『逆上がり』は、いとも簡単にできる子もいれば、熱心に練習してもなかなか成功できない子もいます。その違いは、筋力の有無とコツをつかんでいるか否か。そこで、スポーツ動作力学の観点から『逆上がり』を研究している、東京大学大学院・鴻巣暁さんに上手な練習法を教わりました。
まずは準備が大事。筋力チェック&最適なポジショニング
「一般的に『逆上がり』は、小学校3年生〜4年生で約半数ができるようになり、5年生〜6年生では全員がマスターしたい運動といわれています」と鴻巣さん。成功する年齢に差が生じる理由の一つは、子どもそれぞれで体に合った筋力の発達が異なるため。
『逆上がり』の第一の関門は、鉄棒に身体を引きつける腕を動かすための筋力があるかどうか、です。そこで、鉄棒にぶら下がる“ダンゴ虫”運動で、まずは筋力をチェックしましょう。
“ダンゴ虫”で10秒キープできる?

鉄棒を握って、あごと鉄棒が同じ高さになるように体を引き上げて足を浮かせて10秒キープ! この”ダンゴ虫”ポーズができれば、『逆上がり』を成功させる筋力が備わっている証拠です。
「10秒間キープできない場合は、“ダンゴ虫”運動を練習に取り入れましょう。鉄棒にお腹を引き寄せるための、腕を動かす筋力、背中の筋肉を鍛えることができます。」
体重が重くても大丈夫!
『逆上がり』ができない子どもの特徴として、体重が重いことも挙げられるそうです。腕で身体を支えきれずに、鉄棒から身体が離れていってしまうのです。その場合も、大きな身体を支える筋力をつければOK。
「実は僕、小学校の頃に給食が大好きで太り気味でした(笑)。だから『逆上がり』は苦手だったんです。当時、筋トレのコツを知っていれば…」と鴻巣さんは苦笑い。そのくらい、筋力アップが『逆上がり』を成功へと導く大事なポイントになります。
スムーズに成功できる鉄棒の「高さ」と「持ち方」
『逆上がり』を成功しやすい鉄棒の高さは、肩ぐらい。握り方は「順手」と「逆手」と2種類ありますが、どちらでもOK。子どもが迷っていたら、鉄棒運動の正式な握り方である「順手」を勧めましょう。

もし子どもが自然に「逆手」で握ったら、そのままトレーニング開始!

さぁ、それではいよいよ、逆上がりの練習を始めましょう!
『逆上がり』を成功させる3つのコツ
『逆上がり』の運動は、助走→踏切→回転の順番です。それぞれの運動を成功させるのにはコツがあり、親がちょっとサポートすることで成功率を高められます。
コツ1:早歩きで助走して、ジャンプアップ
「よーし、成功させるぞ!」と気合い十分に取り組むあまり、勢いよく助走し、最後に地面を蹴る踏み込みが強すぎて、身体が上に向かうスピードを落としてしまうことがよくあります。
「助走は早歩きか、軽いステップぐらいで十分。踏み込みよりも跳び上がりを意識させるために、最後の一歩は親が“ジャンプ!”と声を掛けましょう。」
コツ2:鉄棒をお腹に引き寄せる
身体が鉄棒から離れてしまうと、失敗してしまいます。子どもには「鉄棒をお腹に近づけて」「鉄棒を引っ張るようにして」とアドバイスしましょう。このときに活躍するのが、“ダンゴ虫”運動で鍛えた背中の筋肉です。
回転するときに大人が腰を支えて、補助してあげるのも効果的です。

コツ3:背中側の景色を見るようにする
最後は、回転をスムーズにさせるコツ。「ジャンプ!」のかけ声で踏み切ったら、「後ろを見て!」と背後を見るように意識させましょう。すると自然に身体が逆さまになって、回転が促されるはずです。
「できた!」につながる、タオルを使った成功体験

こうしたコツに加えて、踏切板などの補助器具を使って『逆上がり』の成功体験をすることで、自力で成功しやすくなります。休日に公園に親子で練習する場合には、腰を支えるほかに、タオルを使う方法もオススメです。用意するのはふつうの手ぬぐいタオルだけでOK!
タオルを使うなら、鉄棒の高さはお腹の位置
『逆上がり』をスムーズに成功させる鉄棒の高さは「肩」の位置ですが、タオルを使う場合は、なるべく「おへそ」に近い高さを選びましょう。
タオルを腰に回して、鉄棒とお腹をピッタンコ

タオルを腰、あるいは背中に回して、タオルの両端を持ちます。鉄棒が高すぎると、タオルが肩の位置になってしまうので意味がありません。鉄棒にタオルの両端をかぶせ、タオルの上から握ります。鉄棒とお腹はぴったりくっつけましょう。
軽い踏み込みで、ラクラク回転

3つのコツもイメージしながら、トライしてみましょう。タオルが背中をサポートしてくれているので、軽い助走→軽い踏み込みで驚くほどクルッと回れるはずです。
タオルが滑りやすいので、必ず大人と一緒に行いましょう。もし大人が挑戦するときは、長めのタオルを使ってください。
“生涯健康”のカギを握る『逆上がり』
「『逆上がり』には、3つの技が必要です」と鴻巣さん。
- 回る
- 逆さになる
- (鉄棒の上で)バランスを取る
「これらは体操競技だけでなく、スポーツ全般の基礎になっている大切なテクニックです。つまり『逆上がり』は、生涯にわたって取り組みたい健康づくり、スポーツ活動に大きく影響を与える運動で、子どもの“生涯健康”のカギを握るターニングポイントでもあると思います。」
『逆上がり』が、その後の健康ライフに影響するとは意外な発見でした。さらに『逆上がり』は、「できる」「できない」によって達成感が明確に異なるので、成功体験は、子どもにとって大きな喜び、自信につながるそう。
「最も大事なのは楽しんで自ら取り組む姿勢です」と鴻巣さん。いくら大切な運動とはいえ無理強いすることなく、パパやママも一緒にトライしながら、親子で遊ぶ感覚で練習しましょう。