4年〜5年に1度流行する「おたふくかぜ」。前回の流行は2010年で、2015年後半から新たな流行の兆しが見え、注意喚起がされています。
そこで、おたふくかぜの症状や予防接種について、国立感染症研究所感染症疫学センター第三室・室長で小児科医の多屋馨子さんに聞きました。
おたふくかぜとは? かかりやすい年齢とその症状

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)とは、どのような病気なのでしょうか。
「おたふくかぜは、ムンプスウイルスにより起こる感染症です。唾液を介して飛沫感染する病気で、潜伏期間は2週間〜3週間ほど。発症すると耳の下が腫れて痛むのと同時に、発熱などの症状が出ます」
「髄膜炎や脳炎、難聴などを引き起こし、重症化すると後遺症が残る場合もあります。おたふくかぜ発症者の約8パーセントが髄膜炎、1,000人に1人は難聴になるというデータがあります。特に怖いのが難聴で、おたふくかぜで耳が聞こえなくなってしまうと、ムンプス難聴といって、片側性が多いとはいえ、残念ながら聴力が戻ることはほぼありません」
なりやすい年齢はあるのでしょうか。
「かかりやすい年齢は4歳〜5歳頃で、例年6月頃が流行のピークとなります。学校保健安全法により、耳下腺や顎下腺、または舌下腺の腫脹が始まった後5日を経過し、かつ全身の状態が良好となるまでは出席停止とされています」
通常は1週間〜2週間ほどで自然に治りますが、合併症が多い病気でもあるそうです。
大人がかかると重症化することも
大人もかかる病気ですが、症状に違いはあるのでしょうか。
「大人がおたふくかぜになると、39度近い熱が1週間ほど続く場合があります。男性は睾丸炎(精巣炎)になる可能性がありますし、女性は卵巣炎や妊娠中にかかると流産の危険性もあります」
子供より大人の方が重症化するので、とくに注意が必要ですね。
おたふくかぜの対処法
実際におたふくかぜにかかった場合は、どう対処すべきでしょうか。
「おたふくかぜを発症した場合は、ムンプスウイルスの特効薬はないので、解熱鎮痛薬を用いた痛みや熱に対する対症療法が基本となります」
「頬が腫れているときは、痛みがあるので、すっぱいものなど唾液が出る食べものや飲みものは避けてください。なるべく刺激のない、やわらかいものをとるようにするのがいいですね。また、脱水症状にならないよう気をつけてください」
「また、耳に異常がないか気をつけることも重要です。とくに小さな子供の場合、片方の耳が聞こえづらくなっていたとしても気づかないことが多いので、子供の耳元で指をこする『指こすり法』で、難聴になっていないかを調べてください」
<指こすり法>
お母さんの手元が見えないよう子供の後ろに立ち、子供の耳元で指をこすり合わせ、聞こえた方の手を挙げてもらいます。何度かくり返して、きちんと聞こえているかどうかを確認します。
もし子供の様子が少しでもおかしいと感じたら、すぐに耳鼻科を受診しましょう。
唯一の予防法は「予防接種」を受けること

おたふくかぜの効果的な予防はどういったものでしょうか。
「おたふくかぜを予防するには、予防接種を受けるのが唯一の方法です」
「おたふくかぜの予防接種は生ワクチンで、弱毒化したムンプスウイルスを身体の中に入れることで、免疫力をつけるものです。1度免疫を獲得すれば、通常は生涯おたふくかぜにかかることはありません。」
「生ワクチンということもあり、数千人に1人の割合で髄膜炎になることがあります。ただ、これは自然感染での発生率よりもずっと低く、重症化しにくいものです。ワクチンの副反応を恐れて、予防接種を受けずおたふくかぜにかかる方が合併症を起こすリスクが高く危険です。正しい知識を持って、理解をした上で、予防接種を受けてほしいですね」
ちなみに、おたふくかぜワクチンは任意接種です。費用は自己負担であるということや、副反応への不安などから、定期接種に比べて接種率はかなり低く、0歳〜2歳の子供は3割〜4割にとどまっているそうです。
ワクチンの効果は接種から2〜3週間後!
ワクチンを接種したらすぐに効果が出るのでしょうか。
「ワクチンの効果が出るのは、接種から2週間〜3週間後です。また、おたふくかぜの予防接種は2回受けるのがベストです。タイミングとしては、MR(麻しん風しん混合)ワクチンと同じく、1歳過ぎ(0歳での接種はできません)に1回目、入学前に2回目を接種するとよいでしょう」
「患者さんと接触後にワクチンを接種しても発症予防には間に合いません4月から幼稚園や保育所などの集団生活に入る場合は、流行前になるべく早く受けることをおすすめします」
子供はもちろん、予防接種を受けていない大人も要注意です。抗体があるかどうか不明な場合は、病院で抗体検査を受けることができるので、おたふくかぜの流行前に調べてみるとよいでしょう。