子供が話をするときに、なめらかに発話できなかったり、頻繁にどもったりする場合があります。いわゆる「吃音(きつおん)」といわれるもので、親としては一時的なのか、早めに治すべきなのかなど、わりと気になるものです。
そこで今回は、金沢大学の人間社会研究域教育系教授で、吃音などの研究をする小林宏明氏に「子供の吃音」について、親の捉え方や症状、原因、治療法などを詳しく聞きました。
吃音とはどんなもの?

子供の会話が流ちょうにできないケースは多々あると思いますが、その中でも「どもり」や「吃音」とは、どういったものなのでしょうか。
「そもそも、『どもり』と『吃音』の意味に違いはありません。『どもり』は言葉が吃(ども)る人を指す用語として昔から使われてきました。ですが、同時に差別的な意味合いを込めて使われてきた側面があります。そのため、最近では『どもり』という言葉を避けて、代わりに『吃音』という言葉が広く使われるようになってきたという経緯があります」
「そういった中で、吃音と分類される言語症状は、大きく3つあります」
吃音と分類される言語症状
- 語音の繰り返し:「わ、わ、わたし」など
- 語音の引き伸ばし:「わーーーたし」など
- 語音の詰まり:「……わたし」など
「『語音の繰り返し』のみがイメージされることも多いですが、実際は引き伸ばしや、詰まりも吃音に分類される症状です」
では、吃音はどのような原因で起きるのでしょうか?
「原因は完全には特定されていません。ですが、現在有力視されている仮説に『要求・能力仮説』や、『負の学習仮説』があります。『要求・能力仮説』は子供自身や周囲の発話に対する要求と、子供の発話能力との間に乖離(かいり)が生じた際に、吃音が出現するという仮説です」
「ちなみに、過去に吃音の原因として『親の教育が悪い』『育て方に問題がある』といった説が言われた時代もありましたが、これは誤りであり、研究でも否定されています」
「吃音ではない」場合の症状
子供がどもったりすることは多々ありますが、吃音かそうでないかはどう見分けるのでしょうか。
「確かに、吃音と混同されがちですが、吃音とはいえないものも多々あります。たとえば、『わたし、わたしは』、『わたしは、わたしは』といった語や句全体の繰り返しです。また、『えーと』など、会話と直接関係ない語の挿入や、『わたしの、わたしは』、『きのう、きょう、わたしは』といった言い誤りの修正は、吃音と同じく会話の非流ちょう性がありますが、吃音とは言いません」
「ほかにも、驚いたり慌てたりする時に単発的に現れる場合や、脳や喉、舌などの発語器官の障害が由来であることがわかっている場合も、吃音とは定義されません」
「なお、こうした『吃音でない発話の非流ちょう性』については、気にしすぎずにいて構いません。また、『吃音』であった場合も就学時以降に残ることは稀(まれ)です」
ですが、いずれの場合も、気になる場合は市町村が行なっている育児相談や、医療機関などで相談しておくと安心につながるでしょう。
吃音の症状と段階について

同じ吃音でも症状に段階はあるのでしょうか?
「吃音の言語症状には重症度があり、発話時の口や喉、体に力が入る程度で判断します」
軽度
力を入れずに話せている状態
例:「わ、わ、わたし」、「わーーたし」など
中程度
口や喉、体に入る力が強くなる状態(症状が強いほど重症度が高い)
例:「わっ、わっ、わたし」、「わぁーーーぁーーたし」など
重度
言葉が詰まって出てこなくなる状態
例:「……わたし」など
吃音は、何歳くらいから症状がみられるのでしょうか?
「吃音は、言葉を話し始める1歳前後に出てくることはなく、2〜3語文ほどの発話が可能な程度まで言語発達が進んでから生じるものです。最も多く吃音が出てくる時期は、2歳後半〜4歳くらいの間です」
「最近の研究では、幼児期に吃音が出るケースが10%近くにのぼると言われています。ただし、小学生以降に初めて吃音が出てくるケースもわずかながら存在します」
年齢以外に、男女などによって吃音になりやすいなどはあるのでしょうか?
「吃音の性別差は、吃音が出始める2歳〜4歳くらいの時点ではあまりありません。なお、学齢期以降も吃音が見られる子供は1%程度いますが、その中でみると男児が多い傾向があります。ですが、関係する遺伝や既往歴についても現時点ではわかっていません」
吃音はどんな治療法を行う?
原因がまだ特定されてないという「吃音」ですが、治療法にはどのようなものがあるのでしょうか?
「先ほどもいいましたが、幼児期に見られる吃音の8割程度は特に治療などをしなくても自然に消失することが知られています」
「治療法でいうと、まだ確立されていないのが現実です。そこで、環境調整やスピーチセラピーなどによって、発話への緊張や不安の回避といった心理的問題へのアプローチをすることが多いです。お子さんの吃音の状態や保護者などのニーズに基づいて対応していきます」
「自然に治る以外の吃音の場合、治療のゴールは必ずしも完治とはなりません。吃音の言語症状や、吃音に伴う発話への不安や緊張等の軽減、緩和状態を目指し、吃音があっても、発話やコミュニケーションを避けずに取り組む態度の育成に治療のゴールをおく場合が多いです」
「完治はしなくとも、吃音の問題が必ずしも毎日の生活や将来の人生設計における大きな問題となるわけではありません。幼児や学齢期から吃音の治療やことばの教室などでの支援を受けている子供の中には、多少吃音があっても気にすることなく日々の生活を過ごし、普通の人となんら変わりなく順調に暮らしている人が大勢います」
吃音をひとつの個性と捉えて見守っていく。親にもそうした姿勢が必要なようです。
「家庭でできること」と「やってはいけないこと」は?

子供が吃音の症状を見せた時に、親や家庭でできることはどんなことでしょうか?
「まず、『繰り返さないで』などと、該当症状を指摘することは避けてください。現時点で自身が吃音を自覚しているか否かに限らず、子供の会話に対する自信を失わせてしまうからです」
「必要なのは指摘でなく、子供の話にしっかりと耳を傾け、楽しそうに聞いてあげる姿勢を見せることです。これによって、子供は話者としての自信を高めることができます」
「また、発話の負荷を少なくするには『ゆっくりゆったり』、『短めの言葉』で話すことが必要になりますが、それも直接的な言葉でのアドバイスはいいことではありません。言葉で指摘するよりも、親が普段からゆっくりゆったり、短めの言葉で話すことで、子供が楽に話せる発話のモデルになってあげることが大切です」
そのほかに、何か注意すべきことはありますか?
「そのほかでいうと、子供が吃音の話をしてくる際に、子供を傷つけまいと、つい話をはぐらかしたり、誤魔化したりするのは逆効果になります。本人が『吃音は話してはいけない話題なんだ』と思って、1人で抱え込んでしまうこともあるので、しっかりと話に耳を傾け、一緒に考える姿勢を示してあげてほしいです」
今回、先生がとくに強調していたのは「吃音は親の育て方が原因ではない」ということでした。子供に吃音の様子がみられても自分を責めないことが大事で、大きな心でコミュニケーションをとることが必要なのですね。