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子どもの夢応援企画第5回:パティシエ 辻口博啓さん

掲載日: 2015年12月7日更新日: 2016年12月6日石橋 夏江

子どもたちの憧れの職業について、その道のプロからお話を伺い、子どもたちの夢の育みをサポートする『子どもの夢応援企画』。第5回は、みんなが大好きな、甘くておいしい洋菓子を作り出す「パティシエ」! 自由が丘のパティスリー「モンサンクレール」などを手がけるパティシエ・辻口博啓さんにお話を伺いしました。

小3で出会ったケーキの味が人生を変えた!

現在、「モンサンクレール」をはじめとする12ブランドを手がけ、世界を舞台に活躍する辻口さん。実は実家は和菓子屋さんで、幼い頃はその店を継ぐことを考えていたんだそう。そんな辻口さんの人生を一変させる出来事が起きたのは小学校3年生の時。

友達の誕生会で初めて食べたショートケーキの味に衝撃を受けて、あまりのおいしさにお皿までなめる勢いで食べました。『世の中にこんなにおいしいものがあるんだ!』って。その感動が今でも舌に残っていて、僕を突き動かす原動力になっています。」

この出来事をきっかけにすっかり洋菓子に魅せられた辻口さんは、洋菓子を学びその道を極めることを決意します。

住み込み修行から始まったパティシエ人生

高校卒業後、洋菓子の勉強をするために上京した辻口さんは、修行のため都内のお店で住み込みで働き始めました。

「最初はとにかく掃除。その後もなかなかお菓子に関わる仕事はできなかったですね。できたとしても、ケーキに透明フィルムを巻いたり、焼き菓子を袋に詰めたりとか。でも当時はそういうことすら楽しかったですし、すべての作業を学びとして捉えていました。」

当時の僕が心がけていたのは、同じ時間でほかの人より少しでも多くの仕事をこなすこと。多くの仕事をこなすには、それだけ創意工夫をすることが必要です。お菓子の袋詰めなら、袋の角度や手の湿らせ方をどうすると早く詰められるのか、とか。貪欲に自分から進んで仕事に取り組み、言われたことの2倍、3倍やる…、そういう努力が、今の自分に繋がっていると思いますね。」

チャンスを広げたコンクールへの挑戦

就業後の時間も使いながら、お菓子作りの知識と技術を磨き続けた辻口さん。その中で国内外の様々なコンクールに挑戦したことも、さらなる成長に繋がったと言います。

「たくさんのコンクールに挑戦することで、悔しい思いも嬉しい思いもたくさんしました。コンクールは自分の実力を客観的に知るためのバロメーターのひとつです。海外のコンクールに参加することで、世界の人とコミュニケーションが取れるし、今、世界はどういう方向で物作りをしているのかということも見えてくるんです。」

さらに、フランスで半年間の修行を経験することでより一層視野が広がったと言います。

「技術的なことよりも、いろいろな国の人がいて、いろいろな考え方があることを感じられました。人間としての視野が広がったと思います。また海外に出て初めて、日本を俯瞰で見ることができようになりました。日本の文化や歴史を生かしながらお菓子作りをしていく大切さに気付かせてくれたのは、この海外での経験があったからだと思います。」


お菓子には世界中の人を笑顔にできる力がある!

約10年の修業期間を経て、1998年に自由が丘にパティスリー「モンサンクレール」をオープン。その後、コンセプトの違う様々なブランドを立ち上げ、今や日本だけでなく世界中から注目される存在に。そんな辻口さんが考えるパティシエの仕事の魅力とは?

お菓子で自己表現できるというのが一番の魅力じゃないでしょうか。お菓子そのものが世界の共通言語みたいなもので、言葉や文化の違う世界中の人に向けて自分の思いが発信できるんです。僕のことを知らない人にも、お菓子を食べることで興味を持ってもらうことができる、そういう力がお菓子にはあるんです。」

「だからと言って、パティシエの仕事も楽しいことばかりではありません。時にはプライベートの時間を削って、練習や勉強したりケーキの試作をすることもあります。それが辛くて諦めちゃう人も多いけど、自分が『これ!』と思った仕事に命を掛ける、一生を掛けれるのってすばらしいことだと思います。そういう気持ちで頑張ることで、世界中の人を笑顔にできるお菓子が作れるようになると思うんです。」

世界中のお菓子や料理、先輩たちの活躍が大きな刺激に

世界に認められる存在となってもなお、新しいことに挑戦し続ける辻口さんですが、そのエネルギーの源とは?

