きょうだいがいる家庭の多くが悩む「きょうだい喧嘩」。何度も繰り返されると、親もウンザリしてしまいますよね。また、喧嘩が起こったときに、介入するのかしないのか、叱るのか叱らないのか…など、悩むポイントも多々あります。
そこで今回は、男性保育士の草分け的存在として長年保育所に勤務し、現在は「KANSAI子ども研究所」で所長を務める原坂一郎さんに、きょうだい喧嘩での親の関わり方について話を聞きました。
きょうだい喧嘩がなくなる方法がある!?

きょうだい喧嘩は日々起こるものなので、親としてはどう対応すべきか迷う場面が多々あります。実際に喧嘩が起きたときの声がけのコツなどありますか?
「きょうだい喧嘩で悩むご家庭は多いですよね。ですが、関わり方を理解して子供たちと接するだけで、きょうだい喧嘩が激減することもあります」
そこで早速、親の関わり方も含めて、普段起こりがちな事例も交えながら実際の方法を解説してもらいました。
きょうだい喧嘩に「親は堂々と介入せよ!」
「『きょうだい喧嘩に親が介入しない方がいい』『勉強として子供同士放っておけばいい』という人がよくいますが、正直に言って喧嘩から逃げる自分への正当化の言葉ではないかなと感じることがあります」
「私は『きょうだい喧嘩には親が介入OK!』と考えていますので、できるだけ親御さんにきょうだい喧嘩に関わってほしいと思います」
「ただし、条件があります。それは『あくまで第三者の立場から関わる』ということです。親は仲裁者でもなければ、裁判官でもないことを頭に入れておくことが大事です」
「どちらの味方もする」スタンスを貫く
「第三者の立場という意味では、『きょうだいどちらの味方もする』というスタンスを貫くことがおすすめです。一般的に、『どちらの味方もしない』という対処法に陥りがちですが、これではますますこじれます」
「NG行為の代表は、きょうだい両方を叱ることです。例えば、きょうだいでおもちゃを取り合っていたとします。そのとき、上の子には『お兄ちゃんなんだから、弟に貸してあげなさい』と叱り、下の子には『あなたもあなたよ。それくらいで泣かないの!』と叱る。これは、どちらの味方もしていないパターンです」
「また、『言い分を否定すること』も避けましょう。よくある例としては、どうして喧嘩になったのかを聞いておきながら、『わざわざ見せびらかすからでしょ!』などと叱るケースです。子供が理由を話してくれたのに、その言い分を頭から否定して、喧嘩になった理由を親が勝手に解説しています。子供は当然不満に感じるでしょう」
「ほかにも、『やられたらやり返せ!』という叱り方もみられますが、暴力で解決するようになってしまいますし、本当にやり返した場合に、子供は力加減がわからず、とんでもないことになったりするので、おすすめできません」
「一方で、『喧嘩するなら、あっちでしなさい!』と叱る親もいます。目の前で喧嘩をされることは気分が良いことではないですが、この場合も喧嘩の解決にはなっていません。こういった介入の仕方では、親から叱られた機会が増えただけになるので、きょうだい間の関係性はさらに悪化し、残念ながら今後も喧嘩が増える一方です」
大切なのは「共感」と「同情」

