夏の代表的なレジャーといえば「海遊び」ですが、日焼けや波の危険への心配、アクセスの不便さから、小さな子供を連れて行きにくいと感じるファミリーも多いかも。でも、海での遊びや体験は子供にとって、普段とは異なる刺激に溢れ、成長につながるメリットも多いようです。
そこで今回は、海での体験が子供にどういう影響をもたらすかなどについて、教育評論家の“尾木ママ”こと尾木直樹さんに、専門家ならではの意見を伺いました。いこーよで調査した海に関するアンケート(回答数945)の意見も踏まえて、海遊びのメリットを紹介していきます。
子供と一緒に海に行ったことがあるファミリーは6割
実際に、海に行く家族の割合を知るために、「いこーよ」ユーザー約1,000人に海に関するアンケートをしたところ、約6割が子供と海に行ったことがあるという結果でした。子供が海デビューした年齢は、2歳〜3歳が多いこともわかりました。

一方で、子供が小さかったり、海が遠いといった理由で、「行ったことがない」という回答が4割ほどありました。
小さな子供連れで海に行くのは、確かになかなか大変なこと。それでも海で遊ぶメリットは、どんなところにあるのでしょうか。教育評論家の尾木直樹さんに聞いてみました。
自然体験から子供が得る経験は非常に貴重!

小さな子供連れで海に行くのはなかなか大変なことですが、それでも海遊びや自然体験をするメリットはどういったところでしょうか?
「自然体験から得られるものは非常に多く、とても重要ですが、その前にお話しておきたいことがあります。それは、近年問題になっている子供のゲーム依存(ゲーム障害)です。WHO(世界保健機関)加盟国では、疾病として認定されるほど世界的にも深刻な問題になっています」
「スマホゲームなども含めたゲーム依存によって、脳の中で非常に重要な前頭前野の機能が低下してしまうことが、脳科学的にも証明されています」
「一方で、最近『子供ロコモ(ロコモティブ・シンドローム=運動器症候群)』が広がっていることが問題になっています。実際に埼玉県医師会が県内の幼稚園から中学生1,343人に運動器の調査を行ったところ、4割に運動機能不全の兆候が見られました。スポーツで特定の筋肉を鍛えることはできても、運動器そのものを鍛えることにはつながりにくいんです。そこで、自然遊びが重要になってきます」
「ゲームは、あくまで人間が作ったもので、いわば、その世界の中で遊ばされているようなものといえます。自然体験では、五感を使うことで脳の前頭前野を働かせ、予期しないことに対応する力を養えます。また、体を使うことで運動器そのものを鍛えることにもつながります」
自然遊びから8つの原体験が育める
では、自然遊びを通して、具体的にどんな経験ができるのでしょうか?
「自然遊び・自然体験は、五感を通じて自然にふれるプリミティブ(原始的)な体験ー原体験に溢れています。原体験には8つの領域があります。『火の体験』『水の体験』『木の体験』『土の体験』『動物体験』『草の体験』『石の体験』『ゼロ体験』です」
「火を起こしてパチパチする音や煙が出る様子、木の匂いや汁が出ることを知ったり、倒木から芽が生えてくるのを見たり、自然の輪廻を学んだり。泥団子や草笛を作ったり、キャンプなどで暗闇の世界に身をおいて恐怖体験をするなど、さまざまな原体験が自然の中にはあります。こうした体験は、子供の心身の成長を促し、感性を豊かにするのです」

「動物とふれあう体験も重要で、本当はこれだけで2時間話せちゃうぐらい(笑)。人間のように会話ができない動物に対して、語りかけて気持ちを汲み取ろうと寄り添うことで、大切な共感能力が育まれます。猫のゴロゴロと喉を鳴らす感覚が人間の脳に心地よい感覚を与えたり、犬の目を見つめて意思疎通を図ったりもできます。そういう意味でも、動物を飼ったり、ふれあったりすることは、教育効果絶大なのよ」
海遊びで経験できる原体験も盛りだくさん!

