夏祭りの定番といえば「金魚すくい」。子どもの目の前でたくさんの金魚をすくうことができたら、子どもは大喜び! パパの威厳も増すことでしょう。そこで「全国金魚すくい選手権大会」が開催される金魚の本場、奈良県大和郡山市で「金魚すくい道場」を開設する「こちくや」の下村康氏さんに、金魚すくいのコツを伺いました。
屋台でとった金魚の飼育は『どんぶり金魚』がおすすめまずは「ポイ」の強度をチェック。裏表の使い方も学ぼう

「金魚すくいはポイ選びから始まる」と下村さん。ポイとは、和紙を貼った金魚をすくう道具のこと。
「和紙の号数によって紙の厚さが異なり、通常は5号を使用します。もしお店にポイの段ボールが置いてあれば、さりげなく号数を確認しましょう。薄くて破れやすい6号や7号を使っている店は、要注意です。逆に4号を使っていたら、かなり楽しめる店といえるでしょう。」
号数以外にも「紙の白さが濃い」「和紙の繊維が横に入っている」「枠のノリがしっかり貼られている」など、ポイの強度を見るポイントがいくつかあるそう。でも、お店からポイをもらった際に「変えてくれ」とはなかなか言いづらいですよね。
「それならば、ほかのお客さんをじっくり観察してください。すぐに破れてしまうようなら、次の店を探すことをおすすめします。」
和紙の裏表も確認する

ポイの使い方で注意したいのが、裏表。和紙を貼付けてある面が表です。「最初に使うのは裏側から。裏側は、和紙と枠との段差があるので水が溜まりやすいのですが、そのぶん、金魚がひっかかりやすいんです。何匹かすくったら表側に変えて、交互に使いながら和紙の強度を保ちます」。
裏表を交互に使う。これは意外と気づかない盲点かもしれません。
ポイをナナメに入れ、小さくてゆっくり動く金魚を狙い撃ち

ポイのチェックが終わったら、いざ本番! 狙うのは水面近くを泳ぐ、小さくて動きのゆっくりとした金魚です。「大きい金魚、動きの素早い金魚は避けましょう。とくに大きな金魚は、通称『紙破り』と呼ばれるほど難しい相手です。」
「『全国金魚すくい選手権大会』では、4〜5cm前後の金魚をそろえていますが、なかには大きい金魚が混じることもあります。大会では、それらを避ける選択眼も問われるのです。」
もし、どうしても大きな金魚を狙いたい場合はどうすれば? 「ポイで一番強いのは、柄のY字になっている部分。うまくそこに乗せるようにすれば、多少大きい金魚でも何とかなるかもしれません。」
すくう金魚に狙いを定めたら、ポイを一気に水中に入れます。水の抵抗を少なくするために、必ずナナメの角度で。「水面に対して35度〜45度が理想。必ず金魚の頭側から入れます。
「目の前に壁が現れることで、金魚は左右か後ろに反転します。その一瞬に、金魚のお腹の下にポイを滑り込ませるのです。逆に、尾の方から追いかけるのは絶対にNG。目の前にスペースがあれば、そのぶん金魚が逃げやすくなります。」
もし失敗したら、すぐにポイを引き上げましょう。水に浸かっている時間は極力少なく、これも鉄則だそうです。
和紙を破られないための秘技「尾びれはずし」!

ポイを水中に入れたら、金魚のお腹の下に素早くスライドさせます。水の抵抗を減らすため、必ず水平に動かしてください。そして、金魚の泳ぐ方向に一緒に動かしながら、エスカレーターのように徐々にナナメに上げていきます。ナナメに引き上げるのは、最終的に金魚が枠に近い位置に乗るようにするためです。
「ポイに金魚の重みがかかるのは、水面から引き上げてお椀に入れる一瞬だけ。それ以外は金魚に触れません。」
「水に濡れた和紙はとても弱いです。とくに破れやすいのが、金魚の尾びれで叩かれたとき。それを避けるためには、『尾びれはずし』という技が欠かせません」。枠の外に尾びれをはみ出させてすくう高等技術ですが、「ひたすら練習あるのみ」と下村さん。これをマスターすることが名人への第一歩です。
お椀は水に浮かべ、金魚との距離を短くする
いよいよ最終段階。すくった金魚を素早くお椀に入れるためには、お椀の使い方も重要です。「お椀は手で持たず、水面に浮かべます。入れる水の量は8割くらい。多めに水を入れることでお椀が水面ギリギリまで沈み、そのぶん、金魚との距離が近くなります。」
お椀に金魚を入れるときにも少々コツが。「ポイを90度に立てて水と一緒に流し込めば、次の金魚を狙う前にポイの水を切る時間を省けます」。1秒でも時間を稼ぎたい競技の世界で技を磨く、下村さんならではの合理的な理論です。
なお、名人になると1匹すくうのにかかる時間は、ものの2、3秒程度だとか。
「こちくや金魚すくい道場」では独自に段位を設定し、1分間に10〜15匹をすくうと初段が認定され、道場に掲示されます。「師範」ともなれば5段(30匹〜35匹)以上の実力を持ち、「心技体」を兼ね備えるまさに達人の領域なのです。
金魚の習性を知り、仲良くなる。それが上達への近道
技術を磨くことも大切。でも、それと同じくらい大切なことが2つあります。1つは、金魚の習性を知ること。「金魚は影に集まります。水面に自分の影を落とせる場所に座れば、その習性を利用して金魚を目の前に集めることができます。服装も光を反射する明るい色ではなく、暗めの色を選べばより効果的でしょう。」
もう1つは、金魚と仲よくなること。「道場の門下生には、常々『金魚にやさしく』と指導しています。金魚を追いかけ回すなどもってのほか。金魚自身がすくわれたことに気づかない、それが理想です。金魚を愛し、一緒に泳ぐ気持ちになれば、不思議と腕も上達するものです。」
確かに、金魚が傷つかなければ、同時にポイも傷つきません。すくう人間とすくわれる金魚、ともにハッピーな方法を極めることが、金魚すくいの神髄なのかもしれません。
夏は金魚すくいの季節。今回ご紹介した「金魚すくいのコツ」を駆使すれば、カッコいいパパの姿を子どもに見せられること間違いなし! 金魚すくいは、大人も子どもも夢中になれる魅力がいっぱい。そのうえ、生きものを大切にする心まで教えられる、奥の深い遊びでした。