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じゃれつき遊びで脳イキイキ 第1回:じゃれつき遊びとは?

掲載日: 2015年12月11日更新日: 2017年5月16日千谷 文子

親も子どもも先生も、抱きつく、転げ回る、押す、引っ張る、逃げる、追っかけるー! 栃木県宇都宮市のさつき幼稚園では、毎朝“じゃれつき遊び”を実践。実はこれ、大脳前頭葉を刺激し子どもの人生を豊かにする遊びとして大注目なのです。全3回の連載でその底力をご紹介。まずは“じゃれつき遊び”を知って、トライしてください。

大人たちのサンドイッチ作戦に、子どもたちは大興奮!

“じゃれつき遊び”って何?

群れて、密着する、スキンシップ遊び

朝、8時30分を回ると2歳から5歳の子どもたちが、さつき幼稚園に元気に登園してきます。そこから約20分間、各教室や渡り廊下で“じゃれつき遊び”がスタート! 

保護者も自主的に参加して、マットの上に子どもたちを投げ落としたり、肩車をしたり、親子でくすぐりあったり。いたずらな表情で先生の脚にしがみつく子、甘えた顔でお母さんに抱っこされている子も。

「これら全てが“じゃれつき遊び”です。ルールがない自由な遊びで、種類は無限。群れて密着することを目指しています」と井上高光先生。

しがみつかれたまま先生が歩き出すと、子どもたちはキャッキャと大喜び

興奮から抑制へ。数分後には静かに集中!

保護者が時間をみて帰り始めると、自然と“じゃれつき遊び”は終了。子どもたちは椅子を持って1列に並び、礼拝の準備へ。すると、さっきの興奮はどこへやら…。静かに園長先生の話に耳を傾けて、集中しています。

「初めて見る方は皆さん同様に、興奮状態から抑制へとスイッチが切り替わる早さに驚かれます」と井上先生。実はこれこそが、大脳前頭葉が刺激されている証し!

礼拝の後は、クリスマスの聖誕劇の練習へ。正座をして、先生の指示を静かに待つ子どもたち

“じゃれつき遊び”がもたらすものは何?

目が輝く=脳が活性化されている

そもそも、“じゃれつき遊び”が誕生したのは35年前。

さつき幼稚園創設者の友枝宗正先生は、小児科医の立場から健康な子どもを育てようと“冷水摩擦”を取り入れました。“乾布”ではなく、“冷水”です! 冬を迎えると子どもたちは衣服を脱ぐのを嫌がり始め、風邪を心配する保護者も…。

「そこで“冷水摩擦”前に体を温めようと、先生と子どもたちが一緒に暴れる遊びを始めました。これが“じゃれつき遊び”です。」

「我々保育の世界では、1970年代後半から、日本の子どもたちの心と体に異変が生じてきたと言われ、その状況は今も変わりません。世の中は農業から工業社会へ、人々は地方から都市へ流出し、車社会の発達、テレビやゲームの台頭。これら社会のひずみが子どもたちに影響し、気力のないボヤッとした子が増えました。ところが“じゃれつき遊び”をした瞬間、子どもたちの目がピカピカと輝いたんです。」

その後、子どもたちの目が輝くことに着目した元日本体育大学名誉教授・正木健雄先生が、さつき幼稚園児の大脳前頭葉の働きを調べ始めました。テストは、“興奮”の強さ、それを抑えようとする“抑制”の強さ、さらに“興奮”と“抑制”の切り替え具合を計るもの。その驚異的な数値が“じゃれつき遊び”が脳を活性化させる証拠になっています。

“興奮”と“抑制”のバランスが取れた大人の脳に発達

大脳前頭葉は、大脳新皮質の一つで意思や感情、意欲をつかさどるところ。その働きはいくつかのタイプに分けられます。

  1. そわそわ型:物事に集中するのに必要な“興奮”の強さも、気持ちを抑えるのに必要な“抑制”の強さも十分に育っておらず、いつもキョロキョロ、ソワソワ。幼児に多い。
  2. 興奮型:子どもらしい元気なタイプ。“興奮”も“抑制”もある程度の強さは育っているけれど、バランスが悪く“興奮”が優位に立ちます。小学校低学年から中学年に多い。
  3. 抑制型:1969年にはいなかったタイプで、1998年の調査では幼稚園から小学校低学年に多く見られました。“抑制”が優位で、自分の気持ちを上手に表現できにくいと予測できます。いわゆる大人しくてよい子タイプ。
  4. おっとり型:活発型への前段階。“興奮”と“抑制”の強さもバランスも持ち備えているけれど、切り替えに時間が掛かります。
  5. 活発型(大人型):“興奮”と“抑制”の強さ、バランスがよく、切り替えもスムーズな成人らしいタイプ。小学校高学年から中学生に多い。

