最近、姿勢の悪い子が増えていると言われますが、姿勢が悪いとどのような影響があるのでしょか。勉強や健康にも関係するのであれば、子どものうちに治しておきたいですよね。
そこで、一般社団法人「子どもの姿勢とこころの発達研究所」代表理事の西村猛さんに、姿勢による影響や良い姿勢を身につける方法、「なぜ姿勢が悪くなるのか」まで、親なら知っておきたい疑問を詳しく聞きました。
姿勢が悪いとどうなるの!?

そもそも姿勢が悪いと、どのような影響があるのでしょうか。
「姿勢が悪いことで起こる一次的な問題として挙げられるのは、呼吸が圧迫されて酸素を取り入れにくくなる、筋肉が硬くなる、腸など内蔵の働きが悪くなるなど、主に体の不調です」
「二次的な問題としては、姿勢が悪いことによって、覗き込むように字を書いたり、目を斜めに使ってしまったりすることで、継続して勉強ができずに学力が低下することが挙げられます。また、姿勢が悪いと柔軟性がなくなり、つまずいたり転んだりしやすくなるので、ケガも増えてしまいます」
姿勢が悪いことで体への直接的な影響だけでなく、そこから発生する二次的な問題もあることがよくわかりました。さらに、西村さんによると、そのほかにも大きな影響を受けるものがあるといいます。
「姿勢が悪いと自信がなさそうに見えるため、そこから自己肯定感の低下を引き起こすことがあります」
「姿勢がいいと褒められることが多いですが、反対に姿勢が悪いと自信がなさそうに見えたり、やる気がないようにも見られます。そのせいで、先生や親からマイナスの言葉を浴びせられることにつながります。人からの評価が悪いと自己肯定感がなかなか身につかなくなり、生活にも大きな影響が出てしまうのです」
姿勢の悪さが、自己肯定感の低下にまで及ぶとは驚きです。姿勢がいかに大事なのかがわかりますね。
どうして姿勢は悪くなる?

では、なぜ姿勢は悪くなってしまうのでしょうか。
「姿勢の問題は、人間が2本足で立つようになってからの永遠のテーマです。赤ちゃんがつかまり立ちを始めたときから、その問題は発生しています」
赤ちゃんは、もともと背骨がC字カーブになっていて猫背なのだそう。成長するにつれて、背骨はS字カーブを描くようになります。S字カーブの背骨は、体の中で一番重いパーツである頭の重みを分散させて支えているとのこと。
「良い姿勢というのは、頭の位置がS字カーブの上に乗っている状態です。この位置が前後にずれることで、肩こりや腰痛といった体の不調が出てくるのです」
構造上、重力に逆らって2本足で立っている人間は、姿勢が悪くなりがちだということです。
子どもの姿勢は大丈夫? 良い姿勢のチェック法

ここまで聞くと、子どもや自分の姿勢がどのぐらい悪いのか知りたくなってきたはずです。西村さんに簡単にできる良い姿勢のチェック方法を教えてもらいました。
(1)背骨の上に頭があるか
前から見て、肩の位置など体が左右対称かどうか確認します。
(2)S字カーブが保たれているか
壁に背中を向けて、かかとを少しだけ前に出し、お尻と背中をつけます。このとき頭が壁についているか確認します。
(3)重心が正しい位置にあるか
裸足になり床の上に立ちます。足首と床が直角になっているか確認します。
(4)骨盤が起きているか
椅子に座り、足を床につけます。お尻とかかとが直角になっているか確認します。
以上の方法で良い姿勢かどうかをチェックすることができます。できていれば、いい姿勢といえます。どれも簡単にできますので、ぜひやってみてください。
姿勢が悪くなる生活習慣とは?

良い姿勢をキープしたくても、本人が気づかないうちに、どんどん悪くなってしまうのが難しいところ。では、普段の生活で姿勢が悪くなりやすいのはどんな場面でしょうか。
(1)やわらかいソファに深く座る、ソファの上であぐらをかく
やわらかいソファだと骨盤が後ろに倒れてしまい、良い姿勢が取れません。また、あぐらは腰などにも負担がかかる座り方で、背骨が曲がって猫背になるため、姿勢が悪くなる原因になります。
(2)椅子の高さが合っていない
椅子が低いと骨盤が寝た状態になってしまいます。正しい高さは、椅子に座って両足が床についた状態で、ひざと股関節が横から見て90度になっていること。あらかじめ、子どもの成長に合わせて高さが調節できる椅子を使用するといいですね。
(3)偏った運動ばかりする
ひとつの運動ばかりすると、使う体の部分が偏ってしまいます。体のさまざまな機能をバランスよく使うことができれば、良い姿勢も身につきやすくなります。体をバランスよく使う運動でオススメなのはラジオ体操です。始めから終わりまで行うことで、体のいろいろな部分をバランスよく動かすことができます。また、水泳も全身運動なのでほかのスポーツに比べると効果的です。
(4)足の裏を使わない
足の裏がうまく使えないと、良い姿勢を保つことができません。足の裏は使えば使うほど強化されます。靴や靴下を履くことで足の裏への刺激が少なくなりますので、家の中ではできるだけ裸足で過ごすと良いでしょう。足指を使って物をつかむなどの遊びをすることで、あっという間に強くなります。
普段の生活を振り返ってみて、当てはまるものはありませんか? 少し意識して生活するだけでも姿勢が変わってきますよ。
今からでも間に合う! 親子でできる予防法&改善法

