子どもの予防接種は種類や回数などが多く、複雑に感じる人も多いはず。接種するワクチンの種類が増えるなど、予防接種事情はわずか数年の間にもどんどん変わります。そもそも予防接種は、すべて受ける必要があるものなのでしょうか? 仮に、予防接種前に病気にかかった場合、再度予防接種を受ける必要はあるのでしょうか?
気になる疑問について、「雑司が谷 赤ちゃんこどもクリニック」院長の青柳裕之先生に詳しく聞きました。
予防接種は必ず受けるべき?
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生後2カ月頃からスタートする子どもの予防接種。内容や時期はどのように決まっているのでしょうか。
「予防接種は、『有効な治療法がない』『死亡、もしくは重い後遺症が残る可能性がある』『感染力が強い』などの特徴を持つ病気に対して作られています。正しく接種すれば、これらの病気の発症を高い確率で防ぐことができ、万が一発症した場合にも重症化せずに済みます。接種の時期はもっとも抗体ができやすい期間を基準に決められています」
自然にかかったほうがよいと思っていた方もいるかもしれませんが、そもそもなぜ受ける必要があるのでしょうか。
「予防接種を受けずに自然に発症した場合、病気が重症化して取り返しのつかない事態になる可能性があります。たとえば、おたふくかぜなら難聴、ポリオなら脳性麻痺といった後遺症が残る可能性が高く、麻しんや百日咳、ヒブ感染症は死亡する可能性もあります」
「また、大人の女性が妊娠中に風疹を発症した場合、障害を持った赤ちゃんが生まれる可能性がとても高くなります。予防接種には副反応や、ごくまれに起きるアナフィラキシー・アレルギー症状などのリスクもありますが、受ける場合のメリットのほうがはるかに大きいのです」
覚えておきたい「予防接種の大切な役割」
また、予防接種には受けた本人が病気にかかるのを防ぐだけでなく、もう一つ大切な役目があるそう。
「予防接種を受けていないと、子ども自身が感染拡大の発端になってしまうこともあります。予防接種は本人を守ると同時に、予防接種がまだできない小さな赤ちゃんなど、周囲の人を守ることもできます。また、感染病の流行を完全に防ぐためには、人口の一定数以上が予防接種を受けている必要があります」
「たとえば、麻しんの場合、流行を防げる基準は『2回接種をしている人が95%以上いること』とWHOによって定められています。2016年に大阪で麻しんが流行したのは記憶に新しいですが、この時の感染者は子どもの頃に麻しんの定期接種がなく、接種率が低かった20〜30代が中心でした」
世界中からどんな病気のウイルスが入ってきてもおかしくない現代だからこそ、受けられる予防接種は積極的に接種しておきたいですね。
「定期接種」と「任意接種」はどう違う?
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「定期接種」と「任意接種」がありますが、どう違うのでしょうか? 任意接種のものは受けなくてもよいのでしょうか?
「『定期接種』は、国が強く接種を勧めているワクチンで、自治体を窓口として国が責任を持って接種するもの。国が費用を負担するので、基本的には無料で受けられます」
「もう一方の『任意接種』は、自分で受けるかどうかを判断し、自分でお金を払って受けるものです。任意というと受けなくてもよい印象を持ってしまうかもしれませんが、『任意接種=受ける必要がない』という意味ではありません」
「日本は残念ながら予防接種に関しては後進国で、多くの国で定期接種となっているものが任意接種だったりします。たとえば、おたふくかぜは難聴などの後遺症が残る可能性もありますが、現在はまだ任意接種のワクチンです。ですから定期接種はもちろん、任意接種もぜひすべて受けてほしいですね」
インフルエンザなど医療機関によって値段が異なる予防接種もありますが、どうしてでしょうか?
「予防接種は『治療』ではないので、すべて健康保険の適用外です。そのため、インフルエンザを含めた任意接種の費用は医療機関ごとに決定され、それぞれ金額が異なります。ただし、定期接種化も徐々に進みつつありますし、任意接種の費用を助成する自治体も多くあります」
子どもの健康を守るためとはいえ、決して安くはない予防接種の費用。金銭的な負担が下がるのはうれしいですね。助成金額は一部から全額まで自治体によって異なり、助成を受ける方法も、接種時期になると自動的に予診票が届くところもあれば、申請した人のみ受けられるところ、いったん自費で払って後日お金を受け取るところまでさまざま。お住まいの自治体の状況をぜひ一度確認してみましょう。
受ける前にかかってしまったらどうする?
では、もし予防接種を受ける前や複数回接種の合間に病気にかかってしまった場合は、どうしたらよいのでしょうか?
「一度かかると終生免疫が得られるといわれる麻しん、風しん、おたふくかぜ、水痘は、かかってしまったら受けなくてOKです。それ以外は受けることをおすすめします。また、4種混合やインフルエンザなど、いくつかの病気や型を1つのワクチンで予防している場合は、かかったものとは別の病気や型を予防するために、やはり受ける必要があります」
予防接種事情は数年の間に大きく変わります。たとえば、きょうだいで上の子は受けていないワクチンが下の子のときに出てきた場合、上の子にも受けさせたほうがよいのでしょうか?
「予防接種にはそれぞれ適切な時期があり、接種の目的も異なります。たとえば、ヒブ感染症は、ほとんどが5歳未満で発症するもの。大きくなっても発症のリスクはゼロではありませんが、予防接種の必要性は年齢が上がるとともに下がっていきます。医療機関に母子手帳を持参して、これまでの病歴や接種歴などを確認しながら相談すると安心です」
上手に受けるコツは?
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最後に、上手に予防接種を受けるコツも教えていただきました。
「たくさんある予防接種を効果的に受けるには、同時接種を含めたスケジューリングがカギ。予防接種をとりまく状況もどんどん変わりますから、新しい情報や接種の方法を常に取り入れている小児科を見つけて、すべての予防接種をそこで受けると安心です」
「小児科専門医に認定されている医師の在籍も選ぶときの目安のひとつ。同時接種やスケジュール相談ができるかどうか、直接確認すれば確実です」
予防接種は親が子どもに贈ることができるプレゼントとも言われていますが、必要な時期に必要な接種を受けられるよう、うまく付き合っていきたいですね。