寝ていた子どもが急に起きたと思ったら、歩き回ったり呟いたりして、再びバタン…。こんなことがよく起こるなら、それは「夢遊病」かもしれません。意外に多いといわれる子どもの睡眠トラブル・夢遊病、いったいどのようなものなのでしょうか? 専門家にうかがいました。
深い眠りのなかで起こる夢遊病
「夢遊病は、子どもに多い睡眠障害の一つです。眠りながら自覚なしに動き回ることが特徴で、別名『睡眠時遊行症』とも呼ばれています」
こう説明するのは、内科と睡眠障害を中心に診療する「阪野クリニック」の院長・阪野勝久さん。
「夢遊病があらわれやすいのは、就寝して1〜2時間ほど経過した頃です。ベッドやふとんから起き出し、歩き回ったり、ときにはゆっくり話したりしますが、目はうつろです。その状態は数分続きますが、やがて自分で寝ていたところに戻り、再び眠ってしまうことが多いです」
「夢遊病」と「寝ぼけ」とは何が違う?
寝ぼけているのとはどう違うのでしょうか。
「起き抜けでぼんやりしている寝ぼけ(half asleep)に対し、夢遊病は本人が深く眠っているときに起こります。また、寝ぼけて何か変な行動をとったとしても、完全に目覚めれば言動は普通に戻り、『あ、いま寝ぼけていたな』と本人も気づきます。ですが、夢遊病による行動は、本人はまったく自覚しないのが普通です」
目覚めかけの状態にある寝ぼけと違い、あくまでも眠ったまま動いているのが夢遊病なのですね。なお、「夢を見ながら動いていると誤解されがちですが、夢遊病のエピソードは夢の内容と関連がありません」とのこと。
「眠りの状態にはレム睡眠とノンレム睡眠があります。夢遊病が起こるのは深い段階のノンレム睡眠のときですが、このときは脳も眠るといわれており、夢を見ることはほとんどありません」
もし夢を見ながら行動しているとしたら、「それは夢遊病とは別の睡眠障害」なのだそうです。「夢遊病かな?」と思ったら、まずは動き回ったことを覚えているか、夢を見ていたかなどを聞いてみると、判断材料になるかもしれません。
なぜ起こるの? 夢遊病の原因
では、夢遊病の原因は何でしょうか。
「原因ははっきりしていません。ただ、夢遊病の子どものご両親も夢遊病を経験していることが多いので、遺伝が関係するのではといわれています。また、発症そのものの原因ではありませんが、睡眠不足や精神的なストレスがあったり、就寝・起床時間がバラバラの毎日を送っていたりすると、症状が出やすくなるようです」
阪野さんの実感としても、「新学期が始まって2〜3カ月後にクリニックを受診するお子さんが多い」とか。
「環境の変化がストレスになるのかもしれません。なお、旅行などで眠る場所が変わったときに症状が出やすいということも、以前から言われています」
夢遊病とストレスの関係は大いにありそうですね。
まずは生活改善! 夜中の歩き回りが見られたら…
「子どもの夢遊病のほとんどは、治療の必要はありません。成長して思春期に入る頃には自然に治るのが普通です」と少し安心するお話も聞けましたが、何かしら症状を改善するための対策を取りたいと思うのが親心。夢遊病の子のために、家庭でできるケアなどはあるでしょうか?
「まずは、子どもの睡眠を見直すといいでしょう。子どもがいつ眠りについて、いつ起きたか、『睡眠日誌』をつけると有用です。そのなかで、もし睡眠不足などの問題が浮かび上がってきたら、ひとまずそこを改善するよう心がけてみてください」
また、身体的・精神的に負担がかかっていないか、確認することも大事だとか。
「なぜなら、すでにお話ししたとおり、夢遊病の発生はストレスと関連することが多いからです。学校生活や友達との関係で何か問題がないか、夜遅くまでの塾や習いごとが本人の重荷になっていないかなどを確認しましょう」
そのほか、夕方以降はカフェインをとらせないようにすることも大切だそう。
「カフェインに目を覚ます作用があるのはご存じのとおりです。良い眠りを確保するためにも、なるべく麦茶や水で水分補給することをおすすめします」
生活リズムから飲み物、食べ物まで。子どもの生活全般の見直しが、夢遊病の改善につながる可能性があるのですね。
こんなときは医師に相談を
考えられるかぎりの対策をしても、夢遊病が頻繁に起こる、しかも日中、本人が眠そうにしている場合は、専門医に相談をした方がいいとのことです。
「歩き回る回数が多かったり、範囲が広かったりする場合は、睡眠不足で日々の活動に影響が出るだけでなく、行動中に転ぶなどしてケガをする危険もあります。このようなときは、治療してきちんと眠れるようにしてあげる方が、子どもにとって良いでしょう」
とはいえ、阪野さんの経験では「薬による治療を行う割合は10%以下」だとか。ほとんどの場合、睡眠時間をしっかり確保したり、生活リズムを整えたりすることで対応できるそう。
夢遊病は子どもの疲れやストレスを示すサインなのかもしれません。ちゃんと受け止めて、適切な対応をしてあげたいですね。