夜驚症(やきょうしょう)は子どもによく見られる睡眠障害で、夜中に突然目を覚ましたようになり、泣いたり叫んだりするというもの。「夜泣き」と似ていますが、違いは何なのでしょうか? その原因と親ができるサポート法を、日本睡眠学会認定医の岩永耕一先生に伺いました。
「夜驚症」って?夜泣きと何が違うの?
「夜泣きとは浅い睡眠の途中で乳児が泣き出すこと。一方、夜驚症は深い睡眠の途中で3歳〜7歳くらいの幼児が泣き叫ぶ症状です。夜泣きと違い、夜驚症の子どもは脳の一部だけが起きている状態で、ほかは眠っている状態。だから声をかけても反応はしませんし、翌朝聞いても本人は泣き叫んでいたことを覚えていないケースがほとんどです」と話す岩永先生。
症状は約5分間ほどだといいますが、声をかけても無反応となると、ママやパパはとても心配になります。夜驚症の最中、子どもはどんな状態になっているのでしょうか?
「泣き叫んでいる最中、子どもの脳内では『大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)』という部分が活発に動いているといわれています。ここは感情・情緒をつかさどる部分。つまり、睡眠途中で『いやだ、こわい』という感情が爆発している状態ですね。」
そんな「夜驚症」ですが、原因はどんなところにあるのでしょうか?
夜驚症の原因は十人十色! 〜7歳の女の子の例〜
これまでに岩永先生が診察したある7歳の女の子の症例では、ママが妊娠後期に入った頃に症状が始まり、赤ちゃんが生まれたら夜驚症がピタッと止まったそう。
「妊娠していつもとは違うママの雰囲気や、家庭内の様子に不安になっていたのだと思われます。」
この症例の女の子のように、子どもを取り巻く環境の変化が夜驚症の原因となるケースも多いようですが、「心の状態と密接に関わると推測される夜驚症は、症例の数、子どもの数だけ『原因』があるため、症状を治める方法を明確にはできない」そうです。
とはいえ、親としてはやはりどうにかしてあげたいもの。では、ママやパパにできるサポート方法はあるのでしょうか?
子どもと一緒に睡眠習慣を作る
「まず大切なのは症状が起きても親が慌てないこと。夜驚症は子どもの成長と共に解決するものです。親はどっしり構えて、子どもが泣き叫びだしても落ち着いた気持ちで抱きしめてあげてください。」
しかし、ぐっすり寝ていた子どもが突然泣き叫びだしたら、親もパニックになってしまいそう…。そこで大切なのが、子どもの睡眠サイクルやぐっすり眠れる方法を知ることだと岩永先生は話します。
1.子どもの睡眠は3時間サイクル
「子どもが寝入って深い睡眠に到達するまでにかかる時間は約3時間。つまり、寝てから3時間後に症状が起きやすいということです。それを心得ておけば、ある程度予測ができる。予測ができれば慌てることもありません。」
子どもが寝てから3時間後までに残りの家事や翌日の準備を済ませておけば、親も落ち着いた気持ちで対応ができるかもしれません。また、決まった時間に布団に入り決まった時間に寝る「睡眠習慣の確立」も、子どもの身体サイクルを整えるためだけでなく、夜驚症対策にも効果があるそうです。
2.就寝までに睡眠ホルモンを活性化させる
「人の身体にはメラトニンという睡眠ホルモンがあります。睡眠を促すこのホルモンはPCやスマホのモニター、テレビの画面の明るさによって分泌が妨げられます。寝る直前までスマホやテレビの画面を見せていると、メラトニンの充分な分泌は難しくなります。」
大好きなアニメなどの動画を見ながら「これが終わったら寝る時間!」と、生活時間を区切る家庭も多そうですが、テレビやスマホのライトが子どもの睡眠に影響を与える可能性もあるので、控えたほうが良さそうです。
3.「入眠儀式」を習慣化する
「就寝までの段取りを“儀式”にして、段階を経て眠りに入る習慣化が大切です。片付けよう、顔を洗おう、パジャマに着替えよう、ベッドに入ろう、ママと絵本を読もう、電気を消そう…そういった毎日決まった段取りを経て寝るという流れを、子どもの心身に根付かせるのです。」
気持ちや身体を睡眠に向けて準備する「入眠儀式」。「着替えてきなさい、顔を洗いなさい」と指示するのではなく、親が一緒に顔を洗う、着替えるといった行動が、就寝までの過程をさらにスムーズにしてくれるそうです。
夜驚症は、子どもの健康に悪い影響を与えないとされ、積極的に治療せず自然消失を待つことも多い症状です。原因は正確には判明していないとはいえ、ママやパパが必要以上に不安にならず、冷静に症状と向き合うことが、子どもの安心につながるはず。睡眠習慣を確立して、親も慌てず落ち着いて対応できるといいですね!