学校検診では、身長や体重のほか、さまざまなチェックの中で、時に思いがけない症状を指摘されることがあります。背骨のゆがみが生じる「脊柱側弯症(せきちゅうそくわんしょう)」も、学校検診で見つかりやすい病気のひとつなのだそう。
そこで、脊柱側弯症が具体的にどんな病気なのか、症状や治療法について、日々側弯症の治療に携わっている藤原憲太先生に聞きました。
脊柱側弯症とは?

あまり聞き慣れませんが、脊柱側弯症とはどのような病気なのでしょうか?
「どんな病気かを理解するには、病名の漢字をよく見てみるとわかりやすいでしょう。背骨である『脊柱』が『側』方に『弯曲』して『回旋』する症状をきたすものです」
「正常な脊柱は前から見るとまっすぐです。ですが、脊柱側弯症では左右へのカーブ(弯曲)が生じると同時に、ねじれる(回旋)ような変形が生じてしまうのです」
実際に脊柱側弯症は、どのような原因で起こるのでしょうか?
「ほとんどは特別な原因が見当たらない『特発性側弯症』です。ですが、明らかな病気や生まれつきの骨の異常などがあって、結果として側弯症になる場合もあるのです」
原因がはっきりしない『特発性側弯症』が多いのですね。特発性側弯症の患者さんはどんな方に多いのでしょうか。
「乳幼児期、学童期、思春期など、どのタイミングで発症したかによって異なりますが、最も多いのは思春期です。この『思春期特発性側弯症』の場合は、女の子に見つかることが圧倒的に多いです。頻度としては、男の子ひとりに対して女の子は5〜8人といったところ。全体の割合としては、男女ひっくるめて児童が100人いたら、そのうち1、2人くらいです」
単純に考えても、子どもの1〜2%くらいが該当するということで、決して稀な病気ではないようです。
脊柱側弯症の治療方法は?

脊柱側弯症が自然に治ることはあるのでしょうか。
「残念ながら、自然に治ることはありません。見つかったときの年齢や背骨の曲がり具合にもよりますが、側弯症は進行することがあります」
では、脊柱側弯症の治療はどのように行うのでしょうか?
「有効と言われる治療法は、今のところ2つあります」
「ひとつはコルセットのような装具をつけてゆがみを矯正して、進行を抑える『保存療法』。もうひとつは、スクリューと金属製の棒などを使って背骨を矯正して、まっすぐに近い状態にする『手術療法』です」
治療法はどうやって選ぶのでしょうか?
「患者さんの年齢や、背骨の曲がり方の大きさに応じて、治療法を選択します。曲がり方の大きさを判定する指標となるのは、『コブ角』という角度です」
「背骨はたくさんの椎骨(ついこつ:脊柱を構成する骨)が連なってできていて、その弯曲部分の上下(カーブの始まりと終わり)には、それぞれひとつずつ、特に大きく傾いている椎骨があります。そのふたつの椎骨の傾きの角度(=コブ角)を計測します」
つまり、もし側弯症がないとしたら、正面から見た背骨はまっすぐなので、それを構成する椎骨は平行。すなわちコブ角は0度となります。これが側弯症になると、背骨の弯曲が強くなるほど、カーブの終始の椎骨が作る角度が大きくなるということですね。
「そうですね。治療法は、コブ角を目安に、だいたい次のように選択されます」
- コブ角10〜25度:経過観察
- コブ角25〜40度:主に装具療法
- コブ角40〜50度以上:手術療法を検討
「ただ、これは絶対ではありません。なぜなら、側弯症は成長期にあたる10〜16歳くらいの間に進行することが多く、逆に成長が一段落すると進行しにくくなるケースが多いからです。たとえば、コブ角20度の女性がいたとしても、16歳だったら経過観察かもしれませんし、10歳だったら装具療法を検討するかもしれません」
その後の見通しや状況を見ながら、患者それぞれに合わせた治療が必要なのですね。
早期発見と治療が大切!

実際に脊柱側弯症の疑いがあった場合、どうすればいいでしょうか。
「とりあえず整形外科を受診するのが順当ですが、もっと専門的なことを知りたければ、最初から側弯症治療に携わる医師を探す方法もあります。日本側弯症学会の公式サイトには、側彎症学会に所属している医療機関の一覧があります。ぜひ探してみてください」
「また、接骨院やカイロプラクティックに行かれる親御さんもいらっしゃいますが、整形外科医を受診して、エックス線検査などで、先ほどのコブ角など、お子さんの側弯症の現状をしっかりと把握することをお勧めします」
「成長に伴う側弯症の進行などを客観的に画像で判断することが、適切な治療につながると考えています」
もっとも多いのは特発性側弯症ということでしたが、発症を予防する方法はあるのでしょうか?
「予防方法はありませんが、早期発見は可能です」
「学校では毎年、運動器検診が行われるようになり、側弯症の発見も多くなったといわれます。その理由は、検診そのものより、運動器検診の前に行われる『運動器検診保健調査票』の存在が大きいと思います」
「『運動器検診保健調査票』とは、検診前の問診票のようなものです。身体の偏りがないか、片足立ちができるかなど、子どもの身体の状態について保護者の目からチェックしていただき、問題があったら記入します」
「この調査票に側弯症に関する質問が入っているので、もし親御さんがチェックしていたら、学校でもより詳細に確認することになります」
親の目で行うチェックがとても大切なのですね! なお、チェック表にも入っている、家庭で脊柱側弯症を確認するときのポイントは次のようなものです。
<脊柱側弯症のチェックポイント>
「家庭では、以下の3点についてよく見てあげましょう」
- 両肩や肩甲骨の高さ・位置に差がないか
- 左右の脇からウエストの曲がり方に差がないか
- 子どもが前屈したとき、背中の左右の高さに差がないか
「特発性の場合、軽いうちにきちんと装具療法を行えば、手術せず進行を抑えることが可能です」
脊柱側弯症は聞き慣れない病名ですが、決して少なくない病気。「何か姿勢が変だな」と思ったら、ぜひためらわず、お近くの整形外科医に診てもらうことをおすすめします。藤原先生によると、「側弯症を診ている医師は、子どもが受診するからこそ、温かい診療を心がけている」そうですよ。