子供のために絵本を選ぶ時、種類が多すぎてどれにすれば良いのか店頭で悩み込んでしまったりすることはよくあります。そんなときに参考にしたいのが「絵本のプロ」の意見。そこで千代田区立千代田図書館で、児童や保護者向けのサービスや選書なども行う大塚桂子さんに、年齢別のおすすめ絵本について伺いました。今回は5歳編として「自立心を育む絵本」を紹介します。
5歳児に絵本を選んであげる際のポイント

「『イヤイヤ』と何をするにもだだをこね、自立の芽を見せ始めたのは2歳の頃。それが5歳ともなれば、自分の身の回りのことは一通りできますし、物事の善悪の判断もだいぶついてくるなど自立の度合いもかなり進むもの。その分、反抗するときに理屈をつけるなど、手を焼くことも増えてきますが、これは成長過程として仕方のないことです。」
「そんな5歳児には怖いことを『克服』するお話や、冒険に出かけてもちゃんと帰ってくることができ『安心』を感じるお話が良いでしょう。自立心をよい方向にむける絵本と出会わせてあげてください」と大塚さん。
以上を前提としつつ、自立心を育む絵本としておすすめしてくれたのが以下の5冊となります。
5歳児におすすめ!自立心を育む絵本
『はじめてのおつかい』

(作:筒井頼子 絵:林明子/福音館書店/800円+税/発行年月:1977年4月)
ママにおつかいを頼まれ、ひとりで牛乳を買いに行くことになった「みいちゃん」。自転車のベルに驚いたり、坂道で転んでしまっても自分しかいません。お店について「ぎゅうにゅうください」と言っても、お店の人はすぐに気づいてくれず…。みいちゃんは、はじめてのおつかいをやりとげられるのでしょうか?
<選んだ理由>
子どもにとって、はじめてのおつかいは「はじめての大冒険」でもあります。この絵本は、子どもが勇気をもってそんな冒険に挑む様が描かれています。甘えていただけの時期には味わったことのない不安、緊張を主人公と一緒に体験することで、アクシデントに対応することがどういうことなのかを知ることができるでしょう。親御さんも自分が幼かった頃を思い出し、また当時の親の気持ちにもなって楽しめるのでは?
『あさえとちいさいいもうと』

(作:筒井頼子 絵:林明子/福音館書店/800円+税/発行年月:1982年4月)
おかあさんが出かけている間、妹のおもりをすることになった「あさえ」。寝ていた妹が泣いて起きてきてしまっても、ちゃんと一緒に遊んであげられました。でも、夢中で道にチョークで絵をかいているうちに、いつのまにか妹がいなくなってしまい…。
<選んだ理由>
幼い姉の「妹がいなくなってしまった」という緊張、あせりが見事に描写されています。主人公に自分を重ね合わせることで、「守ってあげる」「優しくしてあげる」といった、姉妹に限らない年下の子への接し方を学ぶことができるでしょう。この絵本は『はじめてのおつかい』と同じ作者によるもの。共通して登場する人物を見つけるのも楽しい絵本です。
『かいじゅうたちのいるところ』

(作:モーリス・センダック 訳:じんぐうてるお/冨山房/1400円+税/発行年月:1975年12月)
いたずらが過ぎて、お母さんに夕食抜きで部屋に閉じ込められてしまったマックス。部屋はいつの間にか森や野原が広がる世界になっており、行き着いた先は「かいじゅうたちのいるところ」。そこで王様になったマックスは、かいじゅうたちと楽しく過ごすが、やがて寂しくなり帰ろうとする…。2010年に映画版が日本でも公開されるなど、世界的なベストセラー絵本。
<選んだ理由>
文字が少なく、まさに“絵で読める”この絵本。「かいじゅう」たちの恐ろしくもユーモラスな姿、その不思議な世界に思わず引き込まれます。主人公のマックスのように、自分だけの空想の冒険世界に浸ることで、想像力や自立心が養われるでしょう。マックスの顔が、お話が進むにつれ少しずつ変わっていくことにも注目です。冒険を終えた後、ちょっとだけ顔が大人になっているんですよ。
『こすずめのぼうけん』

(作:ルース・エインズワース 画:堀内誠一 訳:石井桃子/福音館書店/800+税/発行年月:1977年4月)
羽が生え揃った子すずめ。初めて飛ぶ練習の日、お母さんすずめは「石垣までいったら、今日はおしまい」と言ったのに、自分の羽で飛ぶのが楽しくなってずっと遠くまで行ってしまいます。やがて子すずめは疲れてしまいますが、仲間だとおもって頼った他の鳥には冷たくされ…。心細くなった子すずめが、最後に出会えた鳥は?
<選んだ理由>
自分の力だけでどこまでも飛んでいける…。そんな自立心も、やがて疲れと、どの鳥からも「うちの子じゃない」と拒絶される現実にぶつかります。親とはぐれるのは子どもにとって最大の恐怖。読み聞かせの会でも、身につまされるのかみんな真剣に聞き入ります。子すずめの気持ちになって心細さを味わったあとに訪れるラストに、みんな心からほっとするようです。
『ラチとらいおん』

(文・絵:マレーク・ベロニカ 訳:徳永康元/福音館書店/1100円+税/発行年月:1965年7月)
ラチは世界で一番弱虫な男の子。犬を見ただけで逃げ出し、暗い部屋に一人で入ることもできません。そんなラチのところに現れたのは、小さいけれどとっても強いライオン。ライオンのおかげで、少しずつ強くなれたラチは意地悪な男の子から友達のボールを取り返します。でもそのとき、ライオンはもうどこかへ去っていたのでした…。
<選んだ理由>
ラチくんを鍛えてくれるライオンは、小っちゃくて可愛いのにすごく頼りになる存在。そんな2人のやりとりがほほえましく描かれています。ずっと頼りっきりだったのに、いつしかひとりで困難を克服し、自立できたラチくん。成長した彼の元を去ったライオンが、最後にくれた手紙がまた泣かせるんです。
以上は、5歳児向けの自立心を育む絵本としておすすめの5冊。さらに「絵本は純粋に楽しめることが大事」だという大塚さんが、もう1冊追加してくれた絵本を紹介しましょう。
『せんたくかあちゃん』

(作・絵:さとうわきこ/福音館書店/800円+税/発行年月:1982年8月)
洋服だけでなく、子どもや犬、猫まで洗濯してしまう洗濯大好きな「かあちゃん」。干された子どものへそを狙って落ちてきた雷さまをゴシゴシ洗うと、雷さまの顔から目も鼻も口もきれいに無くなってしまいます。雷さまは顔を書き直してもらって空へ帰るのですが翌日、とんでもないことに…。
<選んだ理由>
空から落ちてきた雷さまを顔が無くなるまで洗ってしまう。そんな荒唐無稽な話ですが、とにかく単純に楽しめるこうした絵本も子どもには必要です。雷の危険性は正しく教える必要はありますが、子どもは無闇に怯えてしまうもの。「ゴロゴロ」と鳴った時、子どもを勇気づけてくれそうです。
なお、子どもが同じ本ばかりを何度も読んで欲しがることはよくあるものですが、それは否定すべきことではないようです。「子どもはストーリーが自分の知っている通りに運ぶことに安心感を覚えるもの。なおかつ、常に新しい発見をしているので、せがまれる限り同じ本を何度でも繰り返し読んであげて」とは大塚さんの言葉。同じ絵本ばかりでは、読み聞かせにも飽きが来るものですが、大人の都合を押し付けてはいけないのですね…。