長時間の勉強やスマホ、ゲームのやりすぎで、「ストレートネック」になる子供が最近増えているようです。
今回は、東京医科大学整形外科准教授の遠藤健司さんに、ストレートネックの症状や原因、予防法について聞きました。
「ストレートネック」はどんな病気?

そもそも「ストレートネック」とは、どういった病気なのでしょうか。
「本来、首の骨(以下、頚椎:けいつい)は、緩やかに前方カーブを描きます(イラスト左)。ですが、頚椎が棒のようにまっすぐになった状態をストレートネックといいます(イラスト右)」
「緩やかな前方カーブが、首に受ける重力の衝撃を吸収していて、カーブがなくなることで、重力の衝撃も大きくなります。その結果、肩や首に過度な負担がかかります」
「人間の頭の重さは、成人の場合で体重の約10%に相当します。子供の場合は、その割合がさらに大きくなり、たとえば体重20kgの子供なら、頭の重さはおよそ3kgになります」
ストレートネックになると、この重さがダイレクトに首や肩の負担につながるのですね。
具体的な症状は「頭痛」「めまい」など!

では、ストレートネックになると、具体的にどういった症状が表れるのでしょうか。
「首の後ろを支える筋肉が緊張状態になるので、筋肉を走る血管が圧迫され、慢性的な肩こりが起こります。また、首の筋肉は自律神経と多くの関係を持っていることから、眼精疲労や頭痛、めまい、吐き気、手足のしびれといった自律神経失調症の症状が出る人もいます」
「ほかにも、冷え性や不眠、重症化した場合には鬱症状に悩まされる人もいます。そうした場合には、肩こりが原因であることに気づかず、情緒不安定と思われてしまうこともあります」
頚椎が変形することで、体にさまざまな不調が起こるのですね。
ストレートネックになる原因は?

では、ストレートネックになってしまう原因は何でしょうか。
「猫背で、下を向いている姿勢が多いと、ストレートネックにつながっていきます。スマホやゲームをしているとき、前かがみの姿勢で机に向かって勉強をしているときなどは、こうした姿勢になりやすいので注意が必要です」
「また、たとえ良い姿勢であっても、同じ姿勢を続けることは首に大きな負担をかけますので、30分に1回は姿勢を変えることが大切です」
とはいえ、姿勢の悪さがすべてストレートネックにつながるわけではないとのこと。
「たとえば、猫背であごを突き出すような悪い姿勢は、頚椎の曲がり方がストレートネックとは異なるため、ストレートネックの原因にはなりません。姿勢の悪さは部位ごとの肩こりの原因にはなりますが、すべてがストレートネックにつながるわけではないということです」
「また、『ストレートネック=肩こり』のイメージはあるかもしれませんが、肩こりにも、神経性・心因性・精神的ストレスなどさまざまな原因があります。なので、肩こりがひどいからストレートネックとも言い切れません」
子供が肩こりに悩んでいたら、あらゆる角度から原因を考える必要があるようです。
判断が難しい「子供のストレートネック」

スマホの普及や受験勉強などの影響で、子供のストレートネックが増えているのは本当でしょうか。
「確かに、思春期以降の10代の子供では多いと思います。原因として、勉強時の姿勢や、ゲームやスマホの影響は考えられます。ですが、そもそも子供は、肩こりという概念がはっきりしないため、自分で症状を訴えることができずに、『情緒不安定』と表現されることもあるので注意が必要です」
「また、思春期以前の子供は関節がまだしっかりしていませんから、ベースとなる首の形もまだできていません。ストレートネックの判断そのものが難しいのです」
「ですから、関節がしっかりするまでは、子供が『良い姿勢を保つ』ということ自体が正直難しいと思います。無理にいい姿勢をさせるよりは、長時間下を向かせないことなどを心がければいいでしょう」
前かがみで下向きといった姿勢が習慣にならないように気をつけてあげたいものです。
子供のストレートネック、見分け方はある?
医師でも判断が難しい子供のストレートネックですが、ストレートネック予備軍の兆候や見分け方はありますか?
「発達状況などによって判断が難しい場合もありますが、ストレートネックは、なで肩と鎖骨の両サイドが下がっている点が特徴としてあげられます。鎖骨は本来V字型なのですが、ストレートネックの人は鎖骨の両サイドが下がり、水平に近い形になっています。そして、鎖骨の両サイドが下がってくると物理的になで肩になります」
「鎖骨と肩が下がれば、首やうなじがおのずと長く見えますから、気になる場合は鎖骨の形を確認してみるといいでしょう」
鎖骨は大きな骨なので、見分けがつけやすいため、診察は不要とのことです。
ストレートネックの予防法

将来、子供がストレートネックにならないための対策があれば教えて下さい。
「下向きになる姿勢が続くときには、15分に1回程度首を休ませましょう。また、座っていた場合は立って背伸び、立っていた場合は両手を腰の後ろで組んで胸を反らす姿勢を2〜3回行えば、固まった筋肉に血液を送ることができます。血液を送ることで血流が良くなるので、血管の圧迫が緩和されます」
すでに肩こりがある場合の対策はありますか?
「肩こりの改善には、筋肉が付いている骨を動かすことが大切です。体の前面なら鎖骨、背面は肩甲骨をよく動かすことを心がけましょう。ひじを曲げた両腕をグッと後ろに持っていき肩甲骨を寄せる簡単な動作だけでも、筋肉が動いて肩こり改善につながります」
「このような運動を続けていけば、頚椎のストレートネックに弯曲を作ることができますので、徐々に頚椎が元の状態に戻っていきますよ」
ストレートネックになりそうな習慣がある子供には、予防も兼ねてこうした運動をさせてあげると良さそうですね。