子どもは、自分が思い通りにいかないことがあると、相手を叩いたりつねったり、口より先に手が出てしまうことがありますよね。こうしたとき、パパママはどんな対応をすればよいのでしょうか。また、そうした感情を抑制する力を養うにはどんな声かけをすればよいのか、専門家に聞きました。
友だちとママでは手を出す理由が違う
そもそも、子どもはどんなときに、叩いたりつねったりなど、手を出してしまうのでしょうか。

「子どもが手を出してしまうシチュエーションは、お友だちが相手の場合と、パパママが相手の場合で変わります。」
こう答えてくれたのは、ベビーシッターでイヤイヤ期専門家の西村史子さん。
「お友だちが相手の場合は、『自分の世界を侵された』と感じると、それがイヤで手を出してしまうケースが多いようです。ただ遊んでいるだけのように見えても、そこには子どもなりのテリトリーが存在します。だから、遊んでいるおもちゃに急に手を出されるなどすると『邪魔しないで!』と思って、手が出てしまうのです。」
「一方でママが相手の場合は、『わたし(僕)の気持ちをわかってよ』という意思表示のケースが多いですね。楽しく遊んでいたり、何かをしようとしていたりするときに『ダメ!』などと言われると、『遊びたい気持ちをわかってよ!』と思うのです。」
言葉が追いつかないから、つい手が出る
とはいえ、大人からすると「やめてよ」と言えば済むのに…と思ってしまうもの。どうして口より先に手が出てしまうのでしょうか。
「言葉がまだ追いつかなくて、自分の気持ちをどう表現していいのかわからないからです。言葉自体は知っていても、その言葉が自分の気持ちを適切に表現する言葉なのかどうかがまだわからない。だから、気持ちを表現する手段として、つい手が出てしまうのです。」
言葉は追いつかないけれど、気持ちはわかってほしい。そのための表現が、子どもの場合は叩く、つねるといった行動になってしまうのですね。
いずれにせよ、親は手を出すという行動をやめさせたいと、つい「ダメでしょ!」と頭ごなしに叱ってしまいがちです。しかしそれだけでは、子どもは、気持ちを伝えたいだけなのに、どうして叱られたのかわからなくなってしまいます。そんなときは、どんな対応をしたらいいのでしょうか。
そこで西村さんに、手を出してしまった相手別に対処法を聞きました。
友だちと親、それぞれの相手への対処法

お友だちが相手の場合
1.まず、パパママが相手の子どもに「叩いちゃってごめんね」と謝ってから、その子の親にも「すみません。うちの子が手を出してしまって」と謝る
2.「おもちゃ取られて、悔しかったんだね」など、わが子から感じ取れる気持ちを親が代弁して子ども本人に伝える
手を出してしまうのには、子どもなりの理由と気持ちがあります。ただ、くやしいのか、悲しいのか、細かな感情の違いが自分ではまだわからないから言葉にできないだけ。
「例えば『遊んでいたおもちゃを取られた』という状況でわが子がくやしそうな表情をしていたら「くやしかったんだね」とママが代弁してあげてください。「叩いてしまったけれど、こういう気持ちがあったんだよね」と認めてあげることが大切です。」
パパママが相手の場合
1.「もっと遊びたかったんだよね」など、わが子から感じ取れる気持ちを親が代弁して伝える
2.パパママの気持ちを伝える
「お友だちと大きく違うのは、子どもはパパママをとても信頼しているということ。だから、親に手を出すときは『パパママなら自分の気持ちを理解して、代弁してくれる』と思っているんです。」
だからこそ、まずは子どもの気持ちを認めて、代弁してあげること。その上で、「でもね、○○ちゃんに叩かれるとママは悲しい気持ちになるよ」と、パパママの気持ちを伝えます。
「子どもは、自分以外の人にテリトリーや気持ちがあることをまだよくわかっていません。パパママの気持ちを伝えることで、自分以外の人にもそうした世界があることを学んでいきます。」
自分以外の人にも世界があると知ることは、社会性の発達につながります。一番身近にいるパパママの気持ちをきちんと伝えることが、社会を知る一つの歩みになるのですね。
自分を抑制する力を養う、年齢別の声かけ
さらに西村さんは、「考えて、自分を抑制する力」を子どもが身に付けるために、手を出してしまったときの対処法に続く、年齢別の声かけも教えてくれました。
■2歳〜
「叩かないで、自分の気持ちを伝えるんだよ」と教えてあげる
「叩くことはいけないこと」「自分の気持ちを伝えればいいこと」を、まだ知らないのがこの年齢。2歳では、まずそうしたことを教えてあげます。
■3歳〜
「叩かずに自分の気持ちを伝えるってことはわかっているよね」「こういうときは、こうするんだったよね」と念を押す
「叩くことはいけないこと」「自分の気持ちを伝えればいいこと」は、頭ではわかっているのがこの年齢です。でも、まだ気持ちを抑えることができなくて、つい手が出てしまった状態なので「知っているけど、気持ちを抑えられなかったんだよね」と、「知っている」前提で話をすること。その上で「こうするんだったよね」と念を押せば、少しずつ、対処法が身についてきます。
■4歳〜
「こういうときはどうするんだった?」と考えさせる声かけをする
知っているけれど、つい手が出てしまうのは3歳と同じです。しかし、それをよくわかっていて、一番「やってしまった」と感じているのは子どもの方なので、そのことについては伝えません。4歳では、自分で考えさせることが大きな違い。考えることが、自分を抑制する力につながっていきます。
「どちらが悪い」というジャッジを下さない
最後に西村さんは、子どもがお友だちに手を出してしまったときに、パパやママが言ってはいけないNGワードを教えてくれました。
「相手の親に『うちの子が悪いので、よく言って聞かせます』と言うのは、一番良くないですね。手を出してしまったことは謝らなければいけませんが、『どっちが悪い』というジャッジを親が下すのは違うと思います。子ども同士の気持ちがぶつかっただけであって、どちらがいい、悪い、ということではないですからね。」
「うちの子が悪い」ではなく「叩いたことは悪い」で終わらせないと、子どもは「パパママはわかってくれていない」と思ってしまう上に、「わたし(僕)は悪い子なんだ…」と、自信を失いかねないのだとか。

つい「うちの子が…」と謝ってしまったら、わが子にあとでしっかりフォローして
とはいえ、親には親のお付き合いがあるので、わが子がよその子を突き飛ばしてしまったときなど、つい「うちの子が悪いんです!よく言って聞かせます!」と言ってしまうことも…。
「そんなときは、あとで『ごめんね、さっきはあんなふうに言ってしまって』と、きちんと謝ってあげてください。そうすることで、子どもは『否定された』という感情から救われます。そしてそのあとで『ちゃんと見ていたよ。くやしかったんだよね』と、気持ちを認めてあげれば大丈夫です。」
親が勝手にジャッジを下さず、子どもの気持ちを認めてあげること。その上で、根気よく「どうすればよいか」を教え、一緒に確認することが、子どもの「自分を抑制する力」を養っていくのですね。