最後に、悪い姿勢にならないための予防法と改善法を教えてもらいました。日々の意識が大切なので、ぜひ覚えておくといいでしょう。
まずは予防法を4つ紹介します。
【予防法1】良い姿勢への意識を持つ
悪い姿勢になっているときに声をかけて気づかせることが大切です。ですが、「姿勢が悪くなっているよ」という声かけだけでは、子どもはどうしたらいいかわかりません。「もう少し頭の位置を後ろに」とか「お尻や腰の辺りをもう少し真っすぐに」など、具体的にどうしたらよいのか教えてあげましょう。親や兄弟と、どちらの姿勢がいいか競争するのも良いでしょう。
【予防法2】ものまね細胞を刺激する
脳細胞の中には、ミラーニューロンというものまね細胞があり、目の前にいる人を見るだけで、その人が使っているのと同じ部分が活性化されます。つまり、親の姿勢が無意識にコピーされるというわけです。親は、子どもの正面に座ったときだけでも良い姿勢を心がけてみてください。
【予防法3】外遊びをまんべんなく
公園などで遊ぶ際に、すべての遊具を一通り遊んでみるといいでしょう。身体をバランスよく使うことが、良い姿勢を保つために役立ちます。
【予防法4】小脳を鍛える
小脳が鍛えられていく様子は、「自転車に乗れるようになる」ことで考えるとわかりやすいです。はじめは体の使い方やバランスのとり方がわからずに転びますが、繰り返し練習していくうちに、コツをつかめるようになり、最後は転ばずに乗れるようになります。
同じ動作を繰り返し行い、失敗しながら繰り返すことで、失敗方法が小脳に蓄積されていくのです。やがて、成功(正しい体の使い方)をマスターしたら、これまでの失敗したやり方を小脳の中に封じ込めてしまいます。
このようにして、一度経験学習したことは記憶され、いつでも引き出せるようになります。自転車に10年ぶりに乗っても転ばないのは、こういう理由です。つまり、「小脳を鍛える」=「繰り返し失敗経験をさせる」ということになります。
ですから良い姿勢だけでなく、あえて悪い姿勢も覚えさせましょう。両方覚えることで、良い姿勢が引き出しやすくなります。幼児期のうちに良い姿勢を身につけておくとよいでしょう。
次に改善法を5つ紹介します。
【改善法1】悪い姿勢を実感させる
全身が映る鏡を使ったり、スマホで写真を撮ったりして、自分の姿勢の悪さを実感させます。どこがどのように悪いのか、それを見ながら確認することで直すことができます。
【改善法2】ゲームやタブレットなどで遊ぶときの姿勢を見直す
環境が整っていないと、姿勢も悪くなってしまいます。テレビゲームなら、椅子に座って目の高さにテレビが来るようにして遊ぶと良いでしょう。タブレットや携帯ゲームの場合、ソファの上や床の上であぐらをかいて遊ぶと猫背になります。テレビゲーム同様、椅子に座りテーブルで遊ぶのがいいですね。
【改善法3】バランスボールを使う
子ども用のバランスボールを使い、ゆっくりいろいろな動きをしてみましょう。ダイナミックな姿勢をとることで、背骨の動きも良くなりまっすぐな姿勢がとれるようになります。
【改善法4】バスタオルを使って良い姿勢を体感する
バスタオルをくるくると丸めて筒状にし、ビニールテープ3本くらいを使って巻きとめます。それを肩甲骨の辺りに置いて寝転がり、ばんざいをします。背筋が伸び、良い姿勢を体感できます。
【改善法5】ジャングルジムで遊ぶ
体をねじる動きが加わるジャングルジムは、姿勢を改善するのにピッタリです。3次元的に体を動かすことで背骨が良く動くようになります。
以上、予防法と改善法でした。体が硬い人は、柔軟運動から始めるといいそうですよ。また、小さな頃から良い姿勢をマスターすることで、親や先生から褒められることも増えます。
「褒められることで、いろいろなものにチャレンジしようという気持ちが芽生えます。幼児期に褒められることで、自己肯定感が身につきます。このことは、大人になってからも大いに生かされることでしょう」
身体的な影響だけでなく、子どもの自己肯定感を育むことにもつながる姿勢。良い姿勢は意識して生活することですぐに身につくそうです。この機会に、親子で普段の姿勢を見直してみてはいかがですか。