文化や習慣が違えば、子育ての常識も変わるもの。そこで、いこーよでは世界の子育て事情をシリーズで紹介。海外ではどんな子育てが行われているのか、実際に現地で暮らすママに実情を明かしてもらいます。
第2回目は、北欧のフィンランド・トゥースラ在住で2人の子どもがいる靴家さちこさんに現地の実情を聞きました! 「世界幸福度ランキング1位の国」といわれるフィンランドの教育や子育て事情、パパママの労働環境などを紹介します。国が無料で支給する「マタニティボックス」はぜひ日本にもあってほしいプレゼントです!
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フィンランドの教育システムは、プリスクール1年+小学校6年+中学3年の義務教育を経て、高校か職業訓練校に進みます。男女平等の「共働きの国」で、子どもは1歳〜2歳で保育園に入り、6歳からプリスクールに通って学校生活に備えます。
高福祉の国でもあり、子どもたちはプリスクールから、教科書や給食費など教育費は全て無償です。

公用語はフィンランド語とスウェーデン語ですが、人口の9割以上がフィンランド語話者なので、スウェーデン語学校に通う子どもたちは少数派。どちらかの親が外国人であったり、親が英語教育や国際交流への関心が高い家庭の場合、私立のインターナショナルスクールという選択肢もありますが、首都ヘルシンキか地方都市に数カ所あるだけです。
フィンランドは、公の教育機関で全国均一なレベルの教育が受けられるように管理されています。それもあって、私立の教育機関の設立がとても難しく、9割以上の学校が公立です。選択肢は多くありませんが、学校選びにあまり悩まなくてもいいところが、親としてはありがたいです。
挙手して発言できる子を育てる教育

プリスクールではワークブックの使い方と、学校の時間割に合わせた生活スタイルを身に付けます。欧州の中でもシャイでおとなしいことで知られるフィンランド人は、国際社会に対応できるよう、人前でも堂々と発言できる教育を目指しています。
女性の就業率が8割を超えるフィンランドでは、親たちが子どもと過ごす時間が少ないので、家庭でのしつけはやさしく、「人と比べて年齢相応にできなければならないこと」で子どもたちを追い立てることはしません。
たとえば、7歳ぐらいの子どもが来客時に相手にあいさつができなくても、「この子は恥ずかしがり屋なので」などと親がフォローする光景もみられます。個性を尊重したやさしい育児法ではありますが、そのまま学校生活に入ると、その子は授業で発言する時に緊張してしまうかもしれません。そこでプリスクールでは、10人〜15人の少人数で「朝の会」を開き、挙手をして発言する練習をしています。
【生活】「規律正しい」フィンランドの家庭時間

共働き家庭の育児の基本は、「両親共通のルールで子どもを育てること」です。親たちの就業時間が同じわけではないので、一方の親が不在の時に、もう一方の親が違うルールで過ごしてしまうと、「あれ、ママはパソコンゲームをやってはいけないと言ったのに、パパはいいの?」と、子どもたちが混乱してしまいます。
もう一つ大事にしていることは、「ルーティン」。たとえば、保育園では朝ごはんも提供されるので、家族で一緒に食べられる唯一の食事が夕食だけという家庭が多いです。両親が帰宅する17時〜18時頃の一家そろっての夕食の時間は、動かしがたい貴重な時間といえます。
夕食時間の前後に、子どもは習い事、親はカルチャーセンターで勉強したり、ジョギングやスポーツジムでひと汗かきます。夕方以降に自分の時間を持つためにも、時間を決めてルーティンを守ることを重視しています。
子どもたちも帰宅後すぐに宿題を済ませ、宿題が終わってから友達と遊び、習い事から帰ってきたらシャワーを済ませ、ヨーグルトやシリアルなどの夜食を食べるなど、就寝前までに一つひとつこなします。
2カ月半もある夏休みと泊まらないキャンプ
フィンランドの子どもたちの夏休みは、6月から8月半ばまでの10週間です。その期間に、両親がそれぞれ4週間ずつ休みを取って、そのうち1週間は両親の休みが重なるように(4週+4週−1週=)7週間、残りはそれぞれの両親の祖父母が1週〜2週間ずつ預かるなど、工夫して過ごします。預け先にはあまり困らないようです。
夏休み期間中は、学童保育や保育園もお休みです。ちなみに、サマーキャンプはありますが、宿泊はしません。サッカーや陸上競技などをするキャンプがほとんどですが、「キャンプ」と言いながら午後には子どもたちが帰ってきます。泊まらないキャンプは不思議ですが、少しでも長く子どもたちと一緒に過ごしたい、フィンランド人の親心のようですね。
家族の休みはフィンランド国内の親戚に会いにキャンピングカーで地方に出かけたり、互いにサマーコテージに招待し合うなどして過ごします。フィンランドでは夏らしい気候にならない年もあるので、ギリシャやトルコ、スペインなどに避暑ならぬ避寒しに行くこともあります。
【労働環境】個人が尊重される産休・育休制度
フィンランドでは、出産予定日30〜50日前から「母親休業(産休)」を取り、産休は105日まで取得することができます。産休と合わせて54日の「父親休業」もあり、両親そろって最長で18日間産休を取ることができます。
両親のどちらかが取得できる「両親休業(育休)」は158日間。産休も育休中も、雇用先からの給与は派生しませんが、社会保険庁から給料の70%が支払われます。フィンランドでは、「育休明けには、育休前のポジションに戻れる」ことが法律で守られているため、育休取得は普通のことです。ただ、家族経営企業や少しブラックな環境の企業もあり、そのような場合ですと、育休入りを機会に退職してしまう人もいるようです。
フィンランドは「個人主義」の国なので、子どもを保育園に入園させる時期も人それぞれ。ですが、子どもが1歳〜2歳ぐらいで職場復帰する人が多いです。保育園の願書は、開始希望の4カ月ほど前に提出します。就職や就学などで保育サービス利用がどうしても必要な場合、各自治体には2週間以内に受け入れ先を見つける義務があります。
家庭育児を支えることで少子化対策も
保育園を利用せずに家で育児すると、子どもが3歳になるまで国から月額338.34ユーロ(約4万4,000円)の「在宅育児手当」が支給されます。
さらに、どの家庭でも子どもが17歳になるまで「子ども手当」が支給され、第1子は94.88ユーロ(約1万2,000円)、第2子は104.84ユーロ(約1万4,000円)というように、子どもの数に応じて支給額が増えます。
【医療】健やかな成長と発達を支援する「ネウボラ」
フィンランドには「ネウボラ」という、母親の妊娠期から就学前までの子どもの成長発達支援を目的とする公のサポートセンターがあります。妊娠期間中の6回〜11回の健診をはじめ、産後も子どもが小学校に入学するまで定期健診が受けられます。
ネウボラは担当制で、乳児の時には毎月、1歳を過ぎたら年に一回、各家庭に同じ担当者が割り当てられます。子どもたちの病気や障害の早期発見のきっかけにもなり、専門医療機関の窓口の役割も果たします。利用者のデータは50年間保存されるため、親からの許可が得られれば、過去の履歴を教育機関と共有して活用することもできます。
子どもの医療費は全て無料
17歳までの子どもの医療費は基本的に全て無料です。難病や特殊な医療になると医療費が請求されることもありますが、長期の病気や障害には、社会保障手当てが出るので、家計を圧迫することはありません。
医療費には歯科矯正なども含まれ、子どもたちの健康が手厚く守られています。
【子育て】マタニティーボックスで歓迎される子どもたち

