6歳頃から12歳頃にかけて、「乳歯」から「永久歯」へと生えかわっていく子どもの歯。歯が抜けた時の対処法は? また、抜けた乳歯はどうすればいいのでしょうか? 小児歯科専門の歯科医院「アリスバンビーニ小児歯科」で理事長を務める丸山進一郎先生に伺いました。
歯が抜けた当日は出血しやすいので、歯磨きに注意
まず、子どもの歯が抜けた時はどんなことに気をつけた方がいいのでしょうか?
「極端に固いもの、醤油など刺激の強い飲食物をさければ、あとは本人が食べられるもので大丈夫です。しかし、抜けてすぐは出血しやすいので、歯磨きするときは抜けた場所に毛先が当たらないように注意しましょう。自然に歯が抜けた場合、2日〜3日後には普通に磨けるようになります。」
通常は特に問題ありませんが、ごく稀に乳歯が抜けた歯茎に雑菌が入り、発熱することもあるよう。そうした場合は、抗生物質を飲む必要がありますので、かかりつけの歯科医へ相談してみましょう。
また、歯が抜けた後、永久歯の生え方がおかしいと思ってもほとんどは大丈夫だそう。
「大人の歯が変なところから生えてきた、と心配される保護者の方がいますが、歯が生えてくるスペースさえあれば、歯は次第に正しい位置へと動いていきます。1カ月〜2カ月しても変な位置にある場合は、念のため歯科医院で診てもらいましょう。」
抜けた乳歯は「投げる・保管する・活用する」3つが基本
丸山先生いわく、抜けた歯の処理方法は人それぞれですが、大きく次の3つの方法があるそうです。
方法1:上の歯は縁の下へ、下の歯は屋根へ向かって投げる
まずは、昔ながらの、「上の歯は縁の下へ、下の歯は屋根へ向かって投げる」というもの。そもそもそう言われる理由は何でしょうか?
「次に生えてくる永久歯がまっすぐ、そして健康であるように縁起を担いだもので、上の歯は下に、下の歯は上に投げるのは、歯が伸びてくる方向だからです。」
地方や家庭によっては、上の歯は床下や溝に投げるなど多少の違いはあるものの、丈夫な歯の成長を願って歯を投げるというのは共通のようです。
しかし、歯を投げようと思っても、最近の住宅事情では難しいことも。
「マンションなど集合住宅に住んでいる人も多いので、昔のように歯を投げることができなくなってきています。その場合、抜けた歯を見た後に捨てる方、保管する方など、様々ですね。」
方法2:家で気軽に保管! デザイン豊富な乳歯ケース
自宅で保管する時はどのようにすればいいのでしょうか?
「記念として残すだけであれば、歯についている血液分などをよく洗ってから、自然乾燥させればOK。とくに消毒までする必要はありません。へその緒のように脱脂綿にくるんで保管するか、専用ケースを使用すると良いでしょう。」
乳歯用の保管ケース(乳歯ケース)は、歯科医院や雑貨店、インターネットなどで購入することができます。全ての歯を保管できるタイプ、数本だけ入れられるケース、抜けた日付を記入できるもの、名入れができるものなど様々。木製だったり、歯の形をしていたり、デザインも幅広いです。
「欧米では抜けた歯を記念に保存する習慣があるので、海外製の保管ケースはかわいいものが多いですね。乳歯は20本あるので、まとめて保管するとどの歯が何だか分からなくなってしまいます。歯の位置が分かるようなケースを利用すると良いでしょう。」
へその緒や、髪の毛で作る「誕生筆」同様、乳歯も子どもの成長の証として手元にとっておけば記念になるもの。乳歯ケースは出産祝いなどの贈り物にもおすすめです。
方法3:抜いた歯を再生医療に役立てる歯髄細胞バンク
さらに、今注目されているのが、抜けた歯を活用する「歯髄細胞バンク」という新しい取り組みです。
2006年に京都大学の山中伸弥教授らが皮膚の細胞から作れる万能細胞「iPS細胞」を発見したことが大きなニュースになりました。その後の研究で、抜けた歯の中にある「歯髄(しずい)細胞」という良質な幹細胞からもiPS細胞ができることが明らかとなり、再生医療技術の1つとして、注目されているのです。
「抜けた乳歯や親知らずから歯髄組織を取り出し、一定量まで培養した後、治療利用に備えて長期間冷凍保存してくれるのが『歯髄細胞バンク』です。登録料や保管料などがかかりますが、万が一将来大きなケガや病気をしたとき、保管してある歯随細胞を使うことで、失われた組織や臓器を元の形や機能に再生することができると考えられています。」
ただし、細胞を新鮮な状態で培養へ回す必要があるため、基本的には、歯髄細胞バンクの提携歯科医療施設の歯科医師の診断によって抜歯時期が決められ、そこで抜歯が行われます。自宅で乳歯が抜けた場合にも、ただちに専用容器に入れる必要があるため、「歯髄細胞バンク」の利用を検討したい方は、事前に関連施設へ連絡・問い合わせが必要です。
このように「投げる・保管する・活用する」と、抜けた歯の処理方法は人それぞれですが、時代は変わっても、子どもの健やかな成長を願う心は同じ。自分に合った方法を見つけてくださいね。