夏は海や川など、水辺に行く機会が増える季節。それだけに水難事故が多発する時期でもあり、毎年悲しいニュースが後を絶ちません。そこで、安全に水辺のレジャーを楽しむために覚えておきたいポイントを水難学会会長の斎藤秀俊さんに教えていただきました。

水難事故の約半数は死亡事故に… 河川は特に注意
警視庁が発表している「平成28年における水難の概況」によると、平成28年度の水難者は1,742人、そのうち死者・行方不明者は816人と、約半数が死亡事故に繋がっています。
また、中学生以下の子どもの死者・行方不明者は年間で31人ですが、6割以上にあたる19人が夏(7・8月)の河川で起きています。
川や海に行くときの注意点は?
この結果を受け、水難事故を予防するためにはどんな点に気をつけたらよいのでしょうか?
「どんなに泳ぎが上手い人でも、何かのトラブルに巻き込まれて水難事故に至るケースは珍しくありません。また、泳ぐつもりはないので、水着ではなく普段着のまま水に入り、深みにはまって溺れてしまったケースも非常に多いのが現状です」
川や海などの水辺に遊びに行く際は、「足の届かない場所には行かないことが大前提」と斎藤さん。このことを念頭に置いたうえで、次の注意点を教えてもらいました。
水難事故は2種類ある

「水難事故の原因には2つあります。一つ目が『落水(らくすい)』、つまり水に落ちてしまうケースです。川であれば岩場で遊んでいて足を滑らせたり、海の場合は釣りをしていて、誤って防波堤から落ちてしまったりする事例が多いです」
「二つ目は『沈水(ちんすい)』といって、自分から深いところへ進んでいってしまう、また気づかないうちに流されてしまったために、溺れてしまうケースです」
沈水はあまり聞きなれない言葉ですが、思い当たる人も多いのではないでしょうか。自分から深いところへ進んでいってしまうケースは、特に川で起こることが多いそうです。
「川は急に深くなる場所が多いので、まだ大丈夫だろうと思って進んでいると、一気に足が届かない場所に入ってしまうことが多々あります」
一方、気づかないうちに流されてしまったケースの多くは海で起こっているようです。
「『離岸流(りがんりゅう)』といって、海岸に打ち寄せた波が沖に戻ろうとする際に発生する強い流れに巻き込まれ、どんどん沖に流されてしまうことがあるので、注意が必要です」
海でも川でも、常に足が届く深さかどうか、また川の流れや波の大きさなどにも気をつける必要があるのですね。
「それから、海の場合はクラゲにも注意してください。毒性が強いクラゲに刺されると、呼吸困難に陥ったり足腰が立たなくなったりすることもあります。これからの時期はクラゲが出てくる時期ですので、意識しておくといいでしょう」
水難事故に遭遇したときの合言葉は「ういてまて」!

では、もしも服を着たまま溺れてしまった場合、どのようにしたらいいのでしょうか。
「キーワードは『ういてまて』。これがすべてです。『ういてまて』とは、服を着た状態で溺れそうになったときに、背浮きという状態で救助を待つことをいいます」
「浮いて待て」ということですね。東日本大震災のとき、津波の被害を受けた子どもの命を救った着泳法だと聞いたことがあります。具体的なやり方を教えてください。
「服や靴は身に付けたまま、両手両足を広げて大の字になって仰向けで浮かびます。人間は息を深く吸って肺に溜めている状態であれば、必ず浮きます。呼吸をするときは素早く行い、常に肺に空気を溜めることを意識してください。コツは、顎を少し上げること。腰が沈みにくい体制がとれます」
その状態で、救助が来るのを待つのでしょうか。
「そうです。溺れそうになったとき、つい両手を上にして助けを呼びたくなりますが、その状態では、すぐに体力を消耗してしまいます。力を抜いて自然に体が浮く状態が保てれば、体力も温存できます。溺れそうになったら『ういてまて』、このキーワードを必ず覚えておいてください」
溺れている人を発見したら…絶対に助けに行かない!?
では、もしも溺れている人を発見したときは、どのように行動したらいいでしょうか?
「絶対にお伝えしたいのは、助けようと自分も飛び込まないこと。これが非常に重要です。もしも溺れている人を発見したら、この3つの順番で行動してください」
溺れている人を見つけたら…
(1)119番通報
(2)「ういてまて!」と溺れている人に指示する
(3)ペットボトルやリュックなど、浮具になるものを投げ入れる
119番通報をするとき、海や川などでは自分がどこにいるかわからないという場合もあると思うのですが、現在地がわからなくても大丈夫でしょうか。
「最近は、携帯電話のGPS信号が送られるので、救助要請の電話をかけた時点で大体の場所は特定できます。もしもお子さんが発見者の場合も、躊ちょなく119番通報をしてください。119番を押して『助けて』と言うだけで、救助に向かうことができます」
「その後、『ういてまて』の声がけをし、空のペットボトルがある場合は浮具になりますので、溺れている人の近くに投げ入れてあげます。もしも周りに釣りをしている人がいたら、ペットボトルに釣り竿の先端を入れて蓋をすると、20mくらい先まで投げ入れることができます。中身入りのリュックサックも浮具替わりになります。覚えておきましょう」
子どもよりも大人の被害者が多いので要注意

最後に、子どもを連れて水辺へ遊びに行く際、これだけは守るべき点を教えてください。
「泳ぐことを目的で川や海に入る場合は、ライフジャケットの着用が一番安全です。それから、水難事故の生還率を年齢別に見てみると、高校生以上は50%を切っているのに対して、中学生以下は80%と高くなっています。これは、学校などで『ういてまて」をはじめとする救助法を習っていることが多く、子どもたちは緊急時にしっかり対応できているためだと考えられます」
実は大人の方が練習をしていないので危ないのですね!
「お子さんが目の前で流されてしまったとき、助けようと飛び込んで追いかけた大人が亡くなるケースが非常に多いです。水難事故に遭遇したら、とにかくすぐに救助を呼ぶこと、これに尽きます。そして、普段から親子で『ういてまて』を練習しておくといいですね」
合言葉は「ういてまて」。いざというときに対応できるよう親子で意識して、夏のお出かけを楽しみましょう!