幼稚園や小学校が夏休みに入ったこの時期、子どものプールデビューを考えているパパママも多いのではないでしょうか。ですが、子どもに水泳を教えるのは思っている以上に難しいもの。水を怖がったり、水に顔をつけたりするのが苦手な子どもも少なくありません。
そこで今回は、子どもが泳げるようになるためのポイントや息つぎのやり方、水嫌いにさせない工夫などについて、オリンピックメダリストでコナミスポーツの子ども向けスクール「運動塾」の運営に携わる、大西順子さんに伺いました!
水への恐怖心を克服する鉄則は「段階を踏むこと」
コナミスポーツクラブでは、子どもを対象とするスイミングスクールを運営していますが、初めて水泳を体験するのは、何歳くらいの子どもが多いのでしょうか?
「初チャレンジで最も多い年齢は、幼稚園の年中から小学校2年生くらいまで。週1回のコースを選ぶことが多いですね」
生後4カ月から参加できる『ベビースイミング』コースもあり、乳児期から始めることで、自然と水に親しめるのだとか。
「ただし、すでに水への恐怖心を感じているお子さまは、段階を踏んで進めてください。例えば、プールの底に足を着けるところから始めて、水中歩行ができるようになり、水中で息を吐き出してみるといった進め方ですね」
水中歩行の目的は、水中での移動を体験し、水に慣れることです。
「当クラブも含め、多くのスイミングスクールでは、歩行ができるようにプールの中に台を入れて、お子さまの足が届くようにしています。そのような取り組みをしているプールやクラブを探してみてはいかがでしょうか」
また、水中で息を吐き出す練習は、のちに泳ぐときのポイントにもなるそう。そのため、早い段階でしっかり練習しておくことが大切だといいます。
「練習方法は、大きく分けて2つあります。ひとつは、水面に顔をつけて鼻と口から息を吐く『バブリング』。もうひとつは、プールの中でジャンプを繰り返し、水中に顔を入れたり、出したりしながら呼吸をする『ボビング』です」
「特にボビングでは、泳ぐときに必要な呼吸法を学ぶことができます。『ブクブク〜』としっかり鼻や口から息を吐き、最後に『パッ』と強く口で息を吐き出すと、水中から顔を出したときに、自然と空気が『ハッ』と入ってきます」
「順番は気にせず、できることから初めてください」との言葉にひと安心。また、プールに入る前には、準備体操も忘れずに。準備体操をすることも、水に慣れるための大切な要素だそうです。
「できる喜び」が水嫌いを克服させる
水が嫌いな子どもは決して少なくありません。ですが、段階を踏んで水に慣れることで、子どもは「できる喜び」を実感できます。その感覚が、水嫌いを克服させるといいます。
「最初はプールに入ることもためらっていたお子さまでも、次第に水を好きになります。最終的には、当クラブの上級クラスである『選手クラス』まで進み、活躍されたというケースもあります。『できる喜び』を感じることは、水を好きになる第一歩ではないでしょうか」
確かに、先を急ぐあまり、水嫌いになってしまっては意味がありません。焦らず、子どもの進歩に合わせて、パパママも一緒に楽しむことが大切ではないでしょうか。
初期段階には補助具を取り入れると効果的
水泳の練習には、補助具の使用も効果的。そのなかでも、「アームリング」と呼ばれる腕に付けるタイプの浮き具は、初期段階にぴったりだといいます。
「アームリングを付けることで、体が安定し、呼吸確保がしやすくなります。手足の動きに意識を集中させることができるため、水中歩行の練習には特に効果があります」
一般的な浮き輪と違い、ひっくり返ることもないアームリングなら、パパママも安心です。ほかには、「ヘルパー」と呼ばれる腰に付けるタイプの浮き具も、バランス感覚を養う効果があるそうです。
「点(足)で重心をとる日常生活やほかのスポーツと違い、面(水平姿勢)で重心をとるのが水泳です。ヘルパーを付けると、より水平姿勢に近い姿勢をとることができ、浮揚力を感じられるため、バランス感覚を身に付ける際に役立ちます」
ただし、補助具の目的はあくまでも「補助」。「頼りっきりにせず、外すことができる力をつけることを目的に」という言葉をしっかり胸に刻みましょう。
ところで、耳栓はした方がいいのでしょうか?
「保護者や指導者の声が聞こえにくくなることから、お子さまの場合にはあまりおすすめしていません。ただ、耳に水が入ることを強く拒否する場合には、使用してもよいでしょう」
一番大切なのは、水を好きになること。ただ練習するだけではなく、遊びの要素を取り入れることも効果的だといいます。「おもちゃを水に入れて取りにいく競争など、恐さを忘れさせるような楽しいことをどんどん取り入れて」と教えてくれました。
初めて泳ぐならこれ! クロールに大切な4つのポイント
十分に水に慣れたら、いよいよ泳ぐ練習です。4泳法(クロール、平泳ぎ、バタフライ、背泳ぎ)のなかで、最初に教えるのは一番速く、一番長く泳げるクロールとのこと。クロールを子どもに教えるときに大切な4つのポイントを伺いました。
(1)「体を伸ばして、浮きやすく」正しい姿勢を身に付ける
「体を反らさずにしっかりと伸ばして、体と水面が水平になるように意識しましょう。足は軽く内股にして、蹴り幅は足のサイズほどにとどめるのがポイントです。ひざを大きく曲げてバタ足をすると、下半身が沈んでしまいます」
(2)肩から大きく腕を回し、ひとかきでいっぱい進む
「前に進む推進力を得るために大切なポイントは、腕の力ではなく、回し方です。腕が前から後ろに回ったところで、肩をグッと開くようにすると、大きく腕を回すことができます」
(3)正しい息つぎで楽に呼吸できるようにする
「やってしまいがちなのが、水中で息を止めてしまうことです。これでは顔を上げたときに、十分に息を吸うことができません。水中で鼻から『ンー』と長く吐き、顔を上げたら『パッ』と口を開けて、息を吸いましょう」
(4)息つぎの正しいタイミングをつかもう
「息つぎのコツをマスターしたら、次は腕の回転と息つぎのタイミングを合わせます。手を回しはじめたら、伸びている腕を枕にするイメージで、横を向いて息を吸い、腕が水面に戻る前に顔を水につけます」
コツを習得するまでは、ひたすら練習あるのみ。根気よく子どもに教えてあげましょう。最後に、水泳が子どもに与える影響を聞いてみました。
「全身にバランスよく筋肉がつき、呼吸筋が鍛えられることで、心肺機能にも良い影響をおよぼします。また、体温調整機能が向上するという側面もあります。そしてなにより、『次はこうなりたい』という目標が明確なため、チャレンジする勇気を養うことができるのです」
肉体的にも、精神的にも成長できる水泳は、親ならぜひ習わせたいものです。いよいよ夏本番なこの時期に、パパママも子どもと一緒に練習してみてはいかがでしょうか?