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乳児にハチミツはなぜNG? ボツリヌス症の原因・症状・対処法

掲載日: 2020年2月7日更新日: 2020年2月7日飯田友美

パンや料理、お菓子など、普段からハチミツを利用している人は多いはず。ですが、ハチミツは1歳未満の乳児にとっては、リスクのある食材ともいえます。

そこで今回は、国立国際医療研究センター病院の小児科医・渥美ゆかり先生に、ハチミツを赤ちゃんに与えてはいけない理由や、その原因となる「ボツリヌス菌」について聞きました。

なぜ赤ちゃんにハチミツは危険なのか?

なぜ1歳未満の赤ちゃんにハチミツを与えてはいけないのでしょうか。

「端的にいうと、1歳未満の乳児に見られる『乳児ボツリヌス症』を予防するためです。ハチミツには、この症状を引き起こすボツリヌス菌が入っていることがあり、乳児の摂取を避ける必要があります

ボツリヌス菌は珍しい菌なのでしょうか。

ボツリヌス菌は自然界に広く分布しています。その多くは土壌に存在しているので、あらゆる食品の原材料が汚染されている可能性があります。この菌は、乾燥や熱に強い芽胞(がほう:細胞の形)を形成します。ハチミツに混入するのは、この芽胞が野菜や植物からミツバチの体に付着するためです」

「ちなみに、日本で初めての乳児ボツリヌス症報告例は、1986年の輸入ハチミツによるものです。その後、同様の症例が続いたことから、厚生省(当時の名称)は翌年にハチミツを乳児に与えないよう勧告を出しています」

過去には実際の死亡例も…

2017年に日本で初の死亡例もありましたが、どれほど危険なのでしょうか。

ボツリヌス症は、ボツリヌス菌が作り出す毒素によって神経麻痺性の症状が起こる疾患です。乳児ボツリヌス症の致死率は0.8%〜2%と言われています。治療法は、症状に合わせた支持療法(呼吸障害に対する呼吸管理など)が一般的です。近年では、ボツリヌスに対する抗体の治療も注目されており、入院期間の短縮や症状の改善が期待されています。症状が改善した後は快方に向かい、後遺症は残らないとされています」

「ですが、診断が遅れると呼吸管理をはじめとする全身管理が遅れてしまい、呼吸不全になり死に至る可能性があります。生後1歳未満の乳児の場合は、まだ腸内細菌の環境が整っていないため、ボツリヌス菌が腸管内で増殖して毒素を作ってしまうため、『乳児ボツリヌス症』になってしまうのです

「ボツリヌス菌の芽胞は、加熱や乾燥に対して高い抵抗性を持っているため、死滅させるには120度で4分以上の加熱が必要です」

通常の加熱や調理では死滅しない場合があるため、ハチミツが含まれている食べ物や飲み物を与えないことが大事なのですね。


「ボツリヌス菌」の主な症状は?

先ほど、体内で増殖して毒素を作るとありましたが、主な症状を教えてください。

「ボツリヌス症の症状として、両手両足の麻痺のほか、物が二重に見える複視、食べ物や飲み物が飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)困難、ろれつが回らないなどの構語障害、排尿障害などがみられます」

乳児ボツリヌス症では、便秘や哺乳力低下、泣き声が弱い、全身の筋力低下などです。顔の筋力が低下するために無表情となり、首の筋肉が弛緩(しかん:ゆるむこと)して首のすわりが悪くなることが特徴といわれています

ボツリヌス症は、感染症法の分類上「食餌性ボツリヌス症(ボツリヌス食中毒)」「乳児ボツリヌス症」「創傷ボツリヌス症」「成人腸管ボツリヌス症」などにわかれています。成人の疾患である「成人腸管ボツリヌス症」は、非常に稀なので健康なママパパであれば特に注意する必要はないそうです。

ハチミツの摂取量と症状に関係あるのでしょうか?

「ボツリヌス毒素として、70kgの成人の場合、経口摂取での致死量は70マイクログラムとされています。ですが、芽胞は腸内で増殖するため、ハチミツの量による明確な重症度の違いはわかっていません

誤って食べさせてしまったときの対処法は?

1歳未満で誤ってハチミツを食べさせてしまったときには、どうすればいいのでしょうか。

ハチミツを食べたからといって、すべての乳児に発症するわけではありません。誤って食べてしまった場合でも、症状がなければ経過観察となります」

ですが、手足の動きが少なく力が弱い、無表情になっている、泣き声が小さいなど乳児ボツリヌス症の症状がある場合は、医療機関を受診してください。かかりつけの小児科で構いません

「また、潜伏期間は3日〜30日とかなり幅があり、長期潜伏後に発症する場合もあります。受診する際には、ハチミツを摂取した日付を医療機関に伝えられるようにしておくと良いでしょう」

すぐに症状が出ないこともあるため、摂取後は注意深く観察することが必要です。


食べさせていいのは何歳から? 注意点も!

では、ハチミツは何歳から食べていいのでしょうか。

日本小児科学会の提言として、『1歳未満の乳児にはハチミツを与えないように』と記載されています。ですから、生後1歳以上になってから与えましょう

1歳以上で与えても良くなるのはなぜでしょうか。

「1歳未満の乳児は腸管内の腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう:腸内細菌の群集)が不安定で、感染に対する抵抗力が低いため、芽胞の増殖を引き起こし、さまざまな症状が引き起こされるとされています。生後1歳以上であれば、離乳食などによって腸内環境が整ってくるので、ハチミツを避ける必要はありません」

「また、体の大きさなど発育状態との関係は特に指摘されていません。1歳を過ぎてからであればハチミツを食べても問題はなく、また初めて与えるときの量や与え方などについても、特に注意することはありません

栄養価が高いとされているハチミツですが、1歳未満の子供にとってはリスクのある食品でもあります。ボツリヌス菌は熱や乾燥にも強く、加熱しただけでは死滅しないそうなので、市販の飲み物や食べ物、加熱調理した食品などでも注意が必要です。市販品を与える場合には、成分表示などにも目を通しましょう。

お話を聞いたのは…

  • 渥美ゆかりさん

    大阪府出身、神戸大学卒業。東京都立小児総合医療センターで小児科研修を行い、小児科専門医を取得。その後、同センター総合診療科で勤務し、複雑な背景をもつ患者も含めた小児総合診療に従事。2018年度から国立国際医療研究センター小児科に在籍し、小児科診療を行っている。

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ライター紹介

飯田友美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、フリーランスのライターに。好きなものは猫とパンダ、趣味はライブに行くこと、お芝居を観ること。杉並区在住。2児の母。

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