子供がかかる病気としてよく聞く「川崎病」。実際に、どのようなものかよく知らないという人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、川崎病に詳しい国立成育医療研究センターの小林徹先生に、症状や原因、治療法など「川崎病の基礎知識」を聞きました。
「川崎病」は全身の血管に炎症が起きる発熱性の病気

そもそも川崎病とはどのような病気なのでしょうか?
「川崎病とは、全身の血管に炎症が起きる発熱性の病気で、5歳までの子供に多く見られます。1967年に小児科医の川崎富作医師が初めて報告したことからこの病名がつき、日本をはじめとした東アジアの国々で特に多く報告される病気です。世界的にも知られた病気であり、海外でも川崎病(Kawasaki Disease)と呼ばれています」
「川崎病は合併症を起こすことがあり、特に問題になるものとして、炎症によって心臓に酸素や栄養を供給している冠動脈という血管に瘤(コブ)ができる『冠動脈瘤』があげられます。この瘤の前後では血流が悪くなるため血の塊や血栓ができやすくなり、それが血管につまることで、心筋梗塞などを引き起こすのです」
「また、心筋や心臓を覆う膜の炎症や、弁膜の障害、ほかにも肝臓や腎臓、脳、関節などにさまざまな合併症が起きることもあります。ただし、これらの合併症については、一時的なものであり、適切な治療を受ければ重症化することや後遺症が残ることもほとんどありません」
主に子供に起きる病気とのことですが、特にかかりやすい年齢などはあるのでしょうか?
「川崎病を発症するピークは1歳前後で、大部分が5歳までにかかります。また、女の子に比べて男の子がかかりやすく、重症化もしやすい傾向が見られます」
「いずれにしても小学校入学までに、80〜100人に1人はかかる計算ですので、特に珍しい病気というわけではありません」
川崎病は思った以上に身近な病気なのですね。小林先生によると患者数は年々増加傾向にあるそうで、今後が気になるところです。
「川崎病」の原因は?
では、川崎病は何が原因で起こる病気なのでしょうか?
「最初の報告から50年以上研究が続けられてきていますが、残念ながら原因についてはまだわかっていません」
「発見当初からさまざまな細菌やウィルスが原因として疑われています。実際に患者さんから細菌などが検出されることもあるのですが、再現性がない。つまり、ほかの人でも必ず同じことが起きるわけではないことが原因の特定を困難なものにしています」
「一方、東アジアの人々の罹患率が高く、親が川崎病にかかったことがあるお子さんに多く見られる特徴があります。これらのことから遺伝要因が関係していて、そこにほかの環境因子が絡んで発症する疾患ではないかという仮説が考えられています」
先生によると、医学の世界でも特に「謎めいた病気」として知られているそうで、上記についてもあくまで仮説。今のところ原因については「わからない」としか言えないようです。
覚えておきたい「川崎病」の主な症状

原因がわかっていない以上、「川崎病」か否かはその症状から判断するしかありません。以下は、川崎病の診断につながる症状です。
- 高熱が続く
- 目ヤニは出ないが、両目のうちまぶたや白目が充血する
- 唇やのどが充血で赤くなり、ひどくなると唇が割れて出血する。舌はいちごのようにブツブツが出て赤くなる「いちご舌」となる
- 全身にさまざまな形の赤い発疹が現れる
- 手のひらや足の裏が赤くしもやけのように腫れて、しばらく経つと皮が剥ける
- 首のリンパ線が腫れる
「ポイントは、まず前兆として起きる高熱です。その後に、3〜7日ぐらいでほかの症状が5つ以上揃ってくると、川崎病と診断されます」
また、これらの症状が揃わなくても、ほかの病気でないことがわかれば「不全型川崎病」と診断され、川崎病の治療が始まることもあるようです。
川崎病の治療法は「免疫グロブリン」療法
では、川崎病の治療法を教えてください。
「川崎病の1番の問題は、血管の炎症によって冠動脈瘤ができることです。ですから、その予防が第一となります。川崎病の診断後は入院することになり、そこで全身の炎症を鎮める目的で『免疫グロブリン』という製剤投与治療が一般的に行われています」
「免疫グロブリンは、おおきな副作用をおこすことは稀です。川崎病患者さんにできるだけ早期に、大量に投与することで約8割の患者さんの症状がすみやかに良くなります」
「点滴や服薬による治療が1〜2週間行われるのが普通ですが、冠動脈瘤ができてしまった場合は、血栓を抑えるための治療が必要となります」
川崎病はどのような経過をたどりますか?
「実は、川崎病は2〜3週間で自然に熱や皮膚の症状がおさまります。ですが、無治療の場合は約25%の患者さんに冠動脈瘤ができてしまい、2%程度の方が亡くなってしまいます。ですので、放っておいて大丈夫という病気では決してありません」
「免疫グロブリンを使用することで冠動脈瘤ができる患者さんは2%程度まで減ってきました。そしてほとんどの患者さんは元気に回復し、亡くなってしまうことはほとんどありません」
難しい病気のイメージがありますが、きちんと治療を行えば必要以上に恐れることはないのですね。
川崎病に似た症状の病気とは?
早めに病院に行く必要があるとは思いますが、症状が川崎病と似ている病気もあると思います。どのようなものがあるのでしょうか?
「一般的に知られるものとしては、喉粘膜の炎症、いちご舌、リンパ節の腫れ、発疹を伴う猩紅熱(しょうこうねつ)を引き起こす『溶連菌感染症』があります。また、プール熱とも呼ばれる『アデノウイルス感染症』も、発熱や喉痛、白目の充血を見せる結膜炎の症状などから間違われることもあります」
「ただ、アデノウイルス感染症による充血は目ヤニを伴いますが、川崎病の充血では目ヤニが出ないことが判断の材料にもなっています」
ほかにも、川崎病を見分ける際のヒントになることはありますか?
「全身の血管に炎症、つまりヤケドが起きるのが川崎病です。子供のうちは高熱が出ても、熱の割には案外元気であったりするものですが、川崎病による発熱の場合は、このダメージの影響でひどく不機嫌になるのもひとつの特徴といえるでしょう」
川崎病は、発熱の段階では病院で一般的な風邪と診断されることも多いようです。一度、風邪だと診断されたからと安心せず、家庭でも発熱以降の経過をよく観察し、疑いがあれば再度受診することが大切ですね。
川崎病は再発するの?
退院後、日常生活で気をつける点などはありますか?
「冠動脈瘤ができないうちか、時間経過で消失する程度の軽度なうちに症状がおさまった場合であれば、いずれ日常生活や運動も通常通りに行えるようになります。一方で、冠動脈瘤の後遺症が残ってしまった場合はこの限りではありませんので、医師の診断に従っていただければと思います」
「また、川崎病は再発の可能性が3〜4%あります。高熱が出た時は、川崎病の症状出現に注意して接する必要があるでしょう」
「さらに、川崎病を経験すると血管の収縮機能が少し落ちることがわかっています。これが将来の狭心症や心筋梗塞の原因になりうることが疑われています。塩分や脂肪分の摂りすぎには注意してあげてください」
原因が不明である以上、予防方法がわからないのがもどかしいところ。先生は「無闇に恐れず正しい知識を身につけること、早期の発見治療に努めること」が予防に代わるアドバイスと教えてくれました。5歳以下であれば、特に高熱を出した時に、熱以外にどのような症状が出ているかをよく観察し、疑わしい場合は医師の診断を仰ぐようにしたいですね。