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子どもの夢応援企画 第1回:宇宙飛行士・向井千秋さん

掲載日: 2015年10月9日更新日: 2016年5月19日石橋 夏江

子どもたちがなりたい憧れの職業。でも、その仕事に就くまでの過程や仕事のやりがいは、実際その職業についた人に聞かなければわからないもの。そこで、「いこーよ」では様々な職業のプロに取材し、その職業の「リアル」を伺うとともに、子どもたちの疑問に答える連載企画をスタートします! 初回は「宇宙飛行士」をご紹介。日本人女性初の宇宙飛行士・向井千秋さんにお話を伺いました。

©JAXA/NASA

宇宙飛行士に憧れを抱きつつも、子ども時代の夢は医師

1994年にコロンビア号、1998年にディスカバリー号にそれぞれ宇宙飛行士として搭乗した向井千秋さん。しかし、子どもの頃はまったく別の夢をもっていたのだとか。

「子どもの頃は宇宙飛行士って自分には全く関係ないものだと思っていましたね。当時、宇宙飛行士は外国の軍人やパイロットがなるものでしたから。」

「ガガーリンが宇宙に行ったのが、ちょうど私が小学校の低学年の頃。その2年後には、ロシアのワレンチナ・テレシコワが女性として初めて宇宙に行って、高校生の頃にアポロが月に着陸。そんなニュースを見て、純粋に宇宙飛行士ってすごいなって思いがあったから、そういった人の伝記を読んだりはしましたね。」

小さい頃の私の夢は医者になることでした。私の家は弟が足が悪かったので、医者になってそういう人を助けたいと思って。宇宙飛行士と違って、医者は日本人で女性である私にも実現可能な夢だったので、とにかくその夢に向かって懸命に勉強しましたね。」

突然やってきた宇宙飛行士へのチャンス!

猛勉強の甲斐あって、外科医となった向井さん。しかしその後、新たな夢に向かって宇宙飛行士の選抜試験に応募します。

医者になって10年目くらいのことだったかな。当直明けに新聞を見たらたまたま日本人宇宙飛行士募集の記事がでていたんです。しかも、宇宙に行って科学実験や検証実験をするために、科学技術や医療などの仕事に就いている人が募集対象になっているじゃないですか。」

絶対になれないと思っていた宇宙飛行士に、自分もなれるチャンスがある。だったらやってみよう、と。宇宙から地球をみたら、自分の視野がすごく広がるだろうし、考えも深まるはず。それに、宇宙で行われる医学検査についてもおもしろそうだなと思いました。それで思い切って応募したんです。」

そして向井さんは、JAXAが行う書類選考、英語・一般教養などの筆記試験、面接試験などをクリアし、見事に第1期の日本人宇宙飛行士に選ばれたのでした。その後、日本やアメリカで行われる様々な訓練を重ね、選出から9年後の1994年にスペースシャトル・コロンビア号で宇宙へと飛び立ったのです。


宇宙飛行士の仕事は地上でのデスクワークが中心!?

宇宙飛行士というと、テレビ中継で見るミッションに取り組む姿や食事風景などをイメージしますが、それ以外の宇宙飛行士の仕事にはどんなことがあるのでしょうか?

「みなさんが見ているのは宇宙飛行士の仕事のほんの一部で、私も約20年の宇宙飛行士人生で実際に宇宙に行っていたのは2週間ずつ2回。地上で訓練や準備に費やしている時間の方が圧倒的に多いのです。実は宇宙飛行士の仕事のほとんどはデスクワーク。例えば、サポートスタッフとの打ち合わせ、宇宙で行う実験や作業のための勉強などです。」

「またあまり知られていませんが、宇宙で作業する飛行士と地上で交信する際の伝達役も宇宙飛行士が担当しています。宇宙空間での作業や実験中に何かトラブルが起こった時も、地上で専門家が作った対処法を最終的にチェックし、機内の飛行士に伝えるのは、サポート役の飛行士です。仲間である地上の宇宙飛行士が、宇宙空間で再現可能な作業なのかを判断した上で伝えることで、実際に作業する飛行士が安心して行うことができるんです。」

トラブルが多い仕事だが、乗り越えた時の達成感は最高

©JAXA/NASA

宇宙飛行士の仕事で特に大変なことは何でしょうか?

いろいろなスケジュールが確定しないことですね。特に打ち上げの日程はギリギリまで確定しません。機材の故障やエンジンの不調、悪天候など原因は様々ですが、自分の心身のコンディションはもちろん、実験動物や器材なども一から準備し直す必要があるので大変です。」

「また、宇宙飛行士の仕事は不確定要素が多く、宇宙空間でも、器具の故障や実験スケジュールの変更などにフレキシブルに対応することが求められます。そうしたトラブルが起こった時に最大限の結果を出すのがすごく難しい。宇宙に行くまでの様々な訓練はこういった時のためにやっているようなものです。」

「でも、実際トラブルが起きた時に、チームで協力して解決した時は『やった!』と思いますね。それがこの仕事の一番の醍醐味です。仕事は期待にこたえて当たり前、それ以上の結果を出すからプロ。期待された以上の120%の仕事ができたときに、一番やりがいを感じます。」


宇宙飛行士への近道は自分の専門分野を極めること

宇宙飛行士に憧れる子どもたちは多いと思いますが、どうしたら宇宙飛行士になれますか?

