海外にも紹介されていたり、グッドデザイン賞などを受賞していたり。「こんな園に通わせたい!」と思うこと間違いなしの、おしゃれでユニークなデザインの幼稚園・保育園をご紹介します! 園舎をデザインした『日比野設計+幼児の城』の広報・新城大地郎さんに園舎づくりへの思いと、手がけた園舎の魅力について聞きました。
壁がない&雨天時にあえて屋根を開ける!?『第一幼稚園』
熊本県にある『第一幼稚園』は、建物の1階部分に壁がなく、柱だけで作られた園舎です。2015年のグッドデザイン賞のほか、数多くの賞をもらっています。
「可変性のある自由度の高い空間を作る事で、合同授業や英語教室など、その日のカリキュラムに合わせて、部屋の形や規模も最適な形に変更できます。壁以外にも、極力固定で動かせない物を設けないよう、心がけました。」

園舎が完成した当初は、壁がないことで子どもや先生達に戸惑いがあったそうですが、現場の先生達の創造性と工夫の結果、今では子どもたちは「より先生の話に集中するようになった」そう。壁がなくなったことで、子どもと先生の心の距離も近くなったのかもしれません。
さらに、園舎の中央に大きな吹き抜けがあるのも、この園舎の大きな特徴。吹き抜け部分の天井には電動開閉式の屋根が装備されています。普通なら雨の時は屋根を閉めるものですが、『第一幼稚園』では逆に、雨の時に屋根を開ける(!)そう。
「吹き抜け部分の1階の空間は、最大で5cmの高低差があるくぼみがあります。これにより、雨天時に屋根を開ける事で水溜まりができ、子どもたちが遊べるようになっています。」

園舎の中で水遊びが楽しめるなんてびっくり…! 壁のない開放感あふれるスペースで思いっきり遊ぶことで、子どもたちものびのび成長できそうです。
続いては、“隠れ家”のある幼稚園と、コンテナ(!)で作った幼稚園です。
歴史を感じる廊下と隠れ家が魅力の『厚木のぞみ幼稚園』
建物の中心にある広々とした廊下が特徴的な『厚木のぞみ幼稚園』。この廊下は、42年前に日比野設計が担当した旧園舎から、園舎立て替えの際に持ってきた、歴史あるものだそう。
「現園舎の中央にある幅5mの大きな廊下は、旧園舎にあったものを継承して現代版にアレンジしました。また、立て替え時に平屋建てから2階建てとなりましたが、階が分かれることでお互いが見えなくなる点を改善する為に、吹き抜けを多く設置しました。」

インテリアは『森』をイメージしたデザインになっていて、子どもたちが遊べる“隠れ家”も多く存在しています。

「隠れ家は子どもが大好きな場所でもあります。大人の入れない子どもだけの場所は、子どもにとっては、ドキドキワクワクの場所であり、発見やひらめき、コミュニケーションが発生する大切な空間でもあると考え、設計しました。」
遊び心がある園舎は、子どもたちも通うのが楽しみになりそうですよね。
コンセプトはエコ!コンテナ作りの『小倉あさひ幼稚園』
第10回キッズデザイン賞も受賞している『小倉あさひ幼稚園』は、園舎が船舶コンテナで作られた珍しい建物です!

「船舶コンテナは事前に組みあがって納品されるので、短工期で輸送コストも大幅に削減でき、省エネやCO2削減に繋がります。また、将来園の間取りを変える必要が生じた場合でも、コンテナごとの移動が可能で、再利用が容易です。こうしたエコな素材が日常的に目に触れることで、子ども達への教育にも繋がると考えて、コンテナを使いました。」

一方で、コンテナは無機質な印象が強いことから、室内はぬくもりを意識して、ロッカーやイス、テーブルなどのインテリアに「木」を多く利用したそう。内側と外側の対比もおもしろいですね。
続いては、屋上庭園&ランチルームが特徴的な保育園と、アスレチックのような園舎です。
屋上庭園&ランチルームがユニークな『さくらぎ保育園』
ランチルームを中心に大家族の集う大きなお家をコンセプトにした『さくらぎ保育園』。その最大の特徴は、屋根の上に庭があること!
「地上から屋上の庭へは、ゆるやかなスロープになっていて、子どもが自分で上がれるようになっています。屋上庭園で遊んでいる年上の子ども達の様子を見ながら、『いつか自分も』と思う気持ちが、年少の子どもを成長させると考えてます。」

屋上庭園に上がれるようになると、1日に何回も上がったり下りたりを繰り返している子が多いのだとか。
「高いところに登ることによる視界の変化の爽快感や、山登りのような達成感を得て、自分が大きくなったことを実感しているようです。また、高い場所から保育園の周りを見渡すことで、子どもたちが自分の育っている場所や風景に愛着を持つことにもつながっていると、先生からも聞いています。」
さらに、ランチルームと厨房が繋がっていて、ランチを子ども達が自分で配膳できるセミバイキング方式なのも魅力的です。給食を作るスタッフと子ども達が一緒にクッキーを作ったり、クッキングに参加する機会も多くあるそうです。

「ランチルームと厨房を一体化することによって、毎日の食事を誰がどのように作っているのかを、子どもたちも自然に感じることができているようです。」
こうして食事や料理に関わることで、自分たちの育てた野菜など、子どもたちの食への興味も広がっているそうです。
遊びながら自然と運動不足が解消できる『小浜こども園』
リアス式海岸が続く最高のロケーションにある『小浜こども園』。「子ども達にとっての素晴らしい原風景と原体験として記憶に残して欲しい」と作られた園舎は、海が見える大きな窓が特徴的で、2015年のグッドデザイン賞など、数多くの賞を獲得しています。

子どもたちの肥満化傾向が強かったことから、運動不足を解消するために、園舎の中には遊びの中で自然と体を動かす仕掛けも多く作られました。
「小さな段差を数多く設けたり、屋上への通路にも、細長い階段やロープやのぼり棒で上がるロフトを設けました。遊びを通して体力向上や注意喚起力、挑戦する心を育てることが狙いです。」

こうした工夫をした結果、園舎建て替え後に4・5歳児男女の一日の平均運動量を調査したところ、同年齢平均を大きく上回り、食事の消費量も増えたそうです。
そのほか、ガラス張りの絵画専用室(アトリエ)を設けて、子どもの興味や感性を育てたりと、園舎内にはさまざまな工夫があるそうです。
最後に日比野設計さんの園舎を作るにあたっての思いを伺いました!
子ども達に「真に強く、逞しく、賢く成長して欲しい」
こうして各園舎のデザインコンセプトと、実際の子どもたちの反応を見ていると、園舎の形が日々の保育の形を変え、結果として子どもたちの心の成長に大きく影響を与えることがよくわかります。
「幼稚園や保育園は、通っている子どもが日中の大半を過ごす場所。その様な場所だからこそ、園では失敗も成功も含めてたくさんの経験して欲しいと願っています。成長するプロセスの中で無限の可能性を秘めているのが子どもであり、挑戦する気持ちを『危ないから止めなさい』と止めるのではなく、大人は可能性を広げてあげてほしいです。便利すぎる現代において、幼少期の子どもには不便な位が工夫する心を生み、成長を促すと思っています。」
子ども達のたくさんの笑顔が生まれる事を願い続けて、設計をしている日比野設計さん。これからは幼稚園を選ぶときに、教育方針だけでなく、園舎のデザインやそこに込められた思いにも注目してみてはいかがでしょうか。