分で選ぶようになってから聞けば良いそうです。
そして「次の段階は、親子で一緒に歌うこと。」
母親のやさしい、ささやくような声に合わせて歌うことで、自然とそのような歌い方が身につきます。単純ですが、母との音楽のコミュニケーションが子どもにはとても大きな影響を与えるのです。
どんな歌を選ぶといいの?
「歌って聞かせたり、一緒に歌うのは、子どもが歌うために作られた『童謡』がよいそうです。似ているようですが『唱歌』は愛国心を助長するために作られたもので、子どものために作られたものではありません。」
同じフレーズを繰り返していたり、単純なモチーフが登場するという点で、童謡が子どもには好ましいジャンルとのこと。
「読み聞かせの本と同じように、歌い聞かせの本もたくさん出ています。お母さん自身が音楽に精通していなくても、そのようなツールを用いて子どもに歌を聞かせたり、一緒に歌ったりすることはできますから、ぜひ子どものためにやってみてくださいね。」
クラシックなど高尚な音楽を聞かせることが重要と思いがちですが、一番身近な母親の歌声が何よりの音育になるというのは意外でしたね。親子のコミュニケーションの1つとして、日々の生活に楽しく歌う時間を取り入れてはいかがでしょうか。