大学入試のセンター試験廃止が決まり、日本の教育制度が大きく変わろうとしています。記述式問題が導入されるなど、知識を詰め込むだけでは通用しない時代が近づいています。親としては、子どもの教育方針においても変化が求められそうですね。
そこで今回は、教育環境コンサルタントの松永暢史さんに、知識を応用しながら自分で考えて行動できる子どもの育て方について聞きました。松永さんによると子どもに必要なのは「知識の量ではなく、知識を応用する力」だそうです。
これから子どもに必要になる能力とは

2020年1月(2019年度)の実施を最後に廃止されることが決まった「センター試験」。2020年度から移行される「大学入学共通テスト」では、マークシート式(選択式)に加えて、記述式の問題が出題されます。
そもそも、新テストはどういった形になるのでしょうか。
「新テストでは『思考力』『判断力』『表現力』が試される形になります。自分の意見やアイデアを文章化する問題が増えるため、知識詰め込み型の勉強方法では通用しなくなります」
「さらに、ITやAI(人工知能)の発達に伴い、これからは仕事で求められる能力も大きく変わってきます。知識や技能だけでは、機械に仕事を取られてしまう時代がやってくるともいわれています」
では、子どもたちに必要とされる能力は、どんなものなのでしょうか。
「これからの子どもに必要とされる能力は、主に4つあります」
(1)感受性
さまざまな「もの」や「こと」を受け止めて、心を動かす感覚。探究心を育むために必須となる。
(2)好奇心・観察力
感受性を高めるためには、小さなことにも着目してさまざまなことに興味をもち、それをベースとして意見を述べられる観察力が必要。
(3)思考力・言語能力
自分の考えを人に伝える能力。
(4)発想力・着想力
自ら新しいアイデアを生み出して、問題解決をするための力。「起業」などにも欠かせない能力。
「探究心を育む『感受性』や、それを文章化する『言語能力』、新たなアイデアを生み出す『発想力』は機械にはありません。これらは、機械に代用されない仕事をするためにも欠かせない能力と言えるでしょう」
家庭環境が子どもの能力に差をつける
感受性や観察力、発想力などは、個人が生まれ持つ能力のような気もしますが、これらの能力はどんな子どもでも身につくのでしょうか?
「人によってどの能力が伸びるかは異なりますが、どんな子どもでも身につけることは可能です。子どもは与えられた教育環境と、周囲から求められる形に適応しながら成長します。その教育環境の土台を作る家庭が自然な学びの場になっていれば、おのずとそうした能力が身につくはずです」
必要な能力を身につけるためには、親の働きかけが重要だとのこと。そこで、これらの能力が高い子どもを育てる親の共通点を教えてもらいました。
感受性を育む「声かけ」&「実体験」
「夕焼け空を『きれいだな』と眺めたり、風の心地よさを感じるなど、感受性が豊かな子どもは、他人が気付かない小さなことにも反応できるアンテナがたくさん立っています」
「このアンテナがたくさんある子どもは好奇心旺盛で、いろんなことに興味を持ちます。そして、気になったことを知りたいという探究心が、おのずと知性につながっていきます」
そんな感受性を育むために欠かせないのが、「声がけ」と「実体験」だそう。

「ママが美しいものを見たときに、それを言葉に出して伝えることで、子どもは美しいものを美しいと感じられる感覚=感受性を伸ばすことができます。たとえば、満月を見ながら『今日は月がきれいだよ。見てごらん』と声をかけることで、子どもが月を見上げるきっかけをつくり、『この月はきれいなものだ』と認識します」
このように興味を持つきっかけを作ってあげることで、「満月は明るくて大きい。なぜだろう?」などと疑問を持ち、子どもの探究心も刺激されます。
一方で、「実体験」とは五感への刺激だそう。
「旬の食材を『今が旬だからおいしいね』と言いながら食べたり、楽器を演奏するなど、日常生活の中で五感を刺激する体験を積み重ねることが大切です。なかでも最も効果的なのは、キャンプや山登りなど、自然の中でリアルな体験をさせてあげることです」
「山登りなら、鳥や虫の鳴き声、土や木の匂い、険しい段差を登るときにつかむ木の枝の感触や山頂からの雄大な眺めなど、五感がフルに刺激されます」
山登りやキャンプになかなか行けない場合は、虫捕りや木登り、釣り、焚き火など、近場でもできるだけ自然の中に連れ出してあげるといいそうです。
子どもに「なぜ?」と言わせることが大事
子どもの好奇心を刺激するためには、親はできるだけ干渉しないことが大切だそう。
「たとえば、キャンプでも『あれは○○という木で〜』と、次から次へと知識を押し付けてしまう親御さんがいますが、子どもが疑問を見つけるチャンスを潰してしまいます。子どもが自ら『なぜ?』と言うのを待ちましょう」
子どもが疑問を持ったときには「本当だね。なんでかな?」と共感したり、「いいことに気づいたね」と喜んで褒めてあげることも大切です。そうすることで子どもは「なぜ?」と問うことに躊躇しなくなり、それを解決するために学習する習慣が身につくそうです。
「ポイントは、『なぜ?』の答えを親が知っている場合も、すぐに答えを教えるのではなく、『家に帰ったら一緒に調べよう』など、子どもが主体的に学ぶ機会をつくること。自分で探求して答えを導き出すことが、自信につながります」
空き時間を主体的に使う

