子供が小学校に入学すると、登下校時に一人で道を歩くなど、行動範囲が一気に広がります。交通事故などにあわないためにも、入学前に交通ルールをしっかり教えておきたいですよね。
そこで今回は、警視庁交通総務課で交通安全教育係を務める保谷健一さんに、子供が身につけるべき「交通ルール」や、教える際のポイントを聞きました。
子供に「交通ルール」を教えるポイントは?

子供に交通ルールを教える際に、親子でどんなことを確認したらいいのでしょうか。
「まずは、子供がしっかりと理解できる表現で、具体的に教えることが大切です。たとえば、『ここは危ないから気をつけて』という言葉だけでは、子供は理解できません。『ここは車が見えにくい場所だから、ここで一度止まって車が来ていないかをよく確認してから渡りなさい』など、危険である理由と対処法を具体的に教えましょう」
「このとき、言葉選びにも注意してほしいです。意識せずに大人が普段使う言葉を使ってしまうと、子供には伝わらない場合が多いです。『右折』『一時停止』などは、『右に曲がる』『しっかり止まって右左を確認する』など、表現を工夫してください」
「危険予測は、イラスト・写真、または実際の道路で教えるのも効果的です。危険な場所を一緒に点検しながら、そこで実際に起きた事故や危ない場面などについて話しましょう。警視庁公認交通安全情報サイトや警視庁ホームページでは、交通安全教育のためのリーフレットや動画で交通ルールが確認できるので、ぜひ活用してください」
では、具体的にどんな交通ルールを教えればよいのでしょうか?
「必ず身につけておきたい交通ルールは、おもに次の5つです」
(1)必ず横断歩道を渡る
少し遠くても、横断歩道があれば必ずそこを渡る習慣をつけさせましょう。ただし、横断歩道を渡る場合も安心せず、必ず右左を見て、顔を車両の方向に向け、車が止まってくれたか確認してから渡るように伝えてください。絶対に車の陰から道路を渡ってはいけないことも、何度も繰り返し教えてほしいですね。
(2)きちんと安全を確認した上で手を挙げてから渡る

手を挙げるアクションは「ドライバーに横断の意思表示をする」大切な手段です。とはいえ、手を挙げているから大丈夫だと安心しては逆効果。きちんと安全を確認してから手を挙げ、車の停車を確認したうえで横断するという順番をしっかりと身につけさせましょう。
(3)信号のある場所でも車の動きを確認してから渡る
「青信号は渡って大丈夫」と、青信号を過信するのは禁物です。信号を守らない車だけでなく、交差点では同じ青信号でも右折・左折してくる車もいます。信号が青になった瞬間に走り出さないように、十分に注意してください。信号は、少し後ろに下がった場所で待ち、車の動きを確認してから渡るように教えましょう。
(4)歩行者の通行すべき場所や道路の使い方を理解する
必ず歩道や路側帯を歩き、道路でふざけたり遊んだりしてはいけないことも伝えておきたいですね。移動に使いがちなローラースケートやキックボード、一輪車は遊具なので、道路での使用はNGです。
(5)誰かと一緒のときも要注意
集団登校や友人と一緒のときは、ふざけたり注意散漫になったりしやすいもの。みんながやっているから安心という油断は禁物です。車が子供たちの列に気づいているとは限りません。よそ見をしたり、下を向いたまま歩かないことが大切です。
低学年の子供に多い事故の傾向と原因は?

実際に小学1年生や低学年の交通事故は多いのでしょうか?
「毎年多少の違いはありますが、歩行者の人身事故の件数についていえば、6学年のうち、学年が下がるにつれて増加します。2019年の場合、1年生の件数は6年生の約4.5倍に上りました(都内)」
【学年別の事故件数】

「1年生の人身事故は入学直後よりも6月に多く発生し、夏から秋にかけていったん減少しましたが、年が明けた2〜3月に増加するという傾向がありました。6月は入学して2カ月ほど経った頃です。少し慣れた頃が、最も注意が必要だといえます」
1年生の人身事故の時間や場所などに傾向はありますか?
「発生時間帯では最も多いのが14〜16時。次に16〜18時です。これは、下校時間帯や家に帰ってから遊びに出かける時間帯と重なっています」
「事故現場として圧倒的に多いのは、区市町村道です。これは生活道路等の裏通りなどを指し、小学生全体で国道の約24倍もの事故が発生しています」
【道路別発生件数】

事故の原因はどういったものが多いのでしょうか。
【事故発生原因】

「歩行中の事故について、発生件数を違反別にみると、小学生全体で最も多いのが飛び出しです。2番目が信号無視。その次に多いのが、横断歩道外の横断と、駐車車両の直前直後の横断です」
駐車車両の直前直後の横断が3番目に多いのですね。
「停まっている車が動き出すことを予測するのが難しいだけでなく、子供は車の走行速度を正確に判断できません。そのため、接近してくる車が見えているのに『まだ大丈夫』と感じて横断を開始してしまうこともあり、非常に危険です」
大人とは体格や身体機能が違うので、子供の立場で考えて注意するポイントを伝えておく必要がありそうですね。
「子供と大人では、視界の範囲が大きく異なります。大人がおおむね水平方向で150度、垂直方向で120度の視界があるのに対して、子供はおおむね90度・70度しかありません。さらに、目線自体も低いので、遠くのものはあまり見えません。そのため、大人よりも慎重に安全確認しないと危険の発見が遅れてしまいます」

「子供の視界がどれくらいなのか体験できる『チャイルドビジョン(幼児視界体験メガネ)』などもあるので、ぜひ活用してみてください」
ほかにも注意すべき点はありますか。
「何かに夢中になると周囲が見えなくなったり、1人のときは守れている交通ルールを友達につられて破ってしまうことがあるのも低学年の傾向です。自分の命を守るためにも、交通ルールの厳守がとても大切であることをしっかりと認識させてください」
ママパパは子供のお手本! まずは親がルールを守る
そのほか、親が子供にできることはありますか?
「子供のお手本となる親自身が、きちんと交通ルールを守ることです。子供たちはとても素直で記憶力もよいので、言われたことをすぐに覚えて大人の真似をしたがります。子供と一緒に行動しているとき『急いでいるから』と歩行者信号が点滅しているのに駆け足で渡ったり、斜め横断や横断歩道のないところを渡ったりするのはやめましょう。子供はそれが当たり前と思ってしまいます」
「交通ルールを教えるママやパパが守れていなければ、説得力がなく、子供にも伝わりません。子供にきちんと交通ルールを身に着けてもらうためには、まずは親自身がいつでも正しい行動を取る必要があります」
保谷さんによれば、3分早めに出かけるだけで、焦りによるルール違反はなくせるとのこと。余裕を持った行動は、生活全般においても大切なことなので、交通ルールと合わせて習慣づけておきたいですね。ぜひこの機会に、親子で確認してください。