これまで、小学校は3学期制が当たり前でしたが、最近では「2学期制」を導入している小学校もあります。なぜ2学期制が導入されるようになったのか、3学期制との違いやメリットなど、わからないことも多いはず。
そこで今回は「2学期制」の基礎知識について、開智国際大学教育学部教授で九州大学名誉教授の八尾坂修さんに聞きました。
「2学期制」の導入理由とは?

まずは、2学期制導入の背景を教えてください。
「2002年度から、学校の完全週5日制が始まりました。それに伴い授業日数が40日ほど減ることになり、そこをどのように確保するかということになりました。翌年の2003年に、教育課程の指導の充実や改善方策として中央教育審議会が『2学期制』という言葉を出して、長期休業日や学期のあり方について意見を述べました」
「2学期制を導入することで、減った授業数を確保できるということで、2学期制を導入する学校が増えたのです」
学校の学期制は、全国一律で決まっているものではなく、各自治体や教育委員会、学校の考え方に委ねられているとのこと。
「公立校では、自治体が2学期制を定めていれば、その地域の学校では2学期制を導入していますし、どちらでも良いという場合にはそれぞれの学校で決めています」
2学期制が導入され始めた頃は、政令指定都市の学校で導入されることが多かったようです。2学期制なのか3学期制なのかは、それぞれの市区町村の教育委員会によって決められているので、地域によって違いがあるのですね。
2学期制と3学期制はどこが違う?

では、2学期制と3学期制の違いはどこなのでしょうか。
「2学期制は1年を前期と後期の2つにわけて長期的な見通しを立てて学んでいきます。3学期制は、1年を1学期から3学期の3つにわけて学びます」
2学期制では、学期の区切りがわかるよう秋休みを設けるなどしているようです。
2学期制と3学期制それぞれで、児童側にどのようなメリットとデメリットがあるかについては、次のようなものが挙げられます。
2学期制の場合
<メリット>
- 学校行事の効率化や、通知表の回数を減らすことで、先生側と児童側双方に時間的・精神的に余裕ができる
- 始業式や終業式の回数が減ることなどから、必要な授業数を確保できる
- 長いスパンで、問題解決型の授業に取り組めるので、子どもがじっくりと考え、より先生と向き合って指導を受けることができる
- 海外から帰国した児童や留学生への対応がしやすい
<デメリット>
- 学期途中に長期休業が入るため、子どもの生活リズムが崩れやすくなる
- 学校行事の見直しが必要になる
- 通知表の回数が減ることでテストなどが少なくなり、子どもにとって勉強の動機付けが難しくなる
3学期制の場合
<メリット>
- 3学期制で授業を受けていた児童には、違和感がない
- 学校行事などを見直す必要がないため、今までどおり過ごせる
- 学期の間に長期休業があるため、メリハリができ、生活リズムが作りやすい
<デメリット>
- 学期ごとに区切られるため、長期的な学習がしにくい
- 3学期が短いため、通知表などの評価が難しい
それぞれに、メリットやデメリットがあるとのことですが、子どもにとってはどのような影響があるのでしょうか。
「子どもへの影響については、学校の指導体制次第ではないでしょうか。子どもたちは、それほど違和感もなく過ごしているようです。2学期制が導入されることによって指導方法が変われば、ゆったりと学べると感じる子もいるでしょう」
「また、3学期制を経験している先生は、2学期制になったことで意識の改革が必要になります。それとは逆に、最初から2学期制で指導している先生にとっては、そのリズムに慣れているため違和感なく受け入れられているようです。両方の先生が足並みをそろえていくことが、子どもの学びやすさに繋がります」
2学期制になっても、学校側の体制がしっかりしていて、先生や保護者が共通認識をもっていれば、子どもたちは自然と受け入れているようです。
「2学期制」導入がうまくいくケースとは?
2学期制の導入が成功している地域に、共通点はあるのでしょうか。
「まず、2学期制がうまくいくためには、学習環境の整備が必要です。成功しているところは、学校として保護者への説明をしっかり行うことができていて、デメリットをどのように克服するかも示しています。また、準備期間や予備期間を設けることで安心して移行できるような工夫もしています」
学校には保護者や地域の協力が不可欠とのことで、2学期制導入についてもうまく情報発信をしていくのが大切だそうです。そのためには、市区町村の協力体制も必要となるため、全区域2学期制を義務付けているところほど、うまくいきやすいといいます。
「2学期制を導入して、現在も継続している学校からは、『成績や評価にかける時間が短くなり効率がよくなった』、『学校行事や授業方法を見直した結果、余裕ができて、より発展的な指導ができるようになった』などの意見が挙がっています」
行政と学校、保護者、地域が、2学期制に対して共通認識を深めることで、2学期制導入がうまくいくとのことです。
「2学期制」を導入する学校は増えていくの?

今のところ「2学期制」を導入している学校はどのくらいあるのでしょうか。
「2013年度の調査では、2学期制を導入している公立の小中学校は20%ほどです。地域差はありますが、全体の5校に1校は2学期制ということになります。ですが、ここ数年は横ばい状態です」
今後どんどん増えていく、というわけでもないのでしょうか。
「2学期制の導入が始まってから今までの間で、長期休業の短縮や土曜授業が可能になるなど、制度も少し変わりました。そのため、2学期制を導入するメリットがあまり感じられなくなっています。今後も飛躍的に増えるというわけではなく、現在のような状況が続くのではないでしょうか」
また学校の中には、1度は2学期制を導入したものの、その後3学期制に戻した学校もあるそうです。
「授業数の確保などの成果はみられたものの、2学期制では評価の期間が長すぎることや、学期の区切りとなる休日が数日間しかないので、児童が切り替え意識を持ちにくいなどの理由から、2学期制で得た成果を活かしつつ、3学期制に戻した自治体があります」
10年間ほど2学期制が続いたこの自治体(金沢市)では、3学期制に戻すにあたり、先生や保護者への意識調査なども行い、協議を重ねたそうです。
2学期制を導入する学校がそれほど増加しない理由には、日本の風土も関係あるとのこと。
「日本には四季があります。3学期制は、それぞれの季節に合わせた学習ができる制度になっているため、メリハリもつきやすく学びやすいと考える人が多いのではないでしょうか」
2学期制と3学期制にはメリットとデメリットがあり、それぞれの地域の実情に応じた教育施策を自治体ごとに選んでいるのが現状のようです。
3学期制で育った親世代には、2学期制は馴染みがないため、違和感があるかもしれません。各自治体によって対応はさまざまですが、子どもたちがよりよい教育が受けられるよう、それぞれのメリットとデメリットを理解して、適切なサポートをしていけたらいいですね。