小学生の「ソフトボール投げ」の成績が、男女ともに過去最低。文部科学省が行っている平成27年度の全国体力テストで、そんな結果が出ました。子どもの体力は年々低下しているもよう。一体どうしてなのでしょうか? 日本レクリエーション協会で子どもの体力向上に携わる植田尚史さんにお話を聞きました。
「ボール投げ」の記録が過去最低に!

小学校で毎年実施されている全国体力テスト。7年前の平成20年度から、全員を対象にした調査が導入されましたが、最新の平成27年度のソフトボール投げの記録は、男子で22.51m、女子で13.76mと過去最低となりました。7年前と比べて、なんと男子で約3m、女子で1mも下がっています。
「とはいえ、今年度の記録が大幅に低かったわけではありません。年々少しずつ低下し、またしても過去最低を更新した、というのが本当のところです」と植田さんは話します。
それにしても、どうしてボール投げの記録は、下がり続けているのでしょうか。
「昔と比べると、子どもたちがボールを投げる機会が少なくなりました。野球からサッカーへと人気が移ったことが影響していますね。」
こうしたブームの影響に加えて、安全面や近隣住居への配慮から、ボール遊びを禁止する公園が増えていること、父親とキャッチボールする機会が減ったことなども一因かもしれません。
でも、腕の力が弱まったからじゃない!
体力テストの内容を決めている文部科学省によると、ソフトボール投げは、運動を調整する能力や、すばやく動き出す能力、力強さ、タイミングの良さを評価する種目です。
「ボールを投げるには、腕の力だけではなく、全身の運動機能が必要となります。その記録が低いということは、上手な身のこなし方ができず、全身の力をボールに伝えられていないということなのです。」
それでは、なぜ身のこなしが上手にできない子どもが多いのでしょうか?
「運動しない子どもが増えたことが一因です。世の中が便利になった結果、日常生活での運動量が低下しました。さらに、空き地など、子どもが安全に駆け回って遊べる場所が減ったことや、少子化で遊ぶ仲間が減り、塾や習い事に多忙のため、放課後に集まって遊ぶことも少なくなったことも理由として挙げられます。」
スポーツ教室などで水泳といった特定の種目しかしない子どもが増えたことも関係あるのだとか。植田さんいわく、小学生の間は、いろんな運動や外遊びに親しんだほうが身のこなしを学べるのだそう。
こうした要因が絡み合って、子どもたちの身体能力の低下、そしてボール投げの記録低下につながっているようです。
地域によって体力テストの記録に差はあるの?
ボール投げの記録を都道府県別にみると、男子は沖縄県が24.70mでトップ、女子は秋田県が15.26mでトップでした。
また、どの種目でも上位に入っていたのが福井県。ボール投げと同じく、すばやく動き出す能力を評価する「立ち幅跳び」は、男女ともに福井県が1位で、体力合計点では7年前からずっと1位をキープしています。
なぜ福井県は、こんなにも成績がいいのでしょう。
「福井県では、昔から地域と学校、家庭が連携し、運動の普及に取り組んでいます。スポーツ活動に参加している児童も多いそうです。また、都会に比べ地方に住む子どものほうが運動遊びの環境に恵まれているので、働きかけの成果が反映されやすい部分もあります。」
交通の便が良い地域に住んでいる場合は、どうしても運動不足になりがち。日頃から体を動かす習慣づけが大切ですね。
基礎体力をつけよう! 親ができるサポートは?

ボール投げに限らず、子どもの頃に運動を通して基礎体力をつけることは、身体面・精神面の成長を促すなど、さまざまなメリットがあります。
病気に負けない丈夫な体づくりをはじめ、スポーツに親しむ能力を育むことにも役立つと、植田さんは言います。
「運動や遊びは、状況に応じて工夫したり、考えたりする必要があるので、知性やコミュニケーション能力が養われますよ。」
一度運動嫌いになってしまうと、大人になっても運動しない傾向があるのだそう。だからこそ、小さな頃にいろんな運動をしておくことが、生涯にわたって体を整える上で大切だと、植田さんは強調します。
では、子どもに楽しく運動してもらうために、親はどのようなサポートをすればよいのでしょうか?
「まずは、子どもたちが外遊びをする時間や場所、一緒に遊ぶ仲間を確保することが大事ですね。放課後や休日などを利用し、公園に子どもたちを集め、外遊びするよう促してみては? また、子どもたちがやりたくなるような面白い遊びを教えてあげるのも一つの方法です。もし、うまくできない子どもがいたら、親がサポートしてあげられればなお良いですね。」
子どもの運動遊びは、「子どもの体力向上ホームページ」内の「元気アップ・プログラム」や「集団遊びのポスター」に掲載されています。年齢や人数などに合わせて、取り組んでみましょう。