では、海でできる原体験にはどんなものがありますか?
「海の自然遊びで得られる体験は非常に多いですよね。水の体験をはじめ、土の体験やゼロ体験、石の体験、木の体験など、たくさんの原体験ができます」
「簡単に歩けないほど熱い砂浜を歩いたり、海の匂いを体感したり、塩の影響で体が浮いたり、砂浜に落ちている丸くなった石が波の影響だと知って感動したり。何より、海はどこまでも続く開放的な感覚を体感できます」
「ほかにも、穏やかな波が突然大きな波になるなど、予期しない状況に対応する体験もたくさんできます。また、実際に海に行くことで、近年問題視されている海のプラスチックゴミ問題など地球環境に関心を持つきっかけになるかもしれませんね。海遊びは運動器も頭も成長できる貴重な場所ですね」

「それと、親にとっても、山は登ったりしないといけないけど、海は体力に自信がないママでも気軽に行けるし、ぼーっと眺めているだけでも気持ちがいいですよね。海で聞こえる音は不規則でしょう。波のザァーッという音は脳に心地よい感覚を与えてくれるの。それが『1/fゆらぎ※』といわれるものね」
※1/f(エフぶんのいち)ゆらぎは、脳が心地よいと感じるα波状態になり、リラクゼーション効果があるとされている。
子供の海デビューに最適な年齢は?
では、実際に初めて子供を海に連れていくのに、いい年齢はあるのでしょうか。いこーよのアンケートでは、2〜3歳が非常に多かった印象です。
「じつは、ボクのお孫ちゃんは1歳の頃に海デビューしたんだけど、その時は怖がって泣いて入れなかったの。3歳くらいであれば、怖がらずに楽しめて安心な気がしますね。紫外線が強いから、もちろん対策はしっかりとしていってくださいね」
海では親子で一緒にどんな遊びをするといいでしょうか。遊び方がわからないというママも多いようです。
「砂浜であれば、お山やお城を作ったり、そこに水を流してせき止めたりすると、子供が小さくても子供たちの発想に任せて楽しめます。貝がらを探して集めたり、磯で生き物を探すのも夢中になれそう。親が一緒に楽しんだり、サポートすると、さらに子供はやる気になるのでおすすめね」
尾木さんが子育て中の親に伝えたいことは?
尾木さん自身は、海でどのような体験していたのか教えてください。
「じつは奥さんと出会うまでは、海にほとんど馴染みがなかったんです。ただ、奥さんの実家が海に近いから、子供は毎年海に連れて行っていたの。そのおかげで子供たちは泳ぎが得意になったし、海の絵をよく描いていたこともあって、絵が好きになったりしたのよ」
「この間は、お孫ちゃんが石垣島に行ったんだけど、すごく感動的な体験だったみたい。シュノーケルに挑戦したり、海の底が見えるボートに乗ったりして、「石垣島よかった」ってしばらく言ってましたよ。やっぱり実際に自分で経験すると感動の大きさが違いますよね。子供の時に、ぜひ海の体験をさせてあげられるといいですね」
最後に、子育て中の親に伝えたいメッセージはありますか。

「いかに子供を自立させ、社会的なモラルを身につけさせるかは子育ての重要なテーマの一つです。そのためにも、早いうちから自分で判断して、自己決定する機会をたくさんつくってあげてほしいですね。自分で決めたことを実行することで、自己責任感も高まりますよ」
「それと、たくさん子供を褒めてあげて。褒めるということは、「認める」ってことなの。例えば、『朝きちんと起きて学校に行けたね』とか、普通のことや当たり前のことでもいいんですよ。あなたのことを、ちゃんと見ているよ、認めているよというメッセージを子供に伝えることが大事なんです」
「あと、『いこーよ』の活用もオススメね(笑)。おでかけ情報を集めるのに利用しているって、子育て中のスタッフから聞きますよ。情報収集ツールを便利に活用して多くの人が気軽に自然遊びを楽しんでくれるといいですね」
アンケートのコメントでも、「抱っこして海に入り、水に慣れたのを確認してから浮き輪を使った」「親子で一緒に海に入って浮き輪でプカプカしていたら水に慣れてきた」など、親がサポートしながら一緒に楽しむことで、子供が早く海になれたという意見は多くありました。
そのほかにも、「プールにはない砂や海水、生き物など自然にふれあえる。自然の怖さも子供に話す機会になる」「普段の日常とかけ離れていて、心身ともにリラックスできる」「海は見ているだけでも癒される。波が不規則なので飽きることがない」「自然を満喫している気分になれる。プールでは味わえないロケーションがいい」など、尾木さんの話と共通する意見が多く、海に行った後に「海の生き物に興味を持つようになり、図鑑を見ることが多くなった」「子供がどうして波が立つのか不思議に思って学校から図鑑を借りて読んでいた」など、子供にとって好影響だと感じている親が多くいました。