子どもに字の書き方を教えるとき、重要とされる「書き順」。小学校でも習いますが、テストでは書き順を間違えても字の形があっていれば、正解になります。では、なぜ大切なのでしょうか。文字や書写の教育を専門とする広島大学大学院教授・松本仁志氏に詳しく聞きました。
宿題の定番「音読」はなぜ大切?書き順を守ることの3つのメリット

文字を学習する際、必ず一緒に教わる書き順ですが、どんな順番でも書くことはできます。それでも書き順を守ることは大切なのでしょうか?
「たしかにどんな順でも書けますが、書き順を守るメリットは3つほどあります」
1. 文字が書きやすい(運筆に無駄がないため)
2. 文字が整えやすい・読みやすい(全体の形や線の方向が安定するため)
3. 文字を覚えやすくなる(同じ形は同じ書き順というルールがあるため)
「実は、今でも複数の書き順が存在する文字はあり、社会において『唯一正しい』書き順というのは存在しません。書き順を重要と考えない人もいますが、手で文字を書いている以上は自己流を含めて何らかの順番で書いているもの。学校で習う『正しい書き順』は、書きやすく、文字が覚えやすい共通ルールに基づいたものといえるので、それを身につけるのが一番効率がよいでしょう。ただし、学校で習う書き順は右利き用なので、左利きの子どもには『覚えやすさ』のみがメリットとなります」
書き順はどうやって覚える?
書き順を一つひとつ覚えるのは大変に思えますが、簡単に覚えるコツはあるのでしょうか?
「まず、文字は『上から下へ』『左から右へ』書くのが大原則です。『同じ形は同じ書き順』というのも共通の原則ですね」
「そのほか、『横から縦へ』『外から中へ』『中心から周辺へ』などの小原則もありますが、これらは例外が多くなります。歴史的な理由や『書きやすさ・整えやすさ・覚えやすさ』のどれを優先するかによって決まるため、文字ごとに異なります」
漢字の場合、すでに習った部首があれば同じ順番で書けるということ。大原則だけでもしっかり身に着けておくと役立ちそうですね。
文字の原則を覚えたうえで、書き順を間違えやすい字があるのか聞いてみました。

「いくつかあります。上記に挙げた原則の例外となるものは、やはり間違いやすいですね。ひらがなでは『も』『や』『よ』『な』『ふ』、カタカナでは『ヲ』などです。これらは個別にしっかり書き順を覚えておきたいですね」
「漢字では、昔から複数の書き順が存在してきた『はつがしら』『上』『耳』『必』『馬』『長』などです。ほかには、『左右』『可』『にょうのつく漢字』『王』『飛』『卵』『世』『りっしんべん』なども間違えやすいですね」
親子で書き順が違う…正しいのはどっち?
小学生の子どもがいる筆者は、間違いを指摘したつもりで自分が間違っていた…ということが時々あります。今と昔で教わる書き順が違うということもあるのでしょうか?
「戦前の書き順は本によってまちまちだったため、過去にはありました。昭和33年に文部省(当時)から『筆順指導の手びき』という基準書が出され、現在学校で教える書き順は統一されています。今の親世代は子どもと同じ書き順を習っているはずです」
では、どうして親子で認識に違いがあるのでしょうか?
「親の方が無意識のうちに自分流に書き換え、それを学校で習った書き順だと勘違いしている場合がほとんどです。習字教室の先生が異なる書き順を教えてしまっていたり、学校の先生が自分流の書き順で書いてしまい、それを子どもが覚えてしまったりする場合もあります」
大人の勘違いで、間違った書き順を教えてしまうケースも考えられそうですね。子どもに書き方を教える場合は、覚えている書き順が正しいかを一度確認してみましょう。正しい書き順を確認する際に、参考になる書籍も教えてもらいました。
「書き順の考え方を知りたい場合は、『筆順のはなし』(中央公論新社)に詳しく書いてあります。また、書き順を含めて学習漢字全体の情報を知りたい場合には『漢字指導の手引き(第八版)』(久米公編著・教育出版)がおすすめです」
子どもの書き順を正しくするには?
子どもはとんでもない書き順で文字を書いていることもありますが、直そうとすると反発されることも。どう向き合ったらよいのでしょうか?
まずは鉛筆の持ち方をチェック!
「学校で教える書き順は正しい鉛筆の持ち方で書くことが前提なので、持ち方がおかしいとメリットを感じにくくなります。また、手の成長とともに持ち方が変化し、その影響で書き順が自己流に変わってしまう場合もあります。小学校卒業くらいまではよく観察して注意してあげましょう」
書き順を守るメリットを伝える
「書き順を守るメリットを理解させることも効果的です。正しい書き順を身につけることで、文字がきれいに書ける、覚えやすくなるという実感が持てれば、自主的に修正する子どももいます」
左利きの場合は紙の置き方を工夫する

「欧米には左利きのための教本が存在しますが、日本には存在していません。現状、左利きの場合は、鉛筆の持ち方など、右利きの子どもと対称的な持ち方が指導されています。書きにくい場合は、紙の置き方などを自分で模索しながら、右利きと同じ書き順を定着させましょう」
さいごに、「文字の書き順は、箸や鉛筆の持ち方と同様、他人から見られるポイントです」と松本先生。一度覚えた書き順を修正するのは難しいので、「文字を書くのは楽しい!」と思えることを最優先しつつも、習い始めから正しい形で身に付けたいですね。
ぜひ親子で一緒に取り組んでみてください。