フィンランドでは母親が妊娠5カ月目に入ると、国から「マタニティーボックス」が支給されます。マタニティーボックスとは、赤ちゃんのおくるみや肌着から、寝具、絵本、避妊具まで、育児の必需品と産後の夫婦生活を応援するセットが詰め込まれた箱です。
北欧では、スウェーデンやデンマークなどで実施されていますが、いずれもおむつの試供品セットなどで、規模感が小さいそうです。70×43×27cmという箱の大きさと50品目にもおよぶ育児グッズの量は北欧最大を誇ります。
マタニティーボックスは、毎年デザインが更新されるため、社会保険庁がお披露目会見を開き、会場には世界中のメディアが押し寄せます。こんな大きな箱でこの世に歓迎される子どもたちがいるなんて! さすが幸福度1位の国と感じますね。
フィンランドと言えばサンタクロース!

フィンランドでは、北部に「ラップランド」というサンタクロースの故郷があると信じられています。北極に住んでいるとされるアメリカのサンタクロースとは違い、フィンランドのサンタは12月24日のクリスマス・イブの日に、子どもがまだ起きている時間に玄関から堂々と入ってきて、子どもにプレゼントを渡します。
初めて見るサンタに、小さな子どもは緊張し、赤ちゃんは驚いて泣きだします。その様子は、秋田県の「なまはげ」の光景に少し似ている気もします。プレゼントの数は子ども一人につき10個ほどあり、その袋の大きさにも驚きです。
自分の目でしっかりサンタを見た子どもは、小学校低学年までかなりの確率でその存在を信じます。世界中の子どもたちにプレゼントを配るサンタクロースには、お手伝いの小人「トンットゥ」(上記写真の左にいる人がトンットゥ役)がいて、一年中子どもを見張っています。昔の伝説では、トントゥによって「この子は行いが良くない」と伝えられると、プレゼントの代わりに木の棒を渡されたのだとか。
おだやかで強いフィンランドのママたち

フィンランド人は静かでおだやかな性格です。ママはベビーカーの中で赤ちゃんが泣いてもすぐに抱き上げず、「泣かなくてもいいのよ」と静かに語りかけます。ハグはよほど仲のいい人としかしませんが、小学1年生ぐらいまでの子どもなら公の場でもひざに乗せてスキンシップをします。
男女平等の国なので、父親の育児参加も進んでいますが、最終的にはママが育児関係のことは取り仕切ります。「男女平等」をかかげ、父親に育児参加を推し進めておきながらも、最終的な決定権を持つというのは大変なことです。フィンランド女性は、けたたましく吠える感じではありませんが、静かにどっしりと構える強さを持ち、子どもはその静かで大きな愛情に守られて育っていきます。

以上がフィンランドの子育て事情です。所変わればやり方も変わってくるものですが、本当にたくさんの違いがありますね。次回はギリシャ編をお届けします。
ライター
靴家 さちこ(くつけさちこ)
フィンランド・トゥースラ在住のライター・ジャーナリスト。14歳と10歳の2男児の母。5歳〜7歳までをタイのバンコクで暮らし、以来常夏の外国に住みたいと思っていたのに、国際結婚を経て寒冷なフィンランドに生息。