栄養豊富とされる牛乳ですが、実はあまり飲みすぎると「牛乳貧血」と呼ばれる状態になり、鉄欠乏性貧血を引き起こすそうです。牛乳貧血とは何なのか、どれくらいの量なら飲んでもいいのか、貧血にならないためにはどう注意すればいいのかなど、牛乳貧血の仕組みと対処法について専門家に聞きました。
牛乳には鉄分の含有量がとても少なかった!

「長期間にわたって牛乳を大量に摂取することにより、鉄分が不足して鉄欠乏性貧血を起こす。これが牛乳貧血と呼ばれるものです。」
こう話してくれたのは、日本小児科学会認定専門医・指導医であり、大和高田市立病院小児科部長の清益功浩さん。
鉄欠乏性貧血とは、その名の通り、体内の鉄分が不足することで起こる貧血のこと。では、どうして牛乳を飲みすぎると鉄分が不足するのでしょうか?
「牛乳は、鉄の含有量が非常に少ない食材なのです。乳児が1日に必要とする鉄はおよそ5mgとされていますが、それに対して牛乳は、一般的に1リットル当たり約0.6mgしか鉄が含まれていません。」
「ですから、牛乳をたくさん飲むことでお腹がふくれてしまい、ほかの食材をあまり食べられない…ということが続くと、必要量の鉄分を摂取できなくて、貧血の症状が起こるのです。牛乳だけで鉄分を摂取しようと思うと、1日に10リットル飲まなければいけない、という計算になりますからね。」
牛乳を飲むから貧血になるのではなく、牛乳を飲みすぎてごはんがきちんと食べられなくなるのが主な原因のよう。体にいいと言われる牛乳ですが、それだけに頼ってはダメなようです。
牛乳は400ミリリットル以内を1日の目安に
飲みすぎると、鉄欠乏性貧血を起こす可能性があるという牛乳。それでは、どれくらいなら飲んでも大丈夫なのでしょうか?
「体格や年齢、他の食材をどれくらい食べているのか、などで変わるので、牛乳の適正量は一概には言えません。ただ、子どもの成長にはカルシウムの摂取も大切です。おおよその目安としては、1日に400mlくらい。小さな牛乳パック2本くらいなら大丈夫かなと思いますね。」
とはいえ、これはあくまで目安だと清益さんは言います。400mlでもおなかがふくれるという子どもなら、もう少し減らしても良いそうです。どれくらいの量なら、牛乳を飲んでもごはんがちゃんと食べられるのか、そこはしっかりママが見極めてあげましょう。
生後6カ月頃からは鉄分が不足しがちに
さらに、こうした鉄欠乏性貧血は、牛乳の飲みすぎだけが原因ではなく、生後6カ月頃から注意が必要だと清益さんは話します。
「乳児はもともと、体内に鉄分をある程度貯蔵しているのですが、生後6カ月頃になると、その貯蔵していた鉄分がいったんなくなるのです。それは、乳児期の成長に関係します。乳児は、生まれてから1年くらいの間に、体重がおよそ3倍に増えますよね? そうした成長に鉄分が使われてしまうのです。」
実は牛乳だけではなく、母乳も鉄分の含有量が少ないのだとか。そのため、体内の貯蔵していた鉄分を使い切る生後6カ月を過ぎた頃からは、離乳食などで不足しがちな鉄分を補う必要があるそうです。
「また、生後6カ月頃というのは、免疫力が低下する時期でもあるため、感染症にもかかりやすくなります。感染症にかかると、免疫細胞が鉄を必要とするので、赤血球を作るほうに鉄分がまわらなくなります。これも貧血が起こりやすい原因の1つです。」
体もぐんぐん成長して、感染症にもかかりやすい生後6カ月頃は、どうしても体内の鉄分が不足しがち。おっぱいが大好きな赤ちゃんであっても、生後6カ月を過ぎたら、意識的に離乳食による鉄分の補給を考えたほうが良さそうですね。
「あかんべー」で貧血のチェック

子どもが鉄欠乏性貧血になると、どのような症状が見られるようになるのでしょうか。先生にチェックすべきポイントを教えてもらいました。
子どもの鉄欠乏性貧血のチェック項目
- 顔色が白い
- 少し動くと元気がなくなる
- 脈が早くなる
- 疲れやすい
- 唇が白っぽくなる など
症状としては、成人の一般的な貧血とほぼ同じです。
「わかりやすいのは、あかんべーをするように、子どもの目の下を少し引っ張って、結膜の色を見ることです。上記のような症状が見られる上、結膜の赤味が薄い場合は、貧血の疑いがあります。」
おっぱいや牛乳が好きで、ごはんを食べる量が少ないと感じる子どもの場合は、少し元気がないなと思ったら、貧血を起こしている可能性も。まだ上手に話せない年頃なら、ママが気をつけて様子を見てあげたいですね。
レバーは効率的に鉄分を摂取できる食材

鉄欠乏性貧血にならないためには、毎日の食事の中で鉄を補うのが大切です。そこで清益さんに、鉄を多く含む食材を教えてもらいました。ただし、離乳食の時には、その時期に合わせた食材を選びましょう。
食材100gに対しての鉄の含有量
- ヒジキ…58.2mg(鉄釜での調理時。ステンレス釜だと、6.2mg ※)
- きくらげ…35.2mg
- 焼のり…11.4mg
- ごま…9.6mg
- 大豆…9.4mg
- ホウレンソウ…2.0mg
- レバー(豚)…13.0mg
- レバー(ニワトリ)… 9.0mg
- レバー(牛)… 4.0mg
- アサリ…3.8mg
- ブリ… 1.3mg
- 牛肉(肩ロース)… 1.2mg
こうして見ると、海藻、豆類、魚、肉に鉄が多く含まれていることがわかります。
「実は焼き海苔なども、鉄を多く含んでいる食材の一つです。ただ、1枚あたりの体積が軽いので、たくさん食べないといけなくなりますね。そういう意味で、効率良く鉄を摂取できるのがレバー。また、肉類は、鉄の含有量が多いことに加えて、比較的食物アレルギーが少ないのが特徴です。」
「こうした食材を意識的に摂りながら牛乳を飲んでいれば、牛乳貧血はあまり心配しなくても大丈夫ですよ。」
バランスの良い食事を心がければ、牛乳が好きでもそれほど心配しなくても良さそう。食事で上手に鉄を補いながら、おいしく健康的に牛乳を飲ませてあげたいですね。
※2016/5/2の13:00配信時点で、「食材100gに対しての鉄の含有量」の一覧で「ヒジキ…55mg」としておりましたが、文部科学省が2015年12月25日発表の「日本食品標準成分表2015年版 (七訂)」において、釜の材質による影響を考慮し「鉄釜だと58.2mgの鉄分を含むが、ステンレス釜だと6.2mg」と改訂しておりましたため、追記させていただきました。(2016/5/2 21:40)