七夕といえば織姫と彦星が天の川を渡って出会うことができる1年に1度のロマンチックな日。でも、実は天の川が見えるのは七夕だけではないのだそう! 天の川が見える方向や時間帯、探し方など星空観察のポイントを星空案内人(R)の泉水朋寛さんに伺いました。
天の川の正体は「銀河系」だった!

天の川の拡大写真
織姫と彦星の物語は、絵本や劇、アニメなどを通して子どもたちにもなじみのある物語ですよね。この『七夕伝説』はもともとは中国の神話で、こと座の1等星ベガ(織姫星)とわし座の1等星アルタイル(彦星)、天の川を題材にしています。
でも天の川ってそもそも何なのでしょうか? 星が集まって川のように見えているんですよね?
「ざっくり言えば、そうですね。星がたくさん集まった天体を『銀河』と呼ぶんですが、
天の川銀河、または銀河系と呼ばれる星の大集団が天の川の正体です。数千億個の星が含まれていると考えられています。地球も太陽も天の川銀河に含まれる星のひとつであり、夜空に輝く星はほぼすべて天の川銀河の中の星なんです。」
数千億個の星の大集団! 地球はそのうちの、ほんの1個の惑星でしかないんですよね。宇宙のとてつもない大きさと可能性にクラクラします。
都会では天の川は見られない!?
そんな、とてつもない大きさの銀河系=天の川なのに、見るのはけっこう難しいですよね? 星の集まりとはいえ、くっきりと見えるものでもないし。
「そうですね、天の川のそれぞれの星が遠く暗いので、街明かりがあると天の川の光がかき消されてしまうんですよね。だから都会では残念ながら天の川を見ることはできません。双眼鏡を使えば星がたくさんあるのはわかるでしょうが、川というイメージからは程遠い見え方です。」
「でも高原や海岸など街明かりから離れたところなら、空気が澄んでいることもあって、肉眼でも見ることができるでしょう。特に月明かりの影響のないタイミングを選べば、まさに空を流れる川のような淡い光の帯が見えるはずですよ。」
天の川を見るなら都市部を離れること。これがきれいな天の川を見るための最初のポイントです。泉水さんのおすすめの場所は?
「関東なら富士山の近くや八ヶ岳あたり、九十九里などでしょうか。関西だと大台ケ原、青山高原などもいいと思います。」
天の川は夏が一番よく見える!
しかし七夕の時期はちょうど梅雨時で、悪天候で星空が現れない可能性も…。七夕でなくても天の川は見られるのでしょうか?
「ええ、夏であれば見えます。そもそも天の川銀河は円盤のような形をしていて、中心部がややふくらんでいます。そして私たち(太陽系)は円盤の中にいて、銀河の中心から外れたところに位置しています。
公転(太陽の周りを回ること)により、
夏には日本からは天の川銀河の中心方向、星が特に多い場所を向くので、明るく太い天の川が見えます。だから日本では夏が一番、天の川が見やすいのです。」
「ちなみに、冬は天の川銀河の円盤に沿って外の方向を向くので暗い天の川が見え、春や秋は円盤の上下に近い方向を向くため、天の川が見えにくくなるというわけです。」
どら焼きを天の川銀河に見立ててイメージするとわかりやすいかもしれません。夏の天の川は、どら焼きのあんこが詰まった中心部分が見えている状態で、冬の天の川は端っこ部分、春と秋は皮の表面部分、と。
そういうわけで夏は天の川がよく見えるんですね。これからが絶好のシーズンです!
観測は、まず目印となる「夏の大三角」を探そう!

夏の大三角と流れ星
ではさっそく織姫(ベガ)と彦星(アルタイル)、天の川が見える方向や時間帯、探し方を教えてください。
「
まず『夏の大三角』と呼ばれる明るい星3つでできる大きな三角形を見つけてください。七夕(7月7日)には夜9時ごろに東の空に見えます。8月になると8時ぐらいに東の空に見えるでしょう。」
「3つのうち一番明るく、東の空で一番高いところにある星が織姫(ベガ)で、その次に明るく織姫から遠い方の星が彦星(アルタイル)です。残る1つの星は、はくちょう座のデネブです。
夏の天の川は、北東の地平線からデネブを通って南の空へと続き、七夕の伝説通り、織姫(ベガ)と彦星(アルタイル)の星の間を流れています。」

2015年7月7日21:00の星図
(写真提供/(C) ステラナビゲータ/アストロアーツ)
「時間が経つと見え方が変化しますので、星座早見盤や、iPhoneでは『
iステラ』、Androidなら『
スマートステラ』などのスマートフォンの星座アプリで見え方を確かめるといいですよ。」
夏の夜空のお楽しみは天の川だけじゃない!
夏休みはキャンプや海水浴、田舎の親類の家など、家族そろって泊まりがけで出かける機会が多く、星空を見るのにもってこいの時期。そのほか、この夏注目の天体イベントを泉水さんに伺いました。
ペルセウス座流星群
夏の風物詩・ペルセウス座流星群は、8月13日前後が活動のピークです。特に明け方の方がよく見えます。空の暗い場所では1時間あたり50個ほどの流れ星が見えることも。今年は月明かりがない絶好条件なので、大注目です。
土星
この時期は20時〜21時ごろに南から南西の空にあり、黄白色に輝いています。科学館などで観察会が開催されると思うので、大きな天体望遠鏡で土星の環を観察してみてください。
25年前の輝き…宇宙って不思議!
さらに泉水さんからは、こんなロマンのある話を聞きました。
「伝説では年に一度会えることになっている織姫と彦星ですが、ベガとアルタイルは宇宙空間では約15光年離れています。つまり光の速さで15年もかかるので、実際には年に一度は会えません。電話の声やメール、 SNSのメッセージであったとしても届くのは15年後。しかし星は数十億年以上もの間、輝き続けます。その長い星の一生から考えると、15年というのはほんの一瞬。
星のタイムスケールで考えると二人はかなり頻繁にメッセージを交わすことができるのです。」
「ちなみに地球からアルタイルまでは約17光年、ベガまでは約25光年離れています。つまり
今見ているベガの光は、25年前にベガを出たものだということです。また今この瞬間にベガを出た光は、25年後に地球に届くことになります。25年前に何をしていたか、25年後にはどうなっているのか…思い出したり想像したりすると、宇宙と私たちがつながっているような気持ちになれるかもしれませんね。」
隣で一緒に星を見ている子どもたちは25年後にどうしているか、そして自分はどうなっていたいか…。星空の下、そんなロマンのある話を親子でしてみたいですね。
ところで旧暦の七夕(7月7日)は、現在の暦に当てはめると、ほとんどの場合は8月となります。2015年は8月20日がそれに当たり、「伝統的七夕」と呼ばれています。泉水さんいわく、伝統的七夕の時期は晴れやすい(梅雨があけていることが多いため)うえに、織姫(ベガ)と彦星(アルタイル)、そして天の川も高い位置にあること、月が満ちる前でちょうど月明かりの影響を受けにくいこと…といった理由から天の川が見やすいのだそう。
七夕に天の川が見られなかったら、8月の「伝統的七夕」に再チャレンジもありですね。