これを持っていれば宇宙に行けるという資格もなければ、宇宙飛行士になるための学校もありません。さらに、宇宙飛行士の応募条件には必ずこれと決まっているものがないんです。」

「私の時は宇宙空間で様々な科学実験を行うことが目的だったので研究者や医者が選ばれましたが、その後、宇宙ステーションの組み立てが主な目的となった時期はエンジニアが選ばれるようになりました。このようにその時にどんな人材が必要かによって応募条件も変わるんです。」

「実は宇宙飛行士の平均年齢って意外と高いんです。それは、それぞれが専門分野を極めたエキスパートだから。宇宙飛行士になるには、地球上で取り組んでいた仕事を宇宙に展開して何ができるかっていうことが大事。科学でも医療でもエンジニアリングでも、とにかくまずは地上で自分の専門分野を極めることが、宇宙飛行士への第一歩です。」

宇宙飛行士を目指すために大切な4つのこと

©JAXA/NASA

では、宇宙飛行士に憧れる子どもたちは今からどんなことをやっておくといいのでしょう? 向井さんは大切なことは4つあるといいます。

1.専門性をもつこと

「自分の好きなこと、得意なことを見つけて、それを一生懸命頑張りましょう。そうすることが、宇宙飛行士だけでなく将来どんな仕事に就くのにもきっと役に立ちますよ。」

2.チームワークを身につけること

「宇宙飛行士は必ずチームで仕事をします。そこで大事なのが各自が自分の役割をしっかり果たすチームプレー。子供のうちからチームワークを身に付けておくのがいいですね。」

3.コミュニケーション力(語学力)

「外国人とコミュニケーションを取るために英語を身につけることも大切。多くの人とコミュニケーションを取れるようになると、視野も広がります。」

4.文武両道

「知識は大切だけど、頭でっかちになってしまってはダメ! 昔から“文武両道”という言葉があるように、勉強と運動そして精神のバランスが取れてこそ、将来、立派な仕事ができる人になれると思いますよ。」


向井さんが子どもたちからの素朴な疑問に回答!

宇宙飛行士に憧れる子どもたちからの質問に向井さんが答えてくれました。

宇宙で家に帰りたくなったことはありますか?

「家に帰りたくなったことはありませんでした。みんなも海水浴や遊園地など楽しい場所に行ったら帰りたくならないでしょ?? それと一緒で、まだ帰りたくないと思いました。もう1日あったらもっといろいろなことができるのにって。それくらい宇宙での仕事は魅力的でおもしろいものなんです。」

宇宙での食事はおいしいですか?

「たくさんの種類の食事があって味もおいしいですが、新鮮な食材が食べられないので地球のごはんの方が好きです(笑)。私が好きだったのはシュリンプカクテル。みんなに人気があったのはカレーですね。宇宙の閉鎖された空間では、鼻が利かなくなり味覚も鈍くなるので、濃くてはっきりした味のものをおいしく感じます。」

電気がないと外は暗いですか?

「地球上と同じで太陽が当たっていないときは、電気がない外は真っ暗ですよ。宇宙でスペースシャトル(現在は宇宙ステーション)は地球の周りを回っています。太陽が当たっている間は昼間のように明るく、地球の影になっている間は夜のように暗くなります。1周だいたい90分なので、頻繁に昼と夜を繰り返しているような感じです。」


好きなことをとことん頑張れば夢へ大きく近づくはず!

最後に自分の夢に向かって頑張る子どもたちに、向井さんからメッセージをいただきました。

自分の好きなことを見つけて、そのためにどんな勉強が必要か、何を身に付ければいいのかを探して取り組んでいくと、毎日楽しいと思います。どんなに好きなことでも必ず大変なことがありますが、それを乗り越えれば、その向こうにもっと楽しいことが待っているはず。勉強でもスポーツでも何でもいい、好きなもの、自分の夢を見つけてそれを育てていきましょう。」

仕事は自分がやっていることでほかの人が喜んでくれると、その楽しさが2倍3倍になるもの。みんながそうやってキラッと光る大事な社会の歯車になっていけば、街にキラキラした目の人があふれるステキな社会になっていくと思いますよ。」

向井さん、貴重なお話をありがとうございました! 次回は「パイロット」の方にお話を伺います。どうぞお楽しみに!

「夢応援企画(将来なりたい職業紹介)」の記事一覧はこちら!

お話を聞いたのは…

  • 向井千秋さん

    1952年群馬県館林市生まれ。慶應義塾大学医学部卒業。医師免許を取得し、慶應大学病院に外科医として勤務。1985年に日本人宇宙飛行士第一期生として、毛利衛さん、土井隆雄さんとともに選出される。NASAジョンソン宇宙センターの宇宙生物医学研究室勤務などを経て、1994年と1998年の2度に渡りスペースシャトルに搭乗。その後、JAXA宇宙医学生物学研究室室長、JAXA宇宙医学研究センター長などを歴任し、現在は東京理科大学 副学長を務める。

ライター紹介

石橋 夏江

編集プロダクションverb所属。編集者・ライター。趣味は、旅行と写真とスキューバダイビング。プライベート旅でも、取材旅以上の分刻みスケジュールを組むため、友達がなかなか一緒に旅行に行ってくれないのが最近の悩み…。

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