「髪が伸びるのはどうして?」、「食べたものは胃で溶けるけど、胃は何で溶けないの?」、子どもから聞かれて、自分も「何でだろう?」—と思ったことはありませんか? 体に関する素朴な疑問について、解剖学の教授・坂井建雄さんに解説していただきました。
髪の毛はどうして伸びるの?

髪の毛は、外見のイメージを決める大切な一部分。アレンジしておしゃれをするのは楽しいものですが、ここでひとつ疑問が。髪の毛は、なぜ伸びるのでしょう?
「毛は、皮膚の一部が形を変えてできたものです。表皮の細胞層から作られた組織『毛包』の内部にある『毛母基』で増えた細胞が角質化すると、毛になります。」
増えた細胞はどんどん新しい毛になって、先にできていた部分を外に押し出していきます。毛が伸びるのはそのためです、と坂井さんは話します。
つまり頭皮に埋もれている髪の毛の根っこの部分が成長して、ところてんのように押し出されていくことにより、伸びていくということなんですね。
では、髪の毛は一日にどのくらい伸びるのでしょうか?
「一般的には1日あたり0.3 mm、1カ月で1cm くらいです。一定の期間を過ぎると抜けてしまいます。」
毛の生え変わる周期を「ヘアサイクル」といいます。一般に、髪の毛のヘアサイクルは2〜7年。髪の毛以外の体毛がせいぜい半年以内なのと比べると、かなり長期ですね。個人差もあるようですが、伸ばしっぱなしにすると90 cmくらいになるそうです。
最後に生える歯・親不知(おやしらず)。どうして遅く生えてくる?
思春期後半から20代にかけて生えてくる歯、親が気が付かない頃に生えてくる歯ということで、親不知と呼ばれるようになったとか。なぜ、この「親不知」だけこんなに遅く生えてくるのでしょうか。
「人間は、他の動物に比べて大人になるのが遅い、つまり成長期が長い動物です。親不知が思春期以降に生えるのも、人間の成長期が長く伸びたことが関係しているのでしょう。」
乳歯や永久歯の一部は、赤ちゃんがお母さんのおなかの中にいるころから基礎が作られているそうです。しかし、親不知だけは3〜4歳頃に作られるとか。人間の成長期の長さに合わせて、ゆっくり成長して登場するのかもしれませんね。
小指を曲げると薬指も曲がる!これ、どうして?

さて、今度は手の疑問。親指以外の指を曲げようとすると、他の指もつられて動きますよね。特に、小指と薬指の動きは立派なシンクロ。これはいったいどうしてでしょうか?
「小指と薬指が一緒に動くのは、指を曲げ伸ばしする筋肉とスジ(腱)の構造のせい」と坂井さんは話します。「筋肉」は骨と骨の間をつないで動かすもの、「腱」はその筋肉の端にあって、骨と筋肉をつないでいるものを指すそうです。
「指を曲げ伸ばす筋肉は、ひじと手首の間にあります。親指以外の4本を曲げる筋肉は『浅指屈筋(せんしくっきん)』と『深指屈筋(しんしくっきん)』の2 つです。」
「2つの屈筋からは4本のスジが伸びて、各指につながっています。しかし、深指屈筋は、小指、薬指のスジにつながる部分がはっきりと分かれていません。このため、スジが一緒に動いてしまい、小指を動かすと薬指が、薬指を動かすと小指がくっついてくるのです。」
なるほど! 指は独立しているように見えるけど、指そのものに筋肉はない! あるのはスジであって、腕にある筋肉で動かされている…これにはちょっと、びっくりです!
食べ物を消化する胃液。胃が溶けないのはなぜ?

食べ物を溶かすのが胃液ですが、どうして胃は溶けないのでしょうか?
「実際、胃液には胃を溶かせる力があります。そうならないのは、胃の壁が、ムチンという物質を含む粘液に覆われているからです。」
「胃液は強力な酸。これに対して、ムチンはアルカリ性の物質。つまり、ムチンが酸性の胃液を中和(無効化)することで、胃を守っているのです。」
中和とは、酸性とアルカリ性という真逆の性質が反応しあい、お互いの性質を打ち消すこと。ムチンは、酸の力を打ち消して、バリアの役割をはたしているのですね。
また「胃液が強酸性を持っている意義は、消化よりも、消毒・殺菌のためにある」と坂井さん。胃液の中で生きられる細菌はほとんどおらず、これによって私たちの健康を守っているのだとか。消化よりも大切な役割があったのですね。
アキレス腱の「アキレス」って、いったい何のこと?
かかとの上のスジを「アキレス腱」といいます。単に「かかと腱」でもいいはずなのに、なぜ「アキレス腱」という名になったのでしょうか?
「『アキレス』とは、ギリシャ神話のヒーロー。かかとの上の腱にその名がついたのは、神話の内容に由来します」と坂井さん。いったいどんな神話なのでしょうか?
「アキレスは、生まれて間もなく、母の女神・テティスによって死者の国の川に体を浸けられ、不死身の体になりました。しかし、テティスがアキレスのかかとをつかんだまま川に浸したため、かかと部分は生身のままに。アキレスは、戦いのヒーローに成長しますが、最後は唯一の弱点であるかかとを矢で射られて落命してしまいます。このことから、アキレスが射られた部分がアキレス腱と呼ばれるようになったのです。」
坂井さんによると、ヒラメ筋や僧帽筋など、ほかにも変わった名前がついた体の部位はいくつもあるとか。それぞれ面白いエピソードがありそうですね。
知れば知るほど奥深い、体に関する素朴な疑問。ご紹介できたのは5つですが、まだまだいろいろありそう。体について「何で?」と思うことが出てきたら、ぜひ、子どもと一緒に調べてみてくださいね!