夕食の前後や風呂上りなどの空き時間の過ごし方も大切。読書やお絵描き、楽器の演奏、工作など、能動的で主体性を持って取り組めることをしましょう。
逆に避けたいのは、テレビやスマホ、ゲームなどで時間を潰すこと。
「スイッチを入れるだけで、工夫せずとも受動的に楽しめるテレビやスマホ、ゲームなどの娯楽は、何時間続けても賢くなりません。ゲームをするなら、トランプやUNOなどのカードゲームやボードゲーム、囲碁、将棋、チェスなどがおすすめです。これらのゲームは頭を使いますし、家族のコミュニケーションにもつながります」
毎日のちょっとした空き時間も積み重なれば大きいもの。この過ごし方がいずれ大きな差を生みます。空き時間に主体的に取り組めることを続けていれば、やがてそれが習慣になり、子どもの賢さにつながっていくのですね。
文章を意識して会話する
「主語や述語、助詞・助動詞を理解して、きちんとした日本語を使える子どもは国語を得意とする傾向があります。国語はほかの教科を学ぶ上でもベースとなるので、日本語を正しく使えるだけで勉強全般において有利になります」
そのためには、まず親が主語、述語、助詞・助動詞をきちんと使った文章で会話することが大切だそう。
「『宿題は?』といった単語トークではなく、『宿題はもう終わらせた? もし、まだ終わらせていないなら、早めに済ませておきなさいね』という具合に、文章で会話するようにしましょう」
また、読書習慣をつけることも日本語力アップに欠かせません。

「親が読ませたい本ではなく、子どもが読みたくなる本を選ぶのがポイントです。小学校中学年までは読み聞かせもおすすめ。名作の朗読CDなどを活用するのもありです。文章は音で聞くと頭に入りやすいので、読書への興味を促せます」
これからの時代を生きる子どもには、自分の考えやアイデアを持つのはもちろんのこと、それをわかりやすく文章化する能力も不可欠。そのためにも、日本語力は子どもの頃から鍛えてあげたいですね。
親が子どもの可能性を潰すNG行動
子どもの可能性を伸ばす家庭環境は、親の心がけ次第で整えられそうですね。逆に、子どものためにやってはいけない行動はありますか?
「子どものためにやってほしくないのは、子どもが何かに夢中になっているときに手出しや口出しをしたり、子どもの集中を妨げたりすることです」
「たとえば、子どもがプラモデルを夢中で作っているときは、パーツの組み合わせを考えたりしながら、脳が最大限に活性化しています。そのときに『何を作っているの?』『それじゃなくてこっちじゃないの?』などと口を挟んだり、『貸してみなさい』と手を出したりすれば、集中が途切れて脳の活性化が止まってしまいます」
勉強でも遊びでも、口出し手出しは無用。子どもが何かに取り組んでいるときは黙って見守り、目的を達成した後で「すごいね」「集中していたね、いい顔をしていたよ」などと褒めてあげれば良いそうです。
「何かにのめり込んで脳が活性化しているときは、自分を高めたいという本能的な欲求を満たそうとしているとき。勉強でも遊びでも、できなかったことができるようになると、自己向上欲が満たされて幸せな気持ちになれます」
その幸せな気持ちをベースに、さらなる幸福感を求めて挑戦する気持ちが生まれるのだとか。子どもが何かに集中して取り組んでいるときは、ゆったりとした気持ちで見守ってあげたいですね。
親の声かけや習慣など、少し意識するだけで、子どもの可能性を伸ばすことができそうです。子どもが自ら考え行動できる力を育むためにも、日常生活から取り入れたいですね。