「赤ちゃんが生まれたのに、夫が育児をしない」「父親の自覚が芽生えない夫にイライラ…」など、産後の不満から夫婦仲にヒビが入ってしまう「産後クライシス」。なぜこんなことが起こるのでしょうか? 原因や乗り越え方について、産後クライシスに詳しい内田明香さんに聞きました。
夫婦の危機!? 最近話題の「産後クライシス」とは?

新しい家族が生まれて、パパもママも幸せの絶頂!と思いきや、逆に夫婦仲が最悪になってしまう…。それが「産後クライシス」です。
「産後クライシスとは、出産から子どもが2歳ぐらいになるまでの間に、夫婦の愛情が急速に冷え込む現象です。特に女性側は顕著で、初めて子どもを持ったカップルを対象に行った調査では、『配偶者を本当に愛していると実感する』と答えた女性の割合が、妊娠中は約7割だったのに、子どもが2歳になるころには約3割に下がったというデータがあります。」
産後クライシスで夫婦関係にヒビが入ると、最悪の場合、離婚につながることもあるそう。なぜこんなことになってしまうのでしょうか?
「ママは出産で体力が落ちている上、昼夜問わず授乳に追われるので、まとまった睡眠が取れずフラフラになっています。一方パパは、自分は外でせっせと働いているのに対し、ママは家で子育てしながら休息していると思いがち。この認識のズレが原因の一つになっています。パパはママがどんなに大変な思いをして子育てしているか、気づいていないことが多いんです。」
そのため、例えばパパが夜泣きしている赤ちゃんを見て「明日、朝早いんだけど」など、何気ないひと言がママの心に突き刺さるのです。
産後のママはホルモンバランスの影響で精神面も不安定に

こうしたパパの理解不足がある一方で、産後はママ自身が精神的に不安定になることも「産後クライシス」の一因のよう。
一般的に、産後のママは母乳を出すのに必要な女性ホルモンの影響で、考え方が攻撃的になるほか、ストレスや不安を感じやすくなるそうです。
「個人差はありますが、特に初めての出産の場合、ママはさまざまな不安に駆られがち。ゆっくり赤ちゃんがお昼寝している間ですら、携帯電話の充電ケーブルが赤ちゃんの首に絡まったりしないだろうか、寝ている間もちゃんと息をしているだろうか、など過剰なほど心配になるものです。」
さらに、産後は赤ちゃん中心の生活になるため、友人関係にも変化が起こります。
「ママになると、出産前のように友達と遊びに出ることが難しくなります。そのため、ママは昔からの友達と疎遠になりがちです。」
自分の時間がなくなってしまうので、遊びに行けなくなる上、関心も変わるので電話やメールの内容がかみ合わなくなりがちです。産後のママは育児の不安を抱え込むだけでなく、夫のいない昼間は特に孤独感を感じやすい状態にあるのです。
パパの協力が大切!子育ての参加方法を見直そう

このように、出産後のママは体力的にも精神的にもヘトヘトなので、パパの協力が大きな力になります。掃除や洗濯など家事の分担ももちろん助けになりますが、まずは子どもをお風呂に入れたり、寝かしつけたりなどの育児に参加するほうがおすすめだと内田さん。
「子どもと接する時間が多いほど、パパの子どもへの愛情が増えるもの。パパが育児をすることで、父親としての自覚も芽生えるうえ、ママと育児の大変さを共有できるようにもなります。」
「嫌々ではなく、育児に自発的に参加してもらうためにも、まずは、パパに何をしたいかを聞きましょう。パパにお願いする場合は、週に2日、曜日を決めてお風呂に入れてもらうなど、継続的にお願いできる形にするといいですね。」
もちろん、パパが育休を取れる場合はそのほうがおすすめです。育休を取れない場合も、産後1週間有休を取るだけでもママは助かります。
「育休が少しの期間であっても、パパが責任を持って我が子の命を預かるというきっかけになります。」
ただし、このときに気をつけたいのが休みを取るタイミング。ママが育児で大変な時期をサポートするのが目的なので、初めての出産なら退院してから、第二子以降は上の子の面倒を見るために入院中からの育児参加がベストだそうです。
また、ある程度パパの育児スキルが上達して、子どもを安心して任せられる場合は、こんな方法も。
「土日の午後に数時間でも子どもと過ごして、ママの自由時間を作ってあげると、ママのリフレッシュになるだけでなく、パパへの感謝が生まれますよ。」
夫婦で一緒に産後クライシスを乗り越えよう
このほかにも、夫婦が外のパワーをうまく借りて「楽をする」ことが産後クライシスの予防につながるそう。パパやママ友などにママが育児の不安や心配を気軽に話せる状況を作ることも大切です。
産後クライシス予防法
- 出産前に、「両親学級」や「パパママ学級」に夫婦で参加し、ママ友や相談相手を作っておく
- 日々のコミュニケーションを大切にする。子どもの成長など、パパに聞いてほしい話題を選んで話すようにする
- 赤ちゃんと親が集まる地域の「子育て広場」にパパと一緒に参加する
- 家事や育児をしたら、パパをほめる
- 実家のサポートや自治体が運営する産後ヘルパーを活用する
産後クライシスになっても、夫婦の話し合いで回避可能!
もし産後クライシスが起こってしまった場合は、どうすればよいのでしょうか。
「産後クライシスに陥っていると夫婦で自覚し、理解し合い、二人で努力するのが肝心です。多くの夫は、妻が育児にストレスを抱えていることに気づいていません。だから『何も言わなくてもそのくらい察してよ!』と心の中で思っても、パパはママがなぜ怒っているのか理解できません。そのため、ママは自分がどう感じていて、何をしてほしいのか、きちんと言葉で伝える必要があります。」
なお、言葉で伝えるときは、あらかじめ自分の気持ちを整理しておくことがポイント。
「怒りだけをぶつけても、根本的な解決には繋がりません。ママ友など気の許せる相手と話したりして、具体的に何がしんどいのか、自分の中で明らかにしてから、パパに自分の気持ちをぶつけて話し合いましょう。」
産後クライシスを乗り越えると、二人の絆はいっそう強くなります。温かい家庭を築くためにも夫婦で力を合わせましょう。