ベビーカーに赤ちゃんを乗せたまま混雑した電車やバスに乗るのはためらうものの、どうしてもベビーカーで移動したい時があるのも事実。そんな時に知っておきたい「ベビーカーマーク」や、公共交通機関でのベビーカー利用時の注意点を専門家に伺いました。
「ベビーカーマーク」って何?
「ベビーカーマーク」は、ベビーカーが優先的に利用できるスペースを示すマーク。2014年3月に国土交通省がデザインを決定・公表し、その後各公共交通機関等で統一して用いられています。

このベビーカーマークはどのような経緯で生まれたのでしょうか。公共交通機関のベビーカー利用について研究し、ベビーカーマークを検討する協議会のメンバーでもあった神戸女子大学の西本由紀子さんにお話を伺いました。
「『ベビーカーマーク』が生まれた背景には、公共交通機関のバリアフリー化にともなって、ベビーカーで外出する人が増え、そのほかの乗客とのトラブルや意識の差が生まれてきたことがあります。こうした問題について話し合うため、2013年に国土交通省で『ベビーカー協議会』が設けられました。」
ベビーカー利用者と他の乗客の相互理解が大切
以前から混雑時のベビーカー利用については、一般の利用者から「スペースをとって邪魔だ」「危ない」という意見が多く聞かれていたため、当初はベビーカーを安全に利用するためのルールを定めて普及・啓発しよう、という動きだったそう。しかし、協議を重ねるうえで方針が変わっていったのだとか。
「“こうすべき“というルールはかえってベビーカー利用者を縛ることになり、ベビーカー利用者や乗客の関係が余計ギクシャクするのではないかという声が挙がったんです。そこで、『ベビーカー利用にあたってのお願い』という形で、ベビーカーの利用者には安全な使用方法を伝えると同時に、周囲の方には理解をしてもらう方向になりました。」
ベビーカーの利用自体を規制するのではなく「子育てしやすい環境」を作るため、みんなで歩み寄ろう、という方針に変わったのですね。
「さらに、混雑時でもなるべくスムーズに乗車できるように、交通事業者にはベビーカーが優先的に使えるスペースの設置をお願いすることにしました。事業者ごとに異なるマークを統一させる狙いもあり、『ベビーカーマーク』が生まれました。」
交通機関によってスペースの有無や場所は異なりますが、電車の場合は車両の前後の端にある車いす優先スペース、バスの場合はベビーカーを固定できる座先付近にベビーカーマークが表示されており、ベビーカーが優先的に利用できることが示されています。
混雑時は畳む?畳まない?電車・バスでのベビーカー利用
電車・バスでの基本的な利用方法

では、実際に電車やバスに乗るとき、どのようにベビーカーを利用したらよいのでしょうか。
「電車の場合、ベビーカーマークがついている場所はあくまで優先的に利用できるスペースですので、基本的には電車のどこに乗っても問題はありません。ただ、混雑など車内の状況によっては、ベビーカーマークのスペースを利用したほうが周囲の理解を得やすいと思います。よく電車を利用するなら、コンパクトなベビーカーを使うことを考えてもいいでしょう。」
「バスの場合は、ベビーカーを畳まずにベルトで固定できる座席があります。揺れる車内で畳んだベビーカーを持って赤ちゃんを抱っこするよりも遥かに安全であるとの実験結果もありますので、基本的には畳まずに乗って、固定するようにしてください。」
混雑時は『赤ちゃんが安全かどうか』を見極めて
混雑時には周囲の目もあってベビーカーを畳むべきか悩むケースも多いものですが、西本さんによれば、必ずしも畳むのがベストとも限らないそう。
「車内が少しでも混んだら畳んだほうがいいのでは、と思うお母さんもいると思いますが、折り畳んだベビーカーと荷物を持ち、赤ちゃんを抱っこ紐で抱っこすると、結局大きくスペースを取るんですね。混雑により赤ちゃんが危険にさらされるリスクが低ければ、ベビーカーを畳まずに乗っていてよいと思います。」
「ただ、非常に混雑していて急ブレーキで大人がベビーカーの上に折り重なる危険があるなど、周囲の状況によっては畳んで抱っこをしたほうが良い場合もあります。大切なのは『赤ちゃんが安全かどうか』です。」
ベビーカー利用時も、念のため抱っこ紐はすぐに使えるように持っていき、状況に応じて使いわけるのがベストのようです。
やってしまいがちなマナー違反って?

基本的にはベビーカーを畳まず乗車できるとのことですが、最低限のマナーを守ることは、大切なこと。電車やバスでベビーカーを利用するときに、やってしまいがちなマナー違反についてもお聞きしました。
「赤ちゃんは抱っこしていて、荷物だけベビーカーに乗せている方を見かけます。混雑している車内ではスペースが限られているので、荷物を網棚に乗せるか、同伴者に持ってもらうかしてベビーカーを畳むようにしたほうがいいですね。」
また、“子どもをほったらかしにしている”というのもマナー違反と思われるそう。
「ベビーカーの利用について学生にアンケートを取ったところ、子どもが泣いているのが迷惑なのではなく、親が相手をしていないことが不満であるという結果が出ました。携帯やスマホにかかりきりになったり、集団で話に夢中になっていたりして、グズっている子どもの相手をしていないのも、他の利用者の不満の対象になってしまいますので、注意しましょう。」
西本さんによると、乗り降りの際にもひと声あるだけで印象がだいぶ変わるのだとか。
「ベビーカーだからといってあまり小さくなる必要はないのですが、やはり乗り降りなどの時に『すいません』や『ここで降ります』など、ひと声かけるだけで周りの人が受ける印象も変わります。自分が子どもを産む前は子ども連れをどう見ていたかな、と思い出してみるもの大切ですね。」
また、特に集団で移動する場合は、ホーム上などで人の邪魔になっていないか、ベビーカーの置き場所にも気をつけておきましょう。
ベビーカーを安全に使うために
また、「ベビーカー協議会」では、こうした「子育てしやすい環境作り」と同時に「子どもの安全」のための注意喚起も行っているそう。
「重大な事故は起きていないのですが、エスカレーターを降りるときにベビーカーの一部が引っかかった、などヒヤリとする事例が報告されています。ベビーカーマークには『利用の禁止』を意味するマークもありますので、マークで禁止されている場所では利用しないようにしてください。」
電車の場合は、車内だけでなく、ホームで電車を待つ間や乗降時にも注意すべきポイントがあるのだとか。
「ホームには雨を流すための傾斜がついていることがあります。ホームで電車を待つときは、必ずホームに対して平行にベビーカーを止め、車輪をロックするようにしましょう。また、電車とホームの間には段差やすき間があるので、電車から降りるときはまず自分が降り、ベビーカーは後ろ向きで降りたほうが段差につまずかずに移動することができます。」
マナーと安全に気をつけて、ベビーカーでのお出かけを楽しもう!
マナーを守って、赤ちゃんの安全に気をつけて使えば、きっとベビーカーでのお出かけもより安心・安全なものになっていくはず。
「まだ子どもが長時間歩かない時期だと、どうしてもベビーカーを使っての移動が必要になり、移動で不便を感じることもあるかと思いますが、あとで振り返るとベビーカーを使う時期というのはとても短いので、ベビーカーで一緒に出かける時間を楽しめるようになればと思います。」
ベビーカーマークの利用が始まってからまだ1年半ほど。これからもベビーカーを利用する人と、周りの人の両方で、「子育てしやすい環境作り」「子どもの安全」のために、努力していけたらいいですね。