子供の夏風邪として知られる「ヘルパンギーナ」。同じ夏風邪として有名な「手足口病」と症状が似ているとも言われています。
そこで今回は、ヘルパンギーナの症状や感染経路、治療法、見分け方などについて、国立成育医療研究センターの生体防御系内科部感染症科の船木孝則先生に聞きました。
ピークは7月! 5歳以下は注意が必要
あまり聞き慣れませんが、ヘルパンギーナとはどんな病気なのでしょうか。
「いわゆる夏風邪の一種で、主にエンテロウイルス属のウイルスによって起こる感染症です。エンテロウイルス属の中でも、コクサッキーウイルスA群と呼ばれるウイルスが原因となるケースが多いですね」
「基本的には夏場に流行する病気で、5月くらいから少しずつ感染例が増えていきます。ピークを迎えるのは6月〜7月にかけてですね。その後は徐々に減っていき、10月頃にはほとんど見られなくなります」
何歳くらいの子供がかかりやすいのでしょうか。
「かかりやすいのは5歳以下の子供です。もっとも感染数が多いのは0歳〜1歳の乳幼児と言われています。感染経路は、大きくわけて『飛沫感染』と『接触感染』の2つ。唾の飛沫にウイルスが含まれているので、咳やくしゃみ、感染者に触れた手を舐める、目をこするなどでも感染します」
子供は、いろんなものを口に入れたり、目をこすったりすることが多いので注意が必要ですね。
「発熱・喉の痛み・喉の水ぶくれ」が3大症状!
具体的には、どのような症状が見られるのでしょうか。
「代表的な症状は、発熱、喉の痛み、喉の水ぶくれです。喉の症状はいわゆる『のどちんこ』と呼ばれる口蓋垂周辺にできる水ぶくれで、1mm〜2mm程度の小さな水疱がたくさん出ることが多いです」
「発熱に関しては、年齢によって差がありますが、39度台の高熱が突然出るケースが多く、なかには40度を越える熱が出ることもあります。夏風邪と言われますが、咳やくしゃみ、鼻水といった典型的な風邪症状はあまり目立たないのも特徴の1つです」
「特に前兆などはなく、感染してから2日〜4日の潜伏期間の後に、上記の3大症状が見られるようになります」
ほかにも症状はありますか?
「稀(まれ)ではありますが、高熱が出ることで熱性けいれんを起こす場合もあります。ヘルパンギーナと熱性けいれんの好発年齢は類似しています」
「熱が急激に上がってくるときに起こりやすいと言われているので、体がビクンビクンと動いたり、体全体が突っ張たり、目線が合わないなどの異変が見られたら、病院に連れていきましょう」
「熱性けいれん」の原因&症状&対処法 てんかんとの違いも紹介「また、ヘルパンギーナは大人にも感染します。症状や治療法は基本的に子供と同じです。子供が感染した場合は、家族でマスクの着用や手洗いをするなど、できるだけ予防を心がけましょう」
手足口病との違い・見分け方は?
発熱と喉の痛みなどは、症状が似ている病気もありそうです。ヘルパンギーナと間違えやすい病気はあるのでしょうか?
「同じく夏風邪として知られる『手足口病』ですね。この病気はヘルパンギーナの親戚のようなもので、同じエンテロウイルス属に属しているウイルスが原因で起こります」
「そのため、発熱や喉の痛み、喉の水ぶくれの3大症状や好発年齢まで似ています。ですが、手足口病はその名の通り、手や足にも水疱性の発疹が出ます。そこが大きな違いです」
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「もう1つ、『溶連菌感染症』という病気も、高熱や喉の痛みといった症状が似ています。こちらはA群β溶血性連鎖球菌という細菌による感染症で、主に3歳以上の子供に見られる感染症です」
「ただし、溶連菌感染症の場合は、喉に水ぶくれは見られません。そのような違いからある程度判断できますが、溶連菌感染症には、喉の奥をこすって溶連菌に感染しているかを調べる検査があります」
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高熱時は水分補給が重要!
では、ヘルパンギーナの治療法を教えてください。
「このウイルスには、インフルエンザのような特効薬がまだありません。そのため、高熱や喉の痛みを抑えるための解熱鎮痛剤を処方したり、水や食事がとれない場合には、脱水症状を防ぐために点滴で水分を補うなどの対処療法を行うのが基本です」
「一般的な経過として、熱は2日〜3日で下がり、同時に喉の痛みや水疱も収まっていきます。完治するまでの目安は1週間程度です。病院で処方された薬はきちんと飲ませて、高熱時には脱水症状を起こさないように、こまめに水分を摂取させてあげましょう」
高熱時は平熱時に比べて、体がより多くの水分を必要とします。さらに、喉の痛みからも食欲が落ちてしまいがちなので、電解質が含まれた経口補水液を飲ませてあげるのもいいそうです。
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ヘルパンギーナはウイルスによる感染症ですが、登園や登校の基準はどういったものでしょうか。
「現在のところ、登園・登校に関して、法律上の明確な決まりはありません。それぞれの地域で、流行の規模が大きくなってきた場合には、学校単位で判断されることになるでしょう。熱や喉の痛みといった症状がなくなり、飲食がいつも通りにできるようになれば、登園・登校を再開させるのが現実的な対応かと思います」
では、熱が下がったら、登園・登校させても大丈夫なのでしょうか。
「熱が下がり、本人が元気になれば問題ないのですが、実はヘルパンギーナの特徴として、体が回復した後も2週間くらいは唾の飛沫の中にウイルスが出ると言われています。ですから、その期間中は、くしゃみや咳で人にうつす可能性があることは理解しておいていただく方がいいと思います」
病院でヘルパンギーナと診断された場合には、病名を学校側にきちんと伝えておくのが親切ですね。
病院にすぐ行けない場合は市販薬の利用も
最後に、ヘルパンギーナと思われる症状が出ていて、すぐに病院に行けない場合は、どのように対応すればよいのでしょうか。
「高熱が出ている時に1番気をつけて欲しいことが脱水です。ですから、先ほど申し上げたように、とにかく水分補給を心がけてあげること。また、市販されている子供用の解熱鎮痛剤が手に入るのであれば、それを飲ませてあげることも1つの方法です」
子供の風邪薬が一部使用禁止に! 副作用&市販薬の選び方も紹介「解熱鎮痛剤で熱や喉の痛みが和らげば、水分補給や食事が少しはスムーズになるはず。熱が高いけどすぐに病院へ行けない場合は、このように様子を見ながら対応して、なるべく早く病院に連れて行ってあげると安心です」
高熱は子供にとって負担が大きいもの。水分補給を心がけながら、喉の通りがよい食べ物を用意してあげるのなどのサポートが大切なのですね。