もうすぐ「ひな祭り」。女の子がいる家庭では、定番行事として雛人形を飾ってお祝いする季節ですね。とはいえ、ひな祭りの意味や雛人形の役割を知っている人は意外と少ないのではないでしょうか? そこで今回は、子どもや友人に教えたくなる「ひな祭り」の雑学をわかりやすく紹介します!
なぜ雛人形を早く片付けないと嫁に行き遅れる?ひな祭りにはなぜ「ちらし寿司」を食べるの?ひな祭り雑学1:童謡「うれしいひなまつり」には間違いがあった!

今回お話を聞いたのは、一般社団法人「日本人形協会」の副会長であり、株式会社倉片人形の社長・倉片順司さん。「雛人形は、本当に奥深いですよ」と語る同氏に、ひな祭りにまつわる面白い雑学を教えてもらいました。
まず、ひな祭りで必ず耳にする有名なあの童謡に、驚くべき事実がありました!
「『うれしいひなまつり』という童謡がありますよね。『あかりをつけましょぼんぼりに〜』というあの歌です。実はあの歌詞には、2つ間違いがあります」
「『お内裏様とお雛様〜』という歌詞がありますが、実はお内裏様というのは、並んでいる2人の総称なんです。ですから『お殿様とお姫様』と呼ぶのが正しいですね」
「もうひとつは『赤いお顔の右大臣〜』という部分。赤い顔をしているのは、実は左大臣なのです」
この間違いは作詞をしたサトウハチローさんも認めていて、ご本人はこの歌をあまり歌いたがらなかったのだとか…! 衝撃の事実です。
ひな祭り雑学2:ひな祭りとは「女の子の幸せな結婚を願ってお祝いすること」
そもそも、ひな祭りにはどのような意味があるのでしょうか。
「ひな祭りの歴史は平安時代まで遡ります。『上巳の節句』といって、3月の始めの巳の日に、無病息災や五穀豊穣を神様にお供えをして感謝していました。また、紙の人形を身体になでつけることで災厄を人形に移して川に流していました」
「このような行事と、女の子の間で行われていた人形を使った遊び(ひいな遊び)が重なり合って、だんだんと現在のような『ひな祭り』に変化してきたといわれています」
「節句」とはもともとは「節供」と書き、節目のときに神様にお供え物をしてお礼をすることを意味していたとのこと。人形を飾ってお祝いをする『祭り(フェスティバル)』の意味合いを持つようになったのは、江戸時代以降だそうですよ。
「また、雛人形のお姫様は、実は生まれた女の子の将来の姿です。横に並んでいるお殿様は、未来の旦那様ということになります」
「毎年3月3日にひな祭りのお祝いをする家庭は多いと思いますが、本来の意味は、神様に『将来、幸せな結婚ができますように』とお供えをしてお願いすることなのです」
ただお祝いをしているだけかと思いきや、そんな意味があったとは知りませんでした。
ひな祭り雑学3:雛人形は結婚式の様子を表している
雛人形の飾りの中には、鏡台や針箱、茶道具など生活用具らしきものがありますが、あれは嫁入り道具の雛形なのだそう。そして、雛人形全体で理想的な結婚式の様子を表しているそうです。
「昔の結婚式は夜9時から11時の間に行われていました。当時は電気がなかったため、ろうそく立てに火を灯して、結婚式をとり行っていたのです」
「そこで登場するのが、雛人形の後ろにある『ぼんぼり』です。『ぼんぼり』の語源は『ほんのり』なんですよ。結婚式のことを『華燭(かしょく)の典』ともいうのですが、華燭とはろうそく立てに火を灯すこと。ろうそくに明かりを灯した宴=結婚式というわけです」
ひな祭り雑学4:雛人形、それぞれの人形には深い意味がある

