子供のために絵本を選ぶ時、種類が多すぎてどれにすれば良いのか店頭で悩み込んでしまったりすることはよくあります。そんなときに参考にしたいのが「絵本のプロ」の意見。そこで千代田区立千代田図書館で、児童や保護者向けのサービスや選書なども行う大塚桂子さんに、年齢別のおすすめ絵本について伺いました。今回は6歳編として「世の中の常識を学べる絵本」を紹介します。
6歳児に絵本を選んであげる際のポイント

「小学校入学を控えた6歳児ともなれば、周りのお友達との性格の違い、得意なことや不得意なことの差もより目立ってきますし、そのことについて気を揉む親御さんもいると思います。また、この年齢を対象とした絵本は文字も増え、話も複雑になっているものも増えてきますね。」
「だからといって『同じ園の◯◯ちゃんは、難しいお話の絵本も楽しんでいるのだからウチの子も…』なんて、無理に難しい本にチャレンジさせようとはしないでください。絵本選びで大事なのは本人が興味を持てるかどうか、それが全てです。たとえ3歳児向けの絵本を引っ張り出してきても、それは全肯定して読んであげてくださいね。」
以上を前提としつつ、世の中の常識を学べる絵本としておすすめしてくれたのが以下の5冊となります。
6歳児におすすめ! 世の中の常識を学べる絵本
『ねえ、どれがいい?』

(作:ジョン・バーニンガム 訳:松川真弓/評論社/1500円+税/発行年月:2010年2月<改訳新版>)
象にお風呂の水を飲まれちゃう、ワシにご飯を食べられちゃう、ブタにふくをきられちゃう、カバにベッドをとられちゃうとしたら…。そんなどれも困ってしまう選択肢を「ねえ、どれがいい?」と問い続ける絵本。理不尽な究極の選択は、どこか哲学的!?
<選んだ理由>
いずれ人生とは選択の連続である…。と、そこまで構えて受け止める必要はありませんが、愉快な想像の世界を楽しみながら自ら考えて答えを出す練習になるでしょう。なによりも空想の世界で遊ぶのが好きな子どもにとって、純粋に楽しいと思える絵本であることは間違いありません。
『わたし』

(文:谷川俊太郎 絵:長新太/福音館書店/900円+税/発行年月:1981年2月)
絵本の中のわたしは、5歳の女の子、山口みち子。でもお兄ちゃんからみれば「妹」で、犬から見れば「人」…。左ページにはずっと「わたし」が描かれ、右ページにはわたしを別の呼び方で呼ぶ誰かが登場。同じわたしなのに呼び名がいっぱい、そんな不思議を体験できる絵本。
<選んだ理由>
自分にとって自分はいつでも「わたし」という存在であるものの、他者にとってみればその関係性は様々。そんな社会と交わって生きることの楽しさや大切さ、難しさに気付くことができるでしょう。絵本の中の「わたし」をお子さんの名前に変えて読んであげると、また違った反応が見られるでしょう。
『ちいさいおうち』

(文・絵:バージニア・リー・バートン 訳:石井桃子/岩波書店/1600円+税/発行年月:1965年12月)
静かな田舎に立っていた、ちいさいおうち。時が経ち、周りに工場や大きなビルが建つ頃になると、ちいさいおうちは田舎の景色をなつかしく思いはじめる。おうちが擬人化されて描かれているわけではありませんが、読んでいくうちに、ちいさいおうちが人格を持った存在に見えてきます。
<選んだ理由>
描かれている「ちいさいおうち」がとにかく可愛らしい絵本。「家」というのは身近でありながら、人でも生き物でもない存在。その目線で世の中を見るおもしろさを感じて欲しいですね。また近代化の負の側面を知ることで、いずれ環境問題に通じる意識の種を持つことができる絵本でもあります。
『おおかみと七ひきのこやぎ』

(絵・フェリクス・ホフマン 訳:瀬田貞二/福音館書店/1400円+税/発行年月:1967年4月)
留守を預かる子やぎたちの前に現れた狼。おかあさんのフリをして子供たちを食べてしまうが…。もはや説明不要な定番物語。同タイトルの絵本は数多くあるが、フェリクス・ホフマンによる絵にはグロテスクさすら感じる“怖さ”がある。
<選んだ理由>
世の中には、人をだます悪い人もいること。最後には罰がまっていることがわかるみなさんご存知のお話。最近は妙に可愛らしく描いた絵本を多くみかけますが、それでは教訓になりません。すべての絵にしっかりと意味が込められており、狼ばかりかヤギの仕返しにもちゃんと“怖さ”を感じられるフェリクス・ホフマン版がおススメです。
『ペレのあたらしいふく』

(絵:エルサ・ベスコフ 訳:小野寺百合子/福音館書店/1200円+税/発行年月:1976年2月)
子羊の世話をする男の子、ペレ。自分で羊の毛を刈り取り、それを漉いて、糸につむいで…彼が周りの人たちの助けを借りながら素敵な青い上着を作り上げるまでが美しい自然を背景に描かれていきます。
<選んだ理由>
昔からある絵本で、言葉遣いが少々古めかしい面はありますが色彩が非常に美しいと評判です。お話としては飼っている羊一頭から服が一着できるまでを追うことで、物の大切さ、それを作る苦労、そして報酬を得るためには労働が必要であるということがわかるようになっています。
以上は、6歳児向けの世の中の常識を学べる絵本としておすすめの5冊。さらに「絵本は純粋に楽しめることが大事」だという大塚さんが、もう1冊追加してくれた絵本を紹介しましょう。
『おさるとぼうしうり』

(作・絵:エズフィール・スロボドキーナ 訳:松岡享子/福音館書店/1100円+税/発行年月:1970年2月)
ひとつ50円、売り物の帽子を頭に高く積み上げて歩く帽子売り。昼寝中にサルの群れに帽子を盗られてしまいます。取り返そうにも、サルは高い木の上で、怒る帽子売りの真似をするばかり。帽子売りがどうやって帽子を取り返すのかが見もの。
<選んだ理由>
最終的には「知恵と機転」によって、帽子は戻ってくるのですが、そこに学びを得られるというよりも、わざわざ頭に帽子を乗せて売り歩く姿、さらにその値段がたったの50円といった不思議さ、ナンセンスさを純粋に楽しんでもらいたいですね。生意気な猿の行動は読んでいるこちらも思わずイライラさせられるので帽子売りが勝利するどんでん返しは痛快です!
大塚さんは最後に、この年齢への読み聞かせについてもアドバイスをくれました。
「6歳になれば、ひとりで絵本を読める子も増えてくると思いますが絵本はあくまで『絵を読む本』であることを念頭に置いてください。文字を読む練習は確かに大事ですが、そこに集中してしまうと絵本の魅力は半減してしまいます。だから、読み聞かせは続けてあげてください」
親が読んであげたいと思っても「小さい子じゃないんだからもういい」なんて言い出すのはきっともうすぐ。読み聞かせの時間を大事にしてあげたいものですね。