「ボタンとめて」「お靴を履かせて」と何かとせがんでくる子どもたち。親としてはやってあげたいけれど、「これって甘やかしになるの?」と一瞬とまどってしまうこともありますよね。子どものためになる「甘え」と、自立を妨げる「甘やかし」について、専門家に伺いました。
全力で受け止めてあげたい子どもの「甘え」
なんでも「自分でやる!」と頑張っていた子どもが急に「できない」「やって」と言い出すと、親としては面食らうときもありますよね。子どもにとって「甘え」とは、そもそも何なのでしょうか?
「甘えは、自立心を持って行動しようとしていた子どもが、安心と親の愛情を求めるときのサインです。」
そう話すのは、子ども能力開花くらぶ「Tulip friends」の代表で、子育ち支援士として活躍する田宮由美さん。
「誕生したての赤ちゃんは100%親に依存して生きています。それは赤ちゃんにとって、とても安心できる世界なのですが、やがてある思いが沸き起こってきます。それは不自由という気持ちです。安心だけど自分の思い通りにならないことに不自由感を抱き、何でも自分でやってみたくなる時期が訪れます。」
この時期はだいたい2歳前後。いわゆるイヤイヤ期の言動は、子どもに自立心が芽生えた証なのだそうです。
「自立」と「甘え」のバランスが大切
「ただ、いくら子どもが『自分で!』と思っても、すべてのことを上手くできるわけではありません。できると思っていたことができなかったり、いつも傍にいた母親がいないことから、子どもは不安を感じ、安心の世界に戻りたくなります。甘えてくるのはそんなときです。」
なるほど。甘えるのは、自立しようとしてきて不安を抱いたときなのですね。
「このときに大事なのは、十分に甘えさせてあげること。子どもは『甘え』と『自立』を行ったり来たりしながら、らせんを上向きに描くように少しずつ、自立していくのです。ですので、子どもが甘えてきた時は、きちんと受け止めてあげてくださいね。」
しっかり甘えさせながら親の愛情で包んであげることで、子どもは安心して次の段階に向かっていくことができるのですね。いつも自分で着替えていた子が急に「手伝って」と言ってきた、一人で寝る子が急に「一緒に寝て」と言ってきた…そんなときは、愛情一杯に、対応してあげましょう。
メリットいっぱい。子どもの強さを培う「甘えさせ」
田宮さんによると、適切な「甘えさせ」は、自立心だけでなく、さまざまな力を育むことにつながるのだとか。どんな力が育つのでしょうか?
「ひとつは『行動力』です。ママやパパがいつでも受け入れてくれるという安心感は、子どもの『やってみよう』という気持ちを後押しします。また、失敗しても戻ってくる場所があることは、恐れず新しいことにチャレンジする心、つまり『折れない心』を育てることになります。」
また、「思いやりや、親子の信頼関係を育てることにも有用です」と田宮さんは続けます。
「十分な甘えさせは、子どもの気持ちを思いやれる親だからこそできること。親の思いやりに接した子どもは、自身も他の人を思いやることができるようになります。」
甘えさせることが、こんなにたくさんの成長につながるとは! 戻る場所があるという安心感は、子どもを強くするのですね。
間違えないで。その対応は「甘やかし」
甘えを受け入れるのは大切ですが、「それって単なる甘やかしにはならないの?」という疑問も。「甘えさせ」と「甘やかし」は、いったいどう違うのでしょう?
「簡単に言うと、子どもからの働きかけに応えるのが『甘えさせ』、親の都合で手を出すのが『甘やかし』です。」
例えば、子どもが自分で着替えようとしているのに、もどかしいからと親がやってしまうのが「甘やかし」。こういうことを続けていると「子どもの依存心が強くなり、やがては自分で責任を取らない子になってしまうかもしれない」と田宮さんは言います。
「甘やかすのは、自立に向かう上向きのらせんをストップさせることです。自分でできたという成功体験も乏しくなるので、自信も育ちません。結果的に、いつまでも誰かに何とかしてもらおうと考えるようになります。」
なるほど。つい親が手を出したくなる場面もありますが、できるだけ見守ることが、将来のためには大切なようですね。
この対応はOK? 正しい甘えさせのチェックポイント
子どもの甘えをちゃんと受け止めたくても、子どもからのサインの見逃し、対応の間違いはありえるもの。日々、どんなことに気を付けたらいいのでしょうか?
「情緒的・精神的な甘えには可能な限り応えてあげてほしいですが、物質的・金銭的な要求とは分けて考えてください。例えば『抱っこして』『絵本を読んで』といったことは精神的な求め。一方、おこづかいや物をねだるのは物質的な求めであり、その全てに応じることは『甘やかし』につながります。」
親も子も心が満たされる精神的な甘えなら、思う存分受け入れてあげてもOKというわけですね。
「過保護」よりも「甘え不足」に気を付けて
ちなみに、甘えを受け入れすぎて「過保護にならないか?」と心配する親も多いそうですが、田宮さんは「大丈夫ですよ」と言います。
「過保護を心配する気持ちがある親御さんは、そもそも客観的。自分の行動を振り返る気持ちがあるわけですから。過保護の明確な基準を示すことはできませんが、『過保護にならないか』と意識をする気持ちがあれば、過保護に陥ることは少ないでしょう。」
田宮さんは、過保護よりもむしろ「甘え不足」に気をつけてあげてとアドバイス。
「『厳しく接しなければ子どもは自立できない』と考えて、子どもの精神的な要求を突き放してしまう方がいます。でもそれは逆効果。甘えたいときに甘えさせてもらえないということは、一旦親から離れると、親の元に戻りたくなっても受け入れてもらえないということです。なので、逆に親から離れようとしなくなってしまいます。厳しくするより、お子さんの甘えをしっかり受け止めてあげてください。」
甘えは自立のために必要なステップ。甘えてくれる「今、このとき」を楽しみつつ、子どもの成長を促してあげたいものです。