学校のプール横に設置されている洗眼器。以前は、プールのあとは当たり前のように洗眼器で目を洗っていましたが、今ではほとんどの子どもが洗わないそうです。一体なぜなのでしょうか。理由や背景について、日本眼科医会理事の宮浦徹先生に聞いてみました。
水道水での洗眼はダメ!? どうして目を洗わなくなった?

現在、多くの学校やスイミングスクールでは、「プールのあとは水道水で目を洗うように」とは指導していません。パパママ世代には驚きの事実かと思いますが、目を洗うことにデメリットがあるのでしょうか?
「研究によると、現実的ではありませんが、目を水道水で50秒以上洗った場合、『ムチン』と呼ばれる目の粘液が洗い流され、角膜の防御機能が低下することがわかりました。洗い過ぎると、細菌やウイルスに感染しやすくなる恐れがあることから、目を洗う積極的な指導は行われなくなりました」
とはいえ、必ずしも目を洗ってはいけないというわけではないといいます。
「50秒間も目を洗い続ける子どもはいないと思いますので、目を洗うこと自体はよくないわけではありません。涙には洗浄効果があるので、水道水で目を洗わなくても問題ない、ということです」
パパママ世代が子どものころに行っていたような、数秒間ほど目を洗う程度であれば、角膜への影響はないそうです。「目を洗う=危険」ではないのですね。
反対に、目を洗ったほうがいい場合もあるそうです。
「プールのあとに『目が気持ち悪い』『目がくしゃくしゃする』など違和感がある場合は塩素濃度の高いプール水の影響と思われるので、水道水で洗い流したほうがいいでしょう」
目に何か異変を感じたときに、とっさに洗い流す習慣が身に付き、プール以外のときにも役立ちます。
そもそも昔はどうして目を洗っていたの?

では、なぜ以前は洗眼器で目を洗うように指導されていたのでしょうか。
「昔は今と違って、学校のプールの水は十分に塩素消毒がされていませんでしたし、ゴーグルは高価なこともあり、学校での使用は禁止されていましたので、水道水で洗眼する必要がありました」
今では学校薬剤師が塩素濃度を管理し、ウイルスを不活化させることで、流行性角結膜炎(はやり目)や咽頭結膜熱(プール熱)、出血性結膜炎(アポロ病)などの感染症が起こらないよう徹底されています。
「ただし、流行性角結膜炎は感染力が強く、プールだけでなく、目をこすった手でドアノブや電車のつり革など、いろんなものを触ることで広がっていきます。一昨年の2015年あたりから流行性角結膜炎が増えているので、充血、目ヤニ、流涙などの異常があればすぐに眼科を受診させましょう」
ちなみに、流行性角結膜炎や咽頭結膜熱、出血性結膜炎にかかった場合は、校内感染予防のため学校は出席停止となります。
目の健康を守りながら、プールを楽しむためには?

プールのとき、子どもたちの目を傷めないようにするためにはどうすればいいのでしょうか。
「塩素の影響を防ぐため、ゴーグルの着用が望ましいです。小学校低学年では、水難訓練としてゴーグルを付けずにプールに潜る授業がありますが、その場合は終わったあとに水道水で目を洗うのをおすすめします」
そのほか、ゴーグルを付けずに長時間泳いだときや、プールの水が目に入ったとき、また雑菌の多い池や川などで泳いだときも水道水で洗ったほうがいいそうです。
「プール活動のあと、充血しやすい場合は、涙の成分に近い目薬を使うようにしてください。調剤薬局などで買えます」
このとき、市販の目薬で「血管収縮剤」の成分が入っているものは要注意なのだそう。
「血管収縮剤は一時的に充血を取る効果がありますが、使い続けると充血が慢性化してしまう恐れがあります。また、結膜炎の場合、充血することで炎症を治そうとしているので、血管収縮剤が入った目薬を使うと治りにくくなります。充血が気になる場合は、眼科に連れて行ってください」
市販の目薬では、主に以下のような名称の血管収縮剤が記載されています。
【血管収縮剤チェックリスト】
- 塩酸ナファゾリン
- 塩酸テトラヒドロゾリン
- 塩酸フェニレフリン
パパママ世代のときとは違うプール後の洗眼指導。学校の衛生環境は向上していますが、場合によっては目を洗うほうが良いときもあります。子どもの目に異変がないか、注意してあげましょう。