「やっぱりお菓子が好きだからでしょうね。あとは、日々登場する新しいものに常に刺激を受けています。お菓子だけでなく、世界各国の料理などにもアンテナを張るようにして。それを参考に自分はパティシエとしてどう表現して行けばいいのかを考えています。」

「それに世界には頑張っている先輩たちがたくさんいる。ロブションにしてもそうだし、ピエール・エルメもジャン=ポール・エヴァンにしてもそう。そういうエッジの効いた人たちのコンセプトに触れた時に、自分も頑張らないといけないなってパワーがもらえるんです。あとは自分をいかに奮い立たせて頑張れるか。最後は自分自身との戦いですね。」


子どもの頃に様々な経験をし、考え方を身に付ける

辻口さんのようなパティシエに憧れる子どもたちも多いと思いますが、どうしたらパティシエになれるのでしょうか? 辻口さんは大切なことは3つあるといいます。

1.段取り力

「お菓子作りには段取りが大事。どんなに上手に生地をこねても、いざ焼こうと思ったらオーブンに火が入っていなかったでは台無し。おいしいお菓子作りには段取りを考え、優先順位を付けながら作業することが大切なんです。これはパティシエだけではなく、どんな仕事にも必要なこと。社会に出る上で身に付けておくと役立つはず。」

2.整理、整頓、片付け

「お菓子だけでなく、食べ物を扱う上で大切なのが衛生管理。子どものうちから、身の回りを整える習慣を付けたり、清潔を保つことの大切さを知っておくといいと思います。」

3.自然の中で遊ぶこと

「海や山で思い切り遊んで、遊びの中から学ぶことも大事。実際、僕も子どもの頃は蜜を吸いに木に登ったり、海に潜ってサザエやアワビを獲って食べたりしました。自然との触れ合いやその中で学んだことは今の仕事にも生きている気がします。」

確かな知識と技術を身に付けるには親のサポートも大切

親にできるサポートとして、環境作りも大切とのこと。

「パティシエになるためには、技術はもちろんですが様々な知識や考え方を身に付ける必要があります。そのためには小さいうちから親が情報を与えてあげることが大切なんです。」

「今、日本スイーツ協会では、『スイーツコンシェルジュ検定』という資格を設け、スイーツを通した食育“スイーツ育”に力を入れています。そこでは、ブルーベリータルトひとつを作るとしても、素材に関する知識、お菓子作りをするための衛生管理や段取りなどの大切さを学びます。パティシエを目指す第一歩として、そういったことをお家でもサポートできるといいと思います。」

最近は専門的な知識や技術を身に付けるために製菓学校に通う人も多いと思いますが?

製菓学校に通う際には自分は何を学びたいのか、その学校は通う意味のある学校なのかをしっかり見極めてほしいですね。ぜひ、本当にすばらしい教育や人に出会える学校を選んで欲しいと思います。」


子どもたちから素朴な3つの疑問

お菓子の魅力はなんですか?

「お菓子は自分を表現できるツール。お菓子を通して世界中の人に自分の思いを発信できたり、みんなを笑顔にできるのが魅力だと思います。ちなみに僕自身は、子供の頃から変わらずチョコレートとクレープ、それからショートケーキが大好きです。」

お菓子を作っていて失敗したら、食べれるんですか?

「何で失敗したのかを知るためにも、失敗作を食べてみることはとても大切です。1個のケーキを完成させるために何百個も試作と味見を繰り返すので結構太ります(笑)。」

男の人のパティシエが多いのはなぜ?

「特に男性の方が向いているということではありませんが、女性の方が結婚や出産などライフスタイルの変化で現場を離れる人が多いかもしれません。ただ、育児が落ち着いた後に現場に復帰するという人も最近は増えてきていますよ。」


お菓子で世界中に笑顔を広げていける生き方を!

最後に夢に向かって頑張る子どもたちに、辻口さんからメッセージをいただきました。

お菓子は相手を喜ばせたり笑顔にするためにあるもの。そんな笑顔をたくさん広げて行けるような生き方をしていってください。興味があれば、ぜひスイーツコンシェルジュ検定で、お菓子の様々な歴史や物語についても学んでみてください。」

「僕の今の夢は世界中の人たちでありとあらゆるお菓子を持ち寄って語らう、スイーツコミュニティを作っていくこと。目指すは、『スイーツで世界平和』! そういう思いで頑張りたいと思います」

辻口さん、貴重なお話をありがとうございました。『子どもの夢応援企画』第6回は「バレエダンサー」です。お楽しみに!

「夢応援企画(将来なりたい職業紹介)」の記事一覧はこちら

お話を聞いたのは…

  • 辻口博啓さん ※「辻」はしんにょうの上の点が1つ

    1967年石川県七尾市の和菓子屋「紅屋」の長男として生まれる。高校卒業と同時に上京し、都内の洋菓子店に住み込み修業する。1990年の「全国洋菓子技術コンクール」(最年少優勝)、フランスの「コンクール・シャルル・ブルースト」(銀メダル)、「クープ・ド・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」(あめ細工部門個人優勝)などのコンクールで数々の受賞経験を持つ。1998年自由が丘にパティスリー「モンサンクレール」をオープン。その後はコンセプトの異なる12ブランドを展開し、製菓学校の運営など後進の育成にも力を入れている。

  • モンサンクレール
  • 日本スイーツ協会|スイーツコンシェルジュ

ライター紹介

石橋 夏江

編集プロダクションverb所属。編集者・ライター。趣味は、旅行と写真とスキューバダイビング。プライベート旅でも、取材旅以上の分刻みスケジュールを組むため、友達がなかなか一緒に旅行に行ってくれないのが最近の悩み…。

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