では、雛人形それぞれについてもみていきましょう。倉片さんによれば、人形の数や表情に大きな意味があるのだとか。
お殿様・お姫様
「最上段にいるお殿様とお姫様は、結婚する主役の2人です」
三人官女
「宮中にお仕えする人たちで、結婚式の承認をする役割を担っています。いわば神社の巫女さんです。3人の中でも、真ん中の女性が一番上位であり、トップとなって取り仕切っている人。よく見ると眉毛を剃っていて、お歯黒を塗っています。つまり、真ん中の人だけ既婚者なんですよ」
五人囃子
「結婚式を盛り上げる役割を担っていますが、実はこの5という数字に意味があります。昔から、両親と子ども3人の5人家族は、バランスがとれた理想的な家族構成だといわれています。また、5は1から9までの数字の真ん中であり、上からも下からもバランスがよい数字だと考えられてきました」
「魔方陣をご存知ですか? 縦・横・斜めの3マスずつ合計9つのマスに、1から9までの数字を入れていき、どの列の合計も同じになるように並べるというものです。実はこれ、中央に5がこないと成り立たないですよね」
「このようなことから、5という数字を中心に世の中が回っていると考えられ、理想的な家族に恵まれますようにと囃し立てているのが、五人囃子の役割です」
左大臣・右大臣
「婚礼を見守っているガードマンで、弓と矢を持って、敵の侵入を防いでいます」
三人仕丁
「3人それぞれ表情が違うのですが、ここにも意味があります。人生における喜怒哀楽を表現しているのです」
「泣いている顔は、まだまだ世の中の仕組みがわからず、メソメソしていることが多い若い頃の姿。怒っている顔は、キリリとした表情ともとらえられますよね。自信もついてきて、しっかりとした顔つきになる壮年期の姿です。そして笑っている顔は、老年期の姿。いろいろなことを経験し、穏やかな人になっている、ということなのですよ」
ちなみに、いま紹介した人形の数は、合計15体。15は先程も出てきた魔方陣の一列の合計数からきているのだそうです。これらはすべて想像や作り話ではなく、しっかりとした裏付けがあって作られているとのこと。
ひな祭り雑学5:雛人形は子どもに触らせてこそ意味がある

昔から、人形を身体になでつけることで、その人の災厄を人形に移すと考えられてきました。つまり、触ってはじめて厄が移るのだそうです。
「人形」とは元々どんなもの?「雛人形を『汚れるから触っちゃダメ』などと言うお母さんがいますが、触らせることによって、その子の厄を雛人形に移せるので、ぜひ触らせてあげてほしいのです」
「雛人形は、あなたの分身であり、大切なものだということをしっかり説明して、たとえば必ず手を洗ってから触る、人形を扱うときはそっと大切に触る、などルールを作るのはどうでしょうか」
「『触ってはいけない』と言うと、子どもはこっそり触ろうとします。その結果、汚したり壊したりしてしまい、親に怒られるという悪循環が起きることも。それでは、雛人形本来の意味がなくなってしまうので、ぜひお子さんと一緒に雛人形を飾ってほしいと思います」
ひな祭り雑学6:雛人形は代々受け継ぐものではない?
親が自分のときに使った雛人形をそのまま子どもに飾る人も多いようですが、できれば子ども用の雛人形を用意してほしいと倉片さん。
「前段で説明しましたが、雛人形は持ち主の将来の姿。親の雛人形はあくまでもお母さんのものであり、並んでいるお殿様とお姫様はお父さんお母さんの姿となりますよね」
「飾ること自体は素晴らしいのですが、子ども自身の雛人形を用意してあげると、その子の厄を移す役割を果たし、将来幸せな結婚ができるようにとお祈りできます。同様の理由から、女の子のきょうだいがいる場合は、やはりそれぞれの雛人形があると良いですね」
同じ雛人形を何体も購入するのは現実的に難しいことが多いので、そんなときは紙製や陶器など、少し形やサイズの違った雛人形を用意するのもいいかもしれませんね。
「クリスマスツリーはクリスマスの飾りですが、雛人形はひな祭りの飾り物ではなく、持ち主の分身であり、厄を肩代わりしてくれるものです」と倉片さん。毎年親子で触って、飾って、人形を買ってくれた人へ感謝しながら、大切にしていきたいですね。