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乳歯にも必要?子どもの歯の矯正治療、いつから始めても同じ?

掲載日: 2016年12月6日更新日: 2016年12月6日井上マサキ

子どもの歯の健康に気を配るなかで、歯並びも気になるもの。「悪くなった歯並びは早めに矯正治療をしたほうがいい」、という意見がある一方で、「乳歯列(生え始め)のうちから矯正治療が必要なの?」という疑問も耳にします。そこで、矯正専門の歯科医院を40年以上営む大野粛英(としひで)先生に、子どもの歯の矯正治療についてお話を聞きました。

歯並びの矯正治療は「早いうちがいい」とは一概には言えない

大野先生によると、子どもの歯の矯正治療は「早いうちがいいとは一概に言えない」そう。

「歯並びの悪さには、遺伝による先天的なものと、生活習慣などによる後天的なものがあります。このうち先天的なものは、歯が大きい、アゴが小さいなど親の歯並びや顔の骨格が遺伝する特徴があります。」

「例えば、受け口などの家系の遺伝がある歯並びや『かみ合わせ』では、低年齢で矯正治療を行っても、成長により永久歯が生え揃ったころに再び矯正治療が必要になることもあります。」

「遺伝性が強い場合には、矯正治療ではコントロ−ルできないこともあります。家系の遺伝が原因で歯並びが悪くなっている場合(受け口や出っ歯)には、まず早期治療を行い、その後の経過をみて仕上げの矯正治療をするようになります。」

乳歯の歯並びが永久歯にも影響する

歯並びの悪さが後天的なものの場合、乳歯のうちから矯正治療は必要なのでしょうか?

乳歯の歯並びが悪いと、永久歯もその悪い歯並びのまま生えてきます。また、歯並びの悪さによって食べ物をかんだり飲み込んだりする動作が満足にできず、体の成長に影響が及ぶこともあります。『どうせ生え変わるから』と後回しにせず、歯列やあごなどの成長する乳歯列(4〜6歳)のうちに治したほうがよい歯並びもあります。病気と同じように、早期発見、早期治療が原則でしょう。」

では、子どもの歯並びが先天的なものか、後天的なものか、見分ける方法はあるのでしょうか?

「このケースはこう、と簡単に見分けることは難しいでしょう。素人判断ではわからないので、まずは歯科医(とくに、小児歯科医や矯正歯科医)に相談してもらえればと思います。その意味では、『早いうちに矯正治療をするとよい』ではなく『早いうちに歯科医に矯正治療が必要か相談するとよい』と言えますね。」

歯科検診では見落としが起こることも

3才児検診や学校検診などの歯科検診も、歯並びの悪さに気づくきっかけになります。ただ、大野先生によると「検診で指摘されなかったことを理由に、わるい歯並びを放置していた」というケースがあったそう。

一度に多くの子どもを診る検診では、見落としが起こることもあります。まずは毎日の歯みがきなどで親がちゃんと子どもの歯を見て、気になることがあったら歯科医の意見を聞いてみるのがおすすめです。」

一般的に、乳歯列(4〜6歳)で治した方が良い歯並びの目安は、次のようなものが対象になるのだそうです。

  1. 指しゃぶりによる出っ歯や開咬(かいこう:奥歯をかんでも上下の前歯にすき間がある状態)
  2. 交叉咬合(こうさこうごう:上下の歯列が横にずれて交叉している)
  3. 受け口(乳前歯が6本逆になっている、遺伝性のあるタイプ)

子どもの年齢別、矯正治療のパターン

歯並びの悪さが後天的なものの場合、実際にはどのようにして子どもの歯を治療するのでしょうか。治療時期と方法についてうかがいました。

4歳〜小学校入学前

指しゃぶりなどの生活習慣が原因で、「出っ歯」や「開咬」が起きている場合です。大野先生によると、歯並びに影響を与える「わるい習慣」を改善することで、矯正器具を付けることなく歯並びが元に戻るのだとか。

「まだ乳歯列であれば、成長にともなって歯並びが自然にあるべき姿に戻ってきます。できるだけ早いうちにわるい癖を取り除いてしまうことが大切です。」

歯並びを悪くする生活習慣についてはこちらを!

