文化や習慣が違えば、子育ての常識も変わるもの。そこで、世界の子育て事情を国別にシリーズで紹介していきます。海外ではどんな子育てが行われているのか、実際に現地で暮らすママに実情を明かしてもらいます。
第11回目は、インドネシアのジャカルタ郊外に在住で、2人の子どもを育てるさいとうかずみさんに現地の実情を聞きました! 多文化なインドネシアで暮らす子どもの教育や子育て事情、ママパパの労働環境などを紹介します。
【世界の子育てシリーズ】各国の子育て事情をチェック!インドネシアはどんな国?

インドネシアは1万以上の島が集まってひとつの国家を作っています。それぞれの島は、かつて独自の民族文化を持っていました。そんな中で、国の第一目標として「お互いの違いを認め、理解した上での統一」を掲げてきました。
また、多民族や多文化だけでなく、宗教もさまざま。国の8割を占めるのは、イスラム教を信仰する人たちですが、ほかにもキリスト教、仏教、ヒンドゥー教、儒教が国に公認されていて、それぞれの宗教を尊重するように求められています。
【学校教育】高まる教育への関心
インドネシアの義務教育期間は、小学校6年、中学校3年の計9年で、子どもが7歳になる年に小学校に入学します。昨今では、未就学児から幼稚園などに通わせる家庭も増えています。その背景には、都市部を中心に核家族化が進んで、共働きなどにより、家庭で育児に割ける時間が減りつつあるからです。

インドネシアの公用語はインドネシア語ですが、今でも地域の母語、地方言語が使われています。家庭では母語を話し、義務教育である小学校からインドネシア語を国語として学びます。実際には、未就学の段階からインドネシア語での読み書き、イスラム教徒であれば、アラビア語の学習は家庭や保育園で始まっています。
教育機関はやや複雑!
多種多様な人々が集まったインドネシアの教育制度は、「国民教育省」と「宗教省」という2つの機関の管轄下にあります。国民教育省管轄の学校は「スコラ」、宗教省管轄の学校は「マドゥラサ」と呼ばれていて、それぞれの機関で小学校から高等学校まで運営しています。
また、スコラとマドゥラサのどちらにも公立校と私立校があり、公立の小・中学校の授業料は無料です。
「スコラ」とは?
スコラは、宗教に関わらず、誰もが通える学校です。
私立校は、授業料の負担はありますが、教育理念があり、カリキュラムもしっかりしているため、人気が高いです。一方、公立校には、私立の授業料がねん出できない家庭の子どもが通っています。
公立の小・中学校の多くは、授業が半日で終わります。理由は、学校数に対して児童数が圧倒的に多く、午前午後の二部制を取らざるを得ないからです。教員数が少なく、学校の設備など整っていないため、ボランティアの活動によって支えられているところもあります。
「マドゥラサ」とは?
マドゥラサは、スコラと同じ学校制度ですが、大きな違いは「イスラム教徒のための学校」という点です。イスラム教の教えに基づいて教育を行うため、インドネシア語に加えて、アラビア語も勉強します。
学校では、朝の授業前と昼食前にお祈りの時間があります。イスラム教徒にとって、集団でお祈りを行うことは重要で、公立・私立校問わず、モスク(寺院)や礼拝所があるのも特徴です。
2012年発表の教育省資料によると、国全体の就学率は、小学校98%、中学校86%とされています。地域格差をなくすため、公立校の整備、教師の確保なども必要とされています。一方で、学歴社会でもあるので、私立校では将来を見越して放課後に塾通いをするなど、子どもへのプレッシャーが増しています。スコラでもマドゥラサでも状況は同じです。これは日本とも同じといえます。
【医療】基本的には窓口負担ゼロ!
医療保険は、会社を通じて民間の保険に加入するのが一般的です。被保険者および、その家族は、指定の医療機関であれば、基本的には窓口負担ゼロで医療行為を受けることができます。

一方で、伝統的な医学療法もまだまだ人気です。たとえば、「ジャムー」と呼ばれる漢方のような生薬を飲む習慣があります。植物の葉や根から作られたどろりとした液体で、専門のクリニックや自家製ジャムーを売り歩く人から、1杯3,000インドネシアルピア(約25円)で買うことができます。はちみつを入れると子どもでも飲めます。
【労働と子育て】産休3カ月&給与全額支給
インドネシアでは、大きなお腹の妊婦さんが働いているのをよく見かけます。出産直前まで安心して働ける社会なのだと感心します。国は、3カ月間の産休の取得及び給与の全額支払いを法律で認めています。この3カ月ルールは、個人が雇うメイド職などにも浸透しているというから驚きです。
産休明けの育休制度については、会社によってさまざまですが、本人の意思を尊重し、柔軟に対応してくれるようです。たとえば、授乳時間に配慮して、半日勤務を認めたり、フレックスにするなどです。
また、「子育てに人の手を借りるのは当たり前」とする文化的な背景もあるため、家族の誰かが世話をする、メイドを雇う、デイケアに預けるなど、選択肢がとても多いです。
お金がかかる都会の休日
親子で過ごす休日は、国内でも場所によって全然違います。

バリ島のような自然の多いところでは、ビーチでのんびりしたり、海で泳ぐなど、お金をかけずに遊ぶ方法がたくさんあります。一方、ジャカルタのような都会では、外で過ごすには暑く、ショッピングモールに出かける家族が多いです。

週末になると、モール内の遊戯施設では大勢の子どもが遊んでいます。2018年にオープンした屋内遊び場は、子どもの利用料金が約1,840円です。1度入場すると閉館まで時間制限なく遊べて、再入場も可能です。
ですが、中間層における月の平均支出額(娯楽費・外食費を除く、固定費の合計)が、約1万2,000円〜4万円、大学新卒者の初任給は約3万円と言われています。これを考えると、遊戯施設は安い金額ではなく、子どもと過ごす休日はお金がかかることがわかります。
【生活】インドネシアも「米食文化」

私が暮らすジャワ島の人たちは、ナシ(ごはん)をよく食べます。フライドチキンにナシさえあれば満足! そこに、揚げたピーナツや大豆を発酵させたテンペ、唐辛子のサンバルソース、野菜たっぷりの酸味がきいたスープがあれば、日本でいう定食セットになります。家族でわけながら食べられ、子どもたちも大好物です。

また、朝食に食べる「ブブル」と呼ばれるおかゆは、柔らかく炊いたおかゆに鶏だしを加えたシンプルなメニューで、離乳食にもぴったりです。赤ちゃん以外は、鶏肉や揚げワンタン、ピーナッツ、刻みネギなど好みのトッピングをして食べています。
ママの休憩時間「マラス」とは

インドネシア語に「マラス」という言葉があり、現地の母親同士の会話でよく聞きます。マラスは、英語の「lazy」にあたるため、怠けるというやや否定的な印象を受けますが、実は違います。
インドネシアの母親は、朝早くから起きてよく働きます。イスラム教徒がお祈りのために起きる時間は朝4時。そうでなくても、会社や学校の始まる時間が7時と早いため、自身も働いていれば、母親は疲れ切ってしまいます。そこで、家事の合間や食後、仕事からの帰宅後など、ちょっと一休みできるマラスの時間が必要なのです。インドネシアの母親が笑顔で穏やかな秘訣は、マラスにある気がします。
以上が、インドネシアの子育て事情です。次回はカナダ編をお届けします。
ライター
さいとうかずみ
インドネシア在住のライター。2008年より約8年インドに居住後、インドネシアに移るも2019年再びインドに戻る予定。趣味は、食べ歩き、旅行、読書、映画鑑賞。