最近よく耳にする「叱らない子育て」。アドラー心理学をベースにした育児法ですが、なんでもかんでも叱らないでいいのでしょうか? そこで、放任との違いがわかりにくい「叱らない子育て」の取り組み方について、専門家に聞きました。
「叱る」以外の選択肢を知るのが第一歩

そもそも、「叱らない子育て」はなぜ人気になったのでしょうか。
「“叱らない子育て”の逆である“叱る子育て”がこれまでの主流でした。でも叱ることで、子育てが思い通りに進むわけではない。そこで、叱る子育てに疑問を感じるママが増えてきたのではないでしょうか。」
こう答えてくれたのは、アドラー心理学カウンセリング指導者の岩井俊憲さん。
岩井さんは、従来の「叱る子育て」についてこう話します。
「大人目線で『これはこうするもの』『これはできて当然』と子どもに勝手に期待を持ち、それが思い通りにならないから叱る。つまり、できないことに目を向ける減点方式の考え方が、叱る子育ての背景にあると考えます。」
期待と現実のギャップを理由に叱るのが「叱る子育て」。では、これまではなぜ叱る子育てが主流だったのでしょうか。
「自分自身が叱られながら育ったから、『子どもは叱るもの』と考えてしまったのではないでしょうか。でもそれは、それ以外の選択肢を知らなかっただけ。“叱る”以外の子育て法を知り、それが良い方法だとわかれば、誰だってその新しい方法を実践できるのです。」
では、最近よく聞く「叱らない子育て」とは、どんな考え方の子育て法なのでしょうか。
「尊敬」「信頼」「共感」が叱らない子育てのキーワード

岩井さんによると、「叱らない子育て」には3つのキーワードがあるそうです。
「叱らない子育ては、アドラー心理学をベースにしたもので、子どもに対して『尊敬』『信頼』『共感』の気持ちを持つことが大前提とされています。」
尊敬とは、生まれてきた子どもを自分と対等な存在としてリスペクトすること。信頼とは、子どもを自分とは別の人格を持つ人間として認め、親の期待通りに育たなくても、子どもの都合で発達していくものと捉えること。そして共感とは、「子どもの目で見て」「子どもの耳で聞き」「子どもの心で感じる」ことです。
上下関係ではなく、横の関係。つまり、子どもを対等な存在として接するのが叱らない子育てのベース。わかりやすく言うと、友人にしないような言動は子どもにもしないということです。
叱らない子育ては放任とは違う!親は子どもの支援者になろう
「尊敬」「信頼」「共感」の気持ちを子どもに持ち、対等な存在として接する「叱らない子育て」。とはいえ、「物事の原理・原則を教える」「基本動作を教える」というトレーニング(しつけ)は必要だと岩井さんは話します。
「例えば箸の持ち方や、トイレの使い方など、生活していく上で覚えるべきところは教えてあげなければなりません。ただそれも、もし失敗をしても『こうすればうまくできるよね』などと教えてあげればいいだけ。叱らなくてもできることです。」
また、大怪我をするほどではないということなら、子どものしていることに口を挟まず、体験させてみるというのも「叱らない子育て」の大切な要素の一つ。
「アドラー心理学の子育てでは、体験からの学びを重視します。ですから子どもが何か失敗した時は『こうなっちゃったね。次はどうすればうまくいくかな?』などと声をかけ、体験が学びにつながるよう援助する。親は子どもの支援者になるわけです。ここが放任との大きな違いです。」
放任とは関わらないこと。一方で叱らない子育ては、「関わらない」のではなく、「支援者になるように関わる」のがポイントです。
「放っておくと危ないことなど、教えてあげなければわからないことはたくさんあります。そこで『何もしなくても子どもは勝手に育つ』と、しつけを放棄するのは『叱らない子育て』ではない。ただの無責任な放任主義ですよ。」
「叱る」「叱らない」を超えた勇気づける子育て

子どもの支援者になるよう関わる「叱らない子育て」。でも、「『叱らない』という言葉にあまりとらわれてほしくない」と岩井さんは言います。
「叱ることをやめなければいけない、と考えると、うっかり叱ってしまった時に自分を責めてしまいます。だから私は、叱る・叱らないを超えた『勇気づける子育て』を推奨しています。勇気づける子育ては、子どもを伸ばす子育て法でもあるんですよ。」
岩井さんの考える「勇気づける子育て」とは、子どもを認め、目標を持って子育てをすること。
「アドラー心理学では、子育ての目標が2つあります。それは『子どもに勇気を与えること』『子どもに“共同体感覚”を持たせること』。共同体感覚とは、社会の一員として周囲の人たちを信頼でき、自分に貢献感を持つことです。」
そこで岩井さんに、勇気づける子育ての具体的な例を教えてもらいました。
褒めるのではなく、貢献する喜びを教える
「例えば子どもがテーブルを拭くなど、ママのお手伝いをしてくれたときに、『手伝ってくれて、ママうれしいな。テーブルがとてもキレイになった!』と、うれしい気持ちを表現し、感謝を示す。そうすることで『役に立ったんだ』と感じ、子どもは貢献する喜びを知っていきます。」
ここで注意したいのが、「勇気づけ」は「褒める」とは違うということ。
「先ほどのお手伝いの例で『えらいね!すごいね!』と褒めるのは、勇気づけにはなりません。人は褒められると、もっと褒めてほしいと思うもの。すると褒められることがご褒美になり、ご褒美がないとお手伝いをしてくれなくなります。」
やみくもに褒めるのではなく、お手伝いをしてくれて助かったこと、感謝の気持ちを伝えることが勇気づけになり、子どもに「貢献する喜び」が育っていくのだとか。
「貢献する喜びを知っている子どもは、大きくなってからも、誰かの役に立つことを自然と考え行動できるようになります。貢献する喜びを知ることは、社会性の構築につながるのです。」
子どもを、自分とは別の人格を持った一人の人間としてリスペクトし、子どもの目線で考えることを意識すれば、自然とこうした子育てができるようになると岩井さん。「叱らない」だけではなく「勇気づけ」を心がけて、子どもをのびのびと育ててあげたいですね。