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段ボール箱=ママのお腹の中?子どもの狭い所好きの心理とは

掲載日: 2016年5月6日更新日: 2017年5月16日岡本有紗

ダンボールの中、部屋の隅っこ、ソファの後ろ…気が付くと、「なぜこんなところに?」という狭い場所に入り込んでいる子どもたち。これには、どんな理由があるのでしょうか? 子どもの発達の専門家・寺見陽子さんにお話をうかがいました。

子どもはどうして狭い場所を好んで遊ぶの?

「確かに子どもたちは、大きな箱や、何かで区切られた空間に入るのが好きですね。その理由としては、いろいろなことが考えられます」と寺見さん。

「まずひとつは、胎内回帰感。狭く暗く、手を伸ばすとすぐ壁がある場所は、お腹の中と似ていますよね。そこに身体を押し込めると、子どもにとってのふるさとのような場所であるお母さんの胎内に戻れた気がして、安心感が得られるのかもしれません。」

同時に、安心や安らぎとは逆方向の心理もありそうだと寺見さんは指摘します。

「子どもは狭い場所で『ワクワク感』や『ときめき』を感じて、それを楽しんでいる部分もあると思います。」

狭い場所の何が、子どものワクワクを刺激するのでしょうか?

「一般に狭い場所は薄暗く、いつもと違う見え方や雰囲気が体感できますよね。子どもたちは、そうした違いにワクワクしたり、見えない世界をのぞきこむ感覚にときめいたりするのでしょう。」

言ってみれば、狭い場所は子どもにとって「非日常」を体感できる場所。子どもたちはさまざまな狭い場所を見つけてはもぐり込み、あるときは胎内回帰による安心感を、あるときは冒険気分を楽しんでいるのですね。


小さなダンボールの中で学ぶ、自分と世界の位置関係!

狭い場所の中でも、特に子どもたちが面白がるのは「箱の中」。「出たり入ったり、中に隠れて外を眺めたり、お風呂ごっこや乗り物ごっこをしたり。ダンボールがあったら勝手にいつまでも遊んでいますよね」と寺見さんは笑います。

寺見さんによれば、子どもの心は、こうした箱を使った遊びを通して発達していくといいます。狭いダンボールの中で遊ぶことで、子どもはどんなことを学ぶのでしょうか?

「ダンボールの大きさはいろいろ。サイズによって入れたり入れなかったりしますし、入れたとしても、箱によって窮屈さが違ったりしますよね。子どもはそこから、まず自分自身の大きさ、自分の身体そのものを自覚します。」

「さらに、子どもは箱の『中と外』の違いから、世界が立体的であることを体感します。その結果、奥行きの理解が深まるのです。」

奥行きの理解とは、物を立体として認識すること。これにより、子どもの空間把握能力が向上しますが、ダンボールなどの狭い空間で遊ぶことで学べることはそれだけではないと寺見さん。「奥行きの理解は、実は自分という存在に気づく最初のきっかけです」と話します。

「自分が見る世界が、自分のいる位置や姿勢によって変わる。逆に言えば、世界のほうから見た自分も、条件の違いによっていろいろと見え方が変わるということです。」この気づきが発展すると、次のことが認識できるようになります。

  • 他人からどのように見えても『私は私』だということ(自我)
  • 自分と他者が違うこと(自他の分化)
  • 他者にもそれぞれ自我があること

奥行きの理解は、自分以外の人の心を理解する第一歩。ダンボール遊びって、とても深いことを教えてくれるものなのですね。


狭い空間で拡大する子どもの世界。大人も一緒に楽しもう

このように、狭い場所での遊びは子どもにさまざまな学びをもたらしますが、子どもが好む狭い場所には、大人にはとても入れないところもあります。場合によっては危険を感じることもあるかもしれません。狭い場所で遊ぶ子どもたちに対して、大人はどんなことを気を付けてあげればいいのでしょうか?

安全だけは守ってあげましょう。特に小さい子は周りが見えていないので、たとえば箱に入ろうとして失敗し、箱ごと転がってしまう、などということが起こり得ます。とはいえ、大きな事故につながりそうなこと以外は、基本的に子どもたちに自由に遊ばせてあげてほしい。危ないからと手を出してばかりいると、子どもはせっかくの経験のチャンスを逃してしまうからです。」

さらに、子どもの遊びをただ見守るだけでなく、親も一緒になって遊びに参加すると、いろいろとメリットがある、と寺見さん。

「大人が一緒に遊んでいれば、安全への配慮も自然にできますし、遊びの幅も広げることができます。たとえばダンボール遊びなら、トンネルを造ったり、底を開いてキャタピラにしたりしてあげると面白がってくれるでしょう。」

「遊びに参加するときは、大人も子どもの世界に付き合って、一緒に喜び、楽しむ姿勢が大切です。楽しんで大人がかかわることで、子どもは安心・安全を確保しながら、いろいろな面白さを経験できるようになります。ときどき『何やってんの?』というようなバカなこともしますが、ぜひ付き合ってあげてください。大人だけでやったら妙な行動でも、子どもと一緒ならできるもの。それは大人にとっても癒しになるはずです。」

狭いところで遊びつつ、自分の世界を広げていく子どもたち。時にはヒヤヒヤする場面もありますが、それを見守るのも親の楽しみというものです。

「まずは子どもに任せてやってみよう」、「危ないけど見ていてあげるから大丈夫」、そう言える親でありたいですね。

お話を聞いたのは…

  • 寺見陽子さん

    神戸松陰女子学院大学・子ども発達学科長。教授。専門分野は発達心理学、乳幼児教育学、子育て支援。子どもの認知と自我、親の役割等に関する研究を中心に、近年は父親の育児へのかかわりや親子関係の質の向上を促すプログラムの開発に関する研究にも着手している。子ども保育の心理学(保育出版)、新保育士養成講座「保育内容総論」(全国社会福祉協議会)、子育ち・子育て支援学(保育出版)など、学術著書、教科書等の執筆多数。

ライター紹介

岡本有紗

2児と猫3匹を育てるライター。メディカル系専門の広告制作会社でライティングと編集業務を経験後、出産を機にフリーに。得意分野はやはりメディカル系だが、いろいろな分野を経験し幅を広げたいというのが現在の目標。趣味はあえてチープな手段で行く一人旅(休止中)、特技はハモリと絶対音感。

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