では、親がきょうだい喧嘩に介入する際の良い方法を教えてください。
「まずは、両者の言い分を聞きます。そのうえですべきことは2つだけ。『どちらにも共感し、どちらの気持ちもわかってあげること』です。たとえば、先程のようなおもちゃの取り合いが起こった際は、こんな介入をしてみてください」
母『どうしたの?』
弟『お兄ちゃんがおもちゃを貸してくれない!』
母『そう。お兄ちゃんがおもちゃを貸してくれないの。お兄ちゃん、なんで貸してあげないの?』
兄『だって、今使い始めたばっかりだもん。すぐに貸すのは嫌だ』
母『そりゃそうだよね。お兄ちゃん、すぐに貸すのは嫌だったんだって』
弟『だって、僕も使いたいもん』
母『そうね、使いたいよね。お兄ちゃん、○○も使いたいんだって』
「このような具合で話を進めていきます。子供は自分の言い分をしっかり聞いてもらえて、共感してもらえることで、半分は満足することが多いのです」
確かに、この形であれば、お互いを叱るよりもずっと穏やかだと思います。とはいえ、本当にこのような感じになるのでしょうか。
「いつも叱ってしまっているママパパの中には、『実際に生活していたら、こんな穏やかな対応は難しい』と感じる人がいるかもしれません。ですが、これらの介入法は、自分の友人同士でトラブルが起きたときなら、誰でも自然にやっている方法です」
「友人同士で口論や夫婦喧嘩の相談されたとき、『あなたがそんな言い方するからでしょ!』などと、相手の言い分を否定しませんよね。理由をしっかり聞いて、『そう、大変だったね』と共感や同情するはずです」
「自分の子供だからつい感情的に叱ってしまうかもしれませんが、普段大人が相手ならしていることをそのまま子供にすればいいだけです。難しいことはありませんよ」
負けた側のフォローも重要!
この方法であれば、どんなきょうだい構成のケースでも介入法は同じなのでしょうか。
「そうですね。基本的には、どんな喧嘩のパターンでも『両者の味方をし、共感・同情すること』が大切です。親が見ていないところで始まった喧嘩や、状況把握が難しい喧嘩でも同様です」
「男の子同士は暴力が伴いやすいため、先に手を出した方を叱りがちですが、まずは手を出した側の言い分を聞き、気持ちに寄り添った上で、『でも、叩くのは良くないよ』と伝えるといいですね」
「女の子同士の場合は、口が立つので言い合いになりがちです。『それは嫌だったね』とそれぞれの気持ちにしっかり共感することで、『ママは私の気持ちをわかってくれた』と気持ちが満たされ、叱ったときとは全然違う結果になることが多いですよ」
そして、もうひとつ大切なのは、喧嘩後のフォローなのだそう。
「喧嘩をして負けた側、我慢したり譲ったりした側には、必ずその後にやさしい言葉をかけてあげてください」
「例えば、お兄ちゃんが我慢したことで喧嘩が解決したのであれば、『よく我慢したね。ママちゃんと見てたよ』と声がけをする。そのときには、こっそりお菓子をあげてもいいでしょう。そうすることで、喧嘩では嫌な思いをしたけれど、ちゃんとママは自分の味方をしてくれていると感じられ、親への信頼度も増します」
きょうだい喧嘩が激減する予防法は?

ここまで、きょうだい喧嘩が起きたときの介入法を教えてもらいました。では、きょうだい喧嘩が起きる前に、日常生活の中で親が気をつけておくべきことや、できることは何かありますか?
相手の良いところを聞いておく
「喧嘩がよく起こるきょうだいは、相手に対して日常のストレスが蓄積していることも原因のひとつです。つまり、普段から相手の印象が悪いといえます。そのため、ひとつのケア法としては、普段から子供たちに相手の良い部分を聞くことをおすすめします」
「子供と一対一になったときなどに、『妹のどんなところが好き?』などと、何気なくきょうだいの良いところを聞いておきます。そして、『お兄ちゃんが、○○のことかわいいって言ってたよ』などと、それを今度は相手がいないところでさり気なく伝えておくのです」
「お兄ちゃんには、『○○(妹)が、お兄ちゃんは絵がうまくてすごいなぁって言ってたよ』などと言っておきます。そうすることで、『普段はそんなふうに思ってくれているのか!』とお互いの印象が良くなります」
確かに、自分がいないところで褒められていた話を聞くと、すごくうれしいですよね。大人にも応用できる方法だと思います。
頑張りを認める言葉がけも効果大
「また、きょうだいそれぞれに、普段からの頑張りを認める言葉をかけることも、とても効果的です。上の子はどうしても我慢していたり、親の知らないところで下の子の面倒をみてくれていたりもしますよね。『さっき妹が遊んだおもちゃまで片付けてくれたね、ありがとう』といったように、その頑張りを認めてあげてください」
「子供の良い面を普段から見ていて伝える。すると子供は自尊心が高まり、相手を思いやる気持ちが募ります。その結果、自然に喧嘩が起こりにくくなりますよ」
声がけの内容やフォローの仕方も意識
「また、お菓子を配るとき、後になった子に対して『大きい方を残しておいたよ』と伝えたりすることは、たとえ本当でなくても有効な声がけです。ほかにも、たとえば目の前に三輪車があって、きょうだいどちらも乗りたがり、お姉ちゃんが強引に先に乗ったとします。そんなときは、妹の番がきたとき、親が後ろから押してあげたり、少し長めに走らせてあげたりすると、先に取られたことが何でもないことのようになるはずです」
「きょうだいのどちらもが満足できるような声がけやフォローを常に意識することで、きょうだい喧嘩がぐっと減ると思いますよ」
取材後、筆者も実際に試してみたところ、喧嘩三昧だった日々がかなり穏やかになりました。特に、普段から相手の良いところを伝えるようにしたことで、きょうだい間の関係が良くなったように感じます。
きょうだい喧嘩が絶えない家庭は、ぜひ今回紹介した介入法とケア法を試してみてはいかがでしょうか?