小学校低学年

乳歯が永久歯に生え変わりはじめ、体の成長と共に歯列やあごも成長を続けています。この時期の矯正治療は「早期治療」と呼ばれ、歯列やあごの成長をコントロールしたり、器具をつけて歯を動かしたりすることで治療を行います。

「例えば『出っ歯』の早期治療の場合、夜間だけ矯正器具(ヘッドギア)をつけて上あごの成長を抑えたり、逆に下あごの成長を促す矯正器具(機能的装置)をつけます。歯を抜いたり動かしたりするのではなく、成長を利用して歯が生えている土台となる、あごの骨を動かすイメージです。このような治療法は、あごの骨がまだ柔らかく、成長している時期ならではの矯正治療になります。」

早期治療(ヘッドギアや機能的装置)は、矯正器具を24時間装着する必要がなく、学校から帰宅後や夜間に矯正器具を装着します。そのため治療期間が短くて済むなどメリットがあります。早期治療は、本格的な矯正治療に比べ費用が抑えられるのも特徴のひとつです。

□小学校高学年〜中学以降

乳歯がすべて永久歯に生え変わる中学生になると、身長が急に伸びるように成長力が強くなり、矯正器具でのコントロールが難しくなります。そのため、症状がシビアーなケースでは歯を抜き、ブレースと呼ばれる器具を装着して治していきます。


子どもの「やる気」を待つことも大切

大野先生によると、歯の矯正治療の成功を左右するのは、ほかならぬ「子ども本人のやる気」なのだとか。

「毎日、矯正器具をつけたり外したり、期間が長期にわたるため、子どものモチベーションを保つことも大切です。治療が成功するかどうか、半分くらいは子どものやる気と家族の協力にかかっていると言えます。」

子どもの歯の矯正治療は両親の希望で行われることがほとんど。矯正器具を身につける本人がやる気にならないと、効果も満足に生まれません。

「もし、本人に矯正治療する気持ちがない場合は、定期的な検診をしながら少しずつ『矯正治療をやる気持ち』を高めていくのもいいと思います。なにごとも無理やり進めるのは禁物です。」

子どもの歯並びが気になったら、早いうちに歯科医に相談すること。矯正治療が必要になったら、きちんと治療について話し合うこと。親も子も納得し、足並みをそろえてよい歯並びに向かっていきましょう。

★この記事のポイント★

  1. 歯の矯正治療は「早いほうがいい」とは一概にいえない
  2. 家系の遺伝が原因の受け口や出っ歯には、早期治療を
  3. 早期治療は、本格的な矯正治療に比べて費用が抑えられるのも特徴
  4. 治療の成功には、子どものやる気と家族の協力も大きな要因

お話を聞いたのは…

  • 大野粛英さん(大野矯正クリニック理事)

    日本歯科大学大学院卒業後、1970年、横浜で大野矯正クリニック開業。日本歯科大学客員教授、昭和大学歯学部客員教授。子どもの指しゃぶりや舌癖を治す治療を行う、全国でも数少ない矯正歯科医院。子どもの歯科治療に広く携わっている。著書に、絵本「ゆびしゃぶりやめられるかな」「指しゃぶり-基礎から指導の実際-」「MFT入門 初歩から学ぶ口腔筋機能療法」(ともに共著/わかば出版)など多数。

  • 大野矯正クリニック

ライター紹介

井上マサキ

1975年生まれ。小学生の娘と保育園の息子を持つ二児の父です。SE時代に会社で男性初の育児休暇を取得。フリーライターに転身後も家事育児を続け「ほぼ主夫」状態に。IT、ネット、スマホが得意分野。路線図が好きで、額縁に入れて飾るほど。

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