下の棒グラフを見ると、男児女児ともにさつき幼稚園の年長児は、「活発型(大人型)」が多いことが分かります。

「つまり“じゃれつき遊び”により“興奮”と“抑制”が発達し、一般的に小学校高学年に見られる脳に匹敵するような子どもたちが多いというわけです。」

▼男児・大脳前頭葉5タイプの割合(2000年〜2003年平均)

年少期に約7割いた「そわそわ型」は、年長期には2割以下に減り、小学校高学年から中学生に多いといわれる「活発型(大人型)」が3割以上占める(出典:子どものからだと心・連絡会議編(2014)子どものからだと心白書2014,ブックハウス・エイチディ,p132)

▼女児・大脳前頭葉5タイプの割合(2000年〜2003年平均)

女児は男児よりも成長が著しく、年長期の「活発型(大人型)」は約6割も(出典:子どものからだと心・連絡会議編(2014)子どものからだと心白書2014,ブックハウス・エイチディ,p132)

“じゃれつき遊び”をやってみよう!

大人もガキ大将になった気分で無心で遊ぶ

もちろん“じゃれつき遊び”は、自宅でもできるもの。乳幼児期に最適な遊びですが、楽しめるなら小学生にもおすすめです!

「布団は、温かく柔らかく、子どもたちが赤ちゃんの気持ちに戻れる場所です。しかも弾力があって怪我もしにくいので、毎日5分、朝起きたら布団の上で“じゃれつき遊び”をしましょう。」

ポイントは、親も無邪気に本気で遊ぶこと

「“脳が活性化するかな”なんて、ことは忘れてください。そんな“下心”があると、“じゃれつき遊び”の世界に入り込めません。親も子どものように遊ばないと、子どもも満足を得られないのです。」

まずは「じゃれ合いっこ」から

すぐにできる、基本の遊び。大人が座って、子どもをももの上に乗せて同じ目線になる。そして頭をなでたり、体をさすったり。「あっぷっぷ」とにらめっこ、おでことおでこをつけてゴツン、ほっぺとほっぺをピッタンコ。いろんな方法でたっぷりスキンシップを取ってください。

ビューンと言って「飛行機」ごっこ

仰向けになって脚を上げ、足裏やすねで子どもを支えて、上下左右に動かします。「ビューン!」と効果音も付けると子どもは大喜び!

ふとんを掛けて「いないゾいないゾ」

子どもがふとんの中に隠れたら、「どこだ?」と親ももぐって探します。くすぐったり、子犬や子猫、子猿のようにじゃれあうと興奮はマックスに!

頭と目の怪我に気をつける

「小さな怪我は子どもの勲章。何十回も怪我をしながら、防衛本能や共感する心が育ちます。しかし後遺症が残るような大きな怪我にならないよう、注意が必要です。」

  1. 乳児の脳はゼリーのように柔らかい。2歳児ぐらいの骨は軟骨の部分が多いので、強い刺激を与えない
  2. 家具や家電など固いもの、ガラスなど割れやすいものから離れて遊ぶ
  3. 髪飾り、眼鏡は着けない。大切な顔を傷つける可能性のある、チャック付きの服などは脱いで遊ぶ。
  4. おもちゃなど物を持たせない
  5. 子どもの表情は心を映し出す鏡。楽しんでいるか、嫌がっていないか、不安そうでないか子どもの表情をよく観察しながら遊ぶ

上記に気をつけて、毎朝5分、親子で“じゃれつき遊び”を習慣にしましょう。寝起きの悪い子も、元気な一日の始まりになりますよ。

お話を聞いたのは…

  • 井上高光(いのうえ・たかみつ)さん

    さつき幼稚園理事、日本子ども学会理事。毎朝“じゃれつき遊び”を実践し、全国の幼稚園・保育園から講演依頼も多い。室内で汗をかいて無心に遊べるので、外遊びがしにくい状況の福島にも定期的にボランティアで訪れている

  • さつき幼稚園
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ライター紹介

千谷 文子

1969年生まれ。フリーの編集・ライター。ニッチな温泉エリアのご近所温泉を案内する、『さいたま湯めぐり』シリーズ3冊を出版。それを機にケーブルテレビの番組に温浴ナビゲーターとして出演。インコが頭に飛んできたり、愛犬の寝言に耳を傾けたり。そんな瞬間が幸せな日々。

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