虫をわざと足で踏んだり、手で握りつぶしたり、子どもは時に残酷な行動を平気ですることがありますよね。善悪の判断がついていないとはいえ、どうとらえて、どう注意すべきか悩む親も多いようです。そこで、子どもの残酷な行動の意味や理由に加え、親としてどうとらえるべきなのかを筑波大学医学医療系教授で臨床心理士の徳田克己先生に聞きました。
子どもが虫を平気で殺してしまうのはなぜ?

子どもがアリを踏んだり、ダンゴムシをつぶすなど、残酷ともいえる行動をとるのはなぜでしょうか?
「3歳くらいまでの子どもは、ちょこちょこ歩き回るアリも、電池で動くおもちゃも区別しておらず、同じ興味の対象なのです。遊びの中で虫を殺してしまうこともありますが、それは残酷な心を持っているからではなく、『虫に命がある』ことを理解するのがまだ難しいのです」
「好奇心から起こる行動を大人の価値観で『うちの子は異常なのかも』ととらえてしまうこと自体が間違いなんです」
やっていいこと、いけないことを全く知らない状態で生まれてくる子ども。それに対して、親は一つひとつ分別を教えていくことが仕事だと言います。
「虫をいじめるような場面に遭遇したら、それは教えることができる機会であるととらえてください。叱られたりほめられたりを繰り返す中で、子どもは善悪をはかる『物差し』を作っていきます」
「そうやって教えられてきた子どもは、成長するにつれて虫を殺すことの意味に気づき、そのような行動をしなくなります。逆に何をしても叱られないまま育ってしまうと、いくつになっても自分の中に善悪の物差しができません」
虫を殺す行為は、大人から見れば残酷に思えてしまいますが、命の大切さに気付くための大事なステップとも言えるのですね。
小学生以上の子どもの場合は?

とはいえ、小学生以上になってもそのような行為をする子どもがいますが、どうとらえればいいのでしょうか?
「要因のひとつとして、大人の愛情を確かめる『お試し行動』が挙げられます。やってはいけないと言われていることをあえて実行し、大人にかまってもらうのを期待しているのです。親があまりかまってくれない環境で、寂しさを感じている子どもにそのような傾向がみられます」
「また、男子に多いのは、心理学でいうところの『モデリング』です。たとえば、捕まえたカエルを年上の子がいじめている様子を見て、『おもしろそう、かっこいい』と感じ、真似してみたくなるのです」
いずれの場合も、小学生くらいまでの子どもにはありがちな行為で、成長するにつれてそのようなことはしなくなっていくそう。
「ただ、ごく稀ですが相手の痛みを感じられない『サイコパス』と呼ばれるような人もいます。殺人事件を起こした犯罪者が、子どもの頃に生き物を虐待していたなんて話を聞いたことがある人もいるかもしれません」
「『平気で虫を殺す我が子に、そういった傾向があるのではないか』と心配する親御さんもいますが、それは精神科医でもすぐに判断できることではありませんし、私が見る限りでは、幼い頃に親がきちんと教えていなかったケースがほとんどです」
確かに、幼い頃に興味本位で虫を殺した経験が全くない人の方が少ないかもしれません。「うちの子はどこかおかしい?」と心配するよりも、まずは物事の分別を教えていくことが大切なのですね。
「ダメなものはダメ」でいい
では、平気で虫を殺す行為をやめさせるには、どのように言えば伝わりやすいのでしょうか?
「『虫さんがかわいそうだよ』と、命の尊さを説いて理解させようとする親もいますが、私はおすすめできません。またすぐに別のを捕まえられる虫は、子どもからすれば尊い生き物に思いにくく、あまり意味がないのです」
「とくに3歳くらいまでの子どもは、言葉ではわかったような気になっても、『かわいそう』がどういうことなのか、心で理解するのは難しいのです。虫の死と人間の死とは全く結びつかないのが普通といえます」
また、子どものしつけのために、死を用いても、命の大切さを理解することにはならないのだそう。
「命の教育と結びつけて説明するよりも、『むやみに虫を殺してはしてはいけない。こういうことをするとパパやママは悲しいよ』と、世の中のルールとしていけないことだと教える方が、子どももすんなり納得しやすいはずです」
子どもに命の大切さをわかってほしいと願う気持ちはありますが、この場合は無理に命の教育と結びつけず、「ダメなものはダメ」でいいのですね。子どもが虫をいじめている場面を見つけても、毅然